同じ未来を見たいから、伝える。巻き込むコミュニケーション

井上千絵さんサムネイル

子育て中の女性が仕事を続けるのは、カンタンではありません。

Molecule(マレキュール)のファウンダーの一人であり、初代編集長の井上千絵さん(以下、井上さん)自身を取り巻く環境も2018年の立ち上げ当初とは大きく変わりました。

複業会社員から法人の代表者へ。2022年11月には、はじめての著書を上梓しています。小学校低学年の子を持つ母でありながら、なぜそこまでエネルギッシュに活動できるのでしょうか?

井上さんが何気なくやっている「人を巻き込むコミュニケーション」のコツに迫ります。
井上千絵さんプロフィール

「自分だけ」をやめた、はじめてのチームワーク

「昔はチームワークが得意ではありませんでした。」

かつて報道記者だった井上さん。その頃に考えていたのは、個人の成果でした。ニュースを伝える記者にとって、仕事の成果と自分の名前は一致しているからです。

それはその後いくつかの職に就いても同じでした。変化が訪れたのは、社会人大学院時代のこと。グループワーク中心だったので、「それぞれの強みはどこにあるんだろう?」と考えることが増えました。
大学院で勉強する井上千絵さん
当時、井上さんのお子さんは10カ月。小さな子どもを抱えながら研究するには、さまざまな制約がありました。

お迎えのため早く帰った井上さんに対して、夜遅くまで残っていた他のメンバー。申し訳なさを感じつつも、少しずつ「限られた時間の中で、メンバーに貢献するには?」と模索するようになったといいます。

「思考がシフトしました。それまでは何でも自分だけでやろうとしていましたが、チームでやろうという発想になりましたね。」

複業会社員を卒業し法人代表者となってから、井上さんのチームワークを大切にする気持ちはさらに深まりました。

「いまは私と会社は人格が別だと思っています。たとえるなら会社は、みんなで作る家のような感じ。私もパーツのひとつです。」

お互いの興味を共有するコミュニケーション

仕事をやり遂げるにはそのための経験やスキルはもちろんですが、それ以上に大切なことがあります。

それはパートナーなどの家族の理解です。実際「なんだか自分だけが頑張っているような気がする」「仕事も家のことも中途半端になっている」とフラストレーションを抱えるMolecule読者もいらっしゃるのではないでしょうか。

1日のうち井上さんがご主人と直接話をするのは1日1時間ほど。ところが、会話はそれだけではないようです。その日の予定だけでなく、仕事やその他の興味のあることについて、毎日LINEしているといいます。

「仕事の話はよくしますよ。夫は管理職なので、マネジメントの話とか次のポジションに向けての話。それから、いま夫は動画製作に興味があるので、動画系のイベントをシェアしています。」

パートナーとの共通の話題は、子どものことや週末の予定くらい。という方もいらっしゃるかもしれません。離れていても相手が興味のあることを話題にするなんてステキですね。

そのようなご主人との関係は、もとからなのでしょうか。

「お互い会社員のときはそこまで話はしていなかったように思います。やはり、独立してからですね。自分でつくっていかなくてはいけない未来があるので、出てくる話があるのかもしれません。いま、こういうことをしていて、これからこんなことをしていきたいという話もよくしています。理解を得ないとできないと感じているので、知ってもらうために話していますね。」

わかってもらいたいから話します

井上千絵さんと家族趣味はアウトドアという千絵さん。キャンプにもよく行くそう

コミュニケーションを増やせば理解は得られるのでしょうか。井上さんいわく、パートナーの理解を得るコツは、相談というプロセスを踏むこと。

すでにやると決めていることでも、話をすることで「一緒に決めた」感覚をつくることが大事だと話します。

仲がいい間柄でも、最初はお互い知らない時間や空間をたくさん持っているものです。ところが一緒に生活すると、次の人生の決断に家族が関わってくるときが増えていきます。

井上さんにとっての人生に関わる選択は、ご主人がベンチャー企業に転職したときや、井上さん自身が会社員を辞め社会人大学院に行くことを決めたときだったと振り返りました。

家族を巻き込むときが増えていけばいくほど、相談は自然と増えていくのかもしれません。

どんな接点を持てるかを考える

井上千絵さんと家族
仕事を広げるには関係者とのコミュニケーションも欠かせません。井上さんが代表を務めるハッシン会議には社員のほか、何人ものメンバーが関わっています。

コミュニケーションの中心はオンラインです。Slackなどのコミュニケーションツールを活用するのはもちろんのこと、リモートならではの心がけがあるといいます。

「言葉の響きはいいですがフルリモートはつながるのも、切れるのもカンタンだと思っています。毎日会っている人なら物理的に離れる難しさもありますが、オンラインだと”これをやってください””わかりました”以上に広げるのは難しいですよね。

なので、社員や一部のメンバーとは定期的に1on1の時間をとるようにしています。これまでの振り返りと、これからどうしていきたいのか。それに対して何ができるのか。その接点を、月に一度は考える時間を作っています。」

未来を語るから、巻き込まれる人がいる


以前はチームワークが苦手だったという井上さんですが、いまは多くの人を巻き込みながら前に進んでいます。

どんな接点を作れるかを考える。これは井上さんのスタイルです。仕事だけの付き合いではなく、なんらかの形で関わっていたいと思ってもらえるように試行錯誤しています。

「自分ひとりでできることは限られています。ひとりでできない未来を実現したい。それはきっと関わってくれる人も同じだと思います。自分のネットワークでは出会えなかった人と出会えるとか、仕事ができるとか。

思い描く未来に近づくには、当事者の”熱”が必要です。それは自分自身が熱狂しているものを、自分の言葉で語ることからはじまります。”やったー!”だけでもいいと思うんです。当面のゴールはそこにあります。そこにたどり着いたら、次の目標が見えてくるかもしれません。」

井上さんは決して多くを語る女性ではありません。しかし、その内側には静かな熱を感じます。

同じ未来を見るために、伝える。未来を語るから、巻き込まれる人がいる。

逆に言えば、理解してもらいたいと思うなら、自分の言葉で伝えなければならないということでもあります。それは仕事に限らず、プライベートも同じではないでしょうか。

仕事もプライベートの充実も、わかってくれる人や、共感してくれる人を大切にすることからはじまるのかもしれません。

ひとりでは描けない未来に、一緒にたどり着くために。これからも井上さんの試行錯誤は続きます。

編集後記

「いつの間に仕事しているんだろう?」井上さんを知る人なら、そう思っている人は少なくないのではないでしょうか。しかも、ひとりではありません。仲間を作り、思い描く未来に向かっています。

どうして井上さんには、それができるんだろう?と思ったことがお話をうかがうきっかけでした。

印象的だったのは、ご主人とLINEでこまめにやりとりしているというエピソードです。

周囲が「わかってくれない」と悩む前に、自分が相手に興味を持っているか。

まずは、そこからはじまるのかもしれませんね!