「地域のママが集まりチームに」谷口章子さんが目指す“仕事も育児もシェアする”暮らし

会社員時代に今後のキャリアを見つめ直し、第二子を出産する直前に起業を決めた谷口章子さん。現在は、女性向けコワーキングスペースの運営やスタートアップの業務支援など幅広く活動中です。今年7月には中央区・江東区に住むママたちと、暮らし情報メディア『Co-sodate』を立ち上げました。

すべての活動は、「女性の働く選択肢を増やしたい」という想いが軸に。地域のママたちとチームを組み、ゼロから仕事を生み出している谷口さんに、仕事も育児も豊かに暮らすヒントを伺いました。

自分の「WILL」が見つからずモヤモヤしていた会社員時代

谷口章子さんプロフィール|2017年に起業して茅場町に女性専用コワーキングスペースをオープン。現在複数社の業務支援を行いながら、中央区・江東区に住むママ達と様々な働きかたを実現するための取り組みを行っている。

-起業前に勤めていた会社では、新卒から10年以上勤めていたと伺いました。会社員時代のお仕事について教えてください。

リクルートの住宅サービス部門で8年間営業職を経験したのち、異動した企画部門で長女の産休育休を挟み5年ほど在籍しました。

仕事のスタイルは、お客様にとことん向き合って、目の前のことをただひたすらやり切るタイプ。だから、お客様の顔が直接見えて、役に立てた実感が持てる営業職がとても好きだったんですよね。

一方で、会社の中で自分がやりたいことー「WILL」はずっと見つかりませんでした。半期ごとに提出する目標シートに、WILLを書かなくてはいけないのが毎回めちゃくちゃ嫌で……(笑)。「管理職に昇進したい」とか、会社員としてのありきたりなストーリーしか書けなくて、「これは本当に私が実現したいことなのかな?」とモヤモヤしていましたね。

-「やりたいことがなかった」とは意外です。営業職から企画職に異動されて、心境に変化はありましたか?

異動して、さらに仕事の意義や今後のキャリアプランを見失ってしまいました。自らの行動や提案が結果につながりやすい営業職と違い、自分からなにかを働きかけて成果を感じられる機会がほとんどなくなってしまい、物足りなさを感じるようになったんです。このままでは、心からワクワクする未来は描けないんじゃないかな。長女を出産して復帰してからの1年半ほどは、ずっと「自分が働く意味ってなんだろう」と悩んでいましたね。

娘の一言がきっかけで起業を決意 「仕事を誇れるママでありたい」

ーずっと悩まれていたなかで、退職と起業を決断された経緯をお聞きしたいです。

きっかけは、「笑っているママが好き」という娘の一言でした。

母親になって、「子どもに胸を張って誇れる仕事をしたい」「かっこいいママでありたい」という気持ちが芽生えたんです。今までは目の前のお客さんのためにがんばってきましたが、仕事に対して初めて自分の内側から欲求が出てきたんですよね。

目の前のことをひたすらこなす。時間に追われて、保育園の登園が5分遅れるだけでもイライラ、せかせかしてしまう。今の私は自信を持って「ママはこんな仕事しているよ、楽しいよ!」と言えるのか? と、ずっと心の奥で引っかかっていたんです。娘のその一言で今までのモヤモヤが全部つながって、自分のありたい姿に改めて気づかされました。

ー娘さんの一言で踏ん切りがついたんですね。そして、第二子の産休取得前に長年勤めていた会社を退職されたと。

はい。2016年9月に退職、11月に第二子を産んで、翌年2月に会社を立ち上げて、4月には次男を保育園に預けるようになって。

やると決めたら、ずっと悩んでいた1年半がウソだったみたいにスピーディーに展開していきました。実は、会社は前職のクライアントだった方と一緒に立ち上げたんです。その方から「人生は一度きり」と言ってもらえたのにも背中を押されましたね。

収入や肩書きなどの「安定」をあえて捨てる決断をしたのもよかったかもしれません。ただ、上の子が小学校に入るまでの3~4年以内にはこのくらいの収入を目指そう、ということも同時に決めました。決めたら、あとはやるしかないとふっ切れたのを覚えています。

コワーキングスペースでママに挑戦の場を提供

コワーキングスペースで開催したフリーマーケットの様子。ママが作ったハンドメイドのアクセサリーを販売しました。

ー起業後の2018年10月には、中央区・茅場町に女性専用コワーキングスペースをオープンされました。会社員時代は「WILLがない」とおっしゃっていましたが、この事業にはどんな想いがありましたか?

自分のキャリアを見つめ直したときに、女性は出産や育児でキャリアを諦めたり、子どものお迎えなどで制約がかかったりしてしまうことが多いなと思ったんですよね。

キャリアを諦めずに、柔軟で自分に合った働き方をするにはどうすればいいか。同じ悩みを抱える人同士で集まって、育児も仕事も助け合える場をつくれないだろうか。そう考えたのがはじまりです。

自分の生活圏内でよい物件とのご縁があったので、近くに住むママたちが子どもを連れて働けるコワーキングスペースを立ち上げました。

当初の願いがかなって、徒歩や自転車で行けるような距離に住むママたちとたくさん繋がることができて。そこで、育児でキャリアを断念してしまった人たちに仕事やスキルアップの場をつくっていく活動も始めました。

ー具体的にはどんなことをされたのでしょうか。

最初は、不動産やマネープランなどそれぞれのママが勉強したこと・知っていることをシェアするごはん会をやっていました。子どもたちが遊べるスペースがあると、どの時間帯でも集まりやすいんですよね。

とくに大盛況だったのは、カメラが趣味のママたちが行う写真撮影会。主催してくれたママたちにはきちんと報酬をお支払いして。自分の好きなこと、ちょっと得意なことを提供してもらってお金を得る仕組みをつくりたかったんです。

ー素敵な取り組みですね。仕事から離れているママにとって、自分のできることで報酬を得られる機会はとても励みになったのでは。

イベントでカメラマンを務めてくれたママのなかには、お仕事から10年以上離れている人もいました。社会人としてのブランクがあるゆえに、もう社会には出られないんじゃないか、雇ってくれる会社なんてないんじゃないか、とすっかり自信を失ってしまっている人も多かったです。

でも育児って、優先順位のつけ方やコミュニケーション能力など、かけがえのないスキルを身につけられるんですよね。全然「ブランク」なんかじゃない。実際に、一緒にお仕事をしていても優秀だなと感じるママばかりです。

そんな人たちに「今からでもできるから大丈夫」と声をかけて、最初の一歩をサポートしています。ちょっと勇気を出して、イベントを開いてみる。自分の好きなこと・得意なことを人に教えて、役に立てたという自信がつく。そしてどんどん次のチャレンジをしていく。そんなよいサイクルが回り、楽しんでいるママたちの姿を間近で見られるのが本当に嬉しいですね。

ー今年7月には、中央区・江東区に住むママたちを集めて暮らし情報メディア『Co-sodate』もオープンしましたね。なぜメディアをやろうと思ったのですか?

私が起業を通じて実現したかったのは、「女性の働く選択肢を増やす」ということ。

今までは、コワーキングスペースでのイベント開催や在宅でもできる事務作業などをママたちにお願いしていました。けれど単発の案件がほとんどだったので、もっと継続的でスキルアップにつながるようなお仕事を一緒にやりたかったんですよね。そこで思いついたのが子育てをテーマにしたメディア運営でした。

編集チームとして集まってくれたママたちは、全員がライター未経験。そこから取材したり記事を書いたりするスキルを身に着けていき、WordPressも使えるようになりました。

Co-sodateより

ー新しいスキルが得られると、仕事や働き方の選択肢もぐっと増えますよね。

それぞれが自分の心地よいバランスで働けるといいですよね。会社員だと基本的には「決まった時間に決まった場所で」という働き方になるので、子育て中だと両立が難しい場合もあると思います。

でも、自分が挑戦したいと思ったときが、挑戦するベストなタイミング。「やりたい」と思う今の気持ちを大切にするために、時間や場所にとらわれないで働ける選択肢をつくっていきたいんです。

私は7時半に子どもを預けて、お迎えに行く18時半までに仕事を終わらせるという会社員時代と変わらない働き方が合っているのでそうしています。でもそうじゃないママももちろんいますし、心地よい働き方は自分が決めればいい。自分で選べるようになることが大事だと思っています。

▼Co-sodateのメディアはこちらから

仕事も育児も支え合い、自分らしく働けるママを増やしたい

毎月オンラインで近況報告や目標共有を行っている『Co-sodate』編集チーム。先日は1年ぶりにリアルで集まり会議もしました。

ーコロナをきっかけにリモートワークの普及が進み、職住接近の考えや住んでいる地域との結びつきがますます強まっていくと思います。先駆けて地域の人々と密接に関わってきたなか、心境や価値観に変化はありましたか?

価値観も展望も変わってはいません。むしろ「このままでいい!」と自信が持てました。

私自身が生活圏内での活動に重きを置いているのは、仕事だけでなく、育児も一緒にしていける関係性をつくっていけたらいいなと思ったからです。だからこそ、住んでいる地域内に仕事の拠点を持つことが必須条件でした。自転車で駆けつけられる範囲内であれば、ちょっとしたことでも頼れるし、支え合えますよね。

ー仕事も育児も助け合える関係性は、今の時代にもすごく大切ですよね。谷口さんが描く今後の展望はどのようなものでしょうか。

この先も、自分らしい働き方を選択できる人を増やす、そのきっかけづくりをしていきたいですね。

自分がやりたいこと、実現したいと思ったことを自らの選択や決断でスピーディーに形にしていけるので、起業してよかったなと思います。小回りがきくから、1つの事業を失敗したって辞めればいいだけの話。難しく考えすぎずにとりあえずやってみることで、上手くいくか、自分の感覚が正しいのか、すぐに検証ができるんですよね。

ママが活躍できる機会をつくれるのなら、方法はなんでもよいと思っていて。今はコワーキングスペースやメディア運営をメインにしていますが、考えているアイディアは他にもたくさんあります。

だから、事業の内容には固執しすぎずに、一つひとつ種まきをして芽が出たものをどんどん育てていくつもりです。また、私もママの1人として、人生の様々なタイミングで柔軟に自分らしい選択をしていきたいですね。

ーありがとうございます。最後にMolecule読者へ、ママとして、女性として人生を楽しむためのメッセージをお願いします。

まずは一歩を踏み出してみてほしいです。子育てに追われて、自分のやりたいことを忘れているママも多いと思います。自分自身にちゃんとフォーカスして、少しずつ「好き」や「得意」を見つけて育てていってもらえれば。

それには、「ここに旅行したいな」「こんな家に住みたい」「年収はこれくらいあったらいいな」とか、自分のなかでイメージしやすいことからちょっとずつ考えたり書き出してみたりするのがオススメです。

私も今、会社員時代からは想像もできなかった未来にいます。踏み出さなければ変化は起こらない。「ダメだったらすぐに戻ってくればいい」というくらいの感覚で、ちょっとしたことから始めてみてはいかがでしょうか。ほんの少しの勇気で、何かが確実に変わってくるはずです。