コロナ禍で急増する「産後うつ」に立ち向かう 世界中どこでも、全ての女性が安心して妊娠・出産・育児ができる社会へ|じょさんしONLINE代表 杉浦加菜子さん

今回お話を伺ったのは、助産師で愛知県在住の杉浦加菜子さん。東京の産院でキャリアを積まれた後、ご主人の転勤の都合でオランダへ。慣れない異国での育児、第二子妊娠・出産を経験したことで、育児の孤独・不安を抱える女性たちへのサポート体制に課題を持ち始めたことから、ママたちの産前からのオンラインサポートのプラットホーム「じょさんしONLINE」の事業をスタートしました。さらに今、コロナ禍で4人に1人が産後うつを発症しているデータもある中、杉浦さんはますます危機感を強め、あるプロジェクトを立ち上げました。杉浦さんがママたちに今、届けたいメッセージを取材しました。

助産師で一児の母 それでも異国での第二子出産に不安と孤独があった

オランダの助産師たちの仕事の仕方を体験できた現地での貴重な出産経験

―長女を連れてオランダに帯同されたということで、言語や慣れない習慣の中で苦労されたと思います。海外での暮らし、その中での第二子出産はいかがでしたか?

結婚して、いつか転勤があることは分かっていましたし、自分も小さい頃海外に暮らしていたので、抵抗はありませんでした。それでも最初の半年は「自分が守らなきゃ!」という意識で、奮闘していたと思います。長女は当時9ヶ月でしたが、予防接種の混合も違うので、同じものを何度も摂取することになったりして、不安や戸惑いは常にありました。

―自身もプロの助産師として、オランダの助産師や国のシステムの違いについて気が付いたことを教えてください。

オランダの助産師たちは自立しているな、と思いました。自分たちの意見をしっかり持っています。ランダでは、助産院に通うのが一般的で、私も結局一度も産婦人科医にかかることはなかったほどです新型出生前診断にかかる場合も、お世話になるのは検査技師さんで、お医者さんではありません。

ということは、妊娠に気がついたら、まず行くところも、産婦人科医ではなく助産院なんですね。

その通りです。初診もそこで行われます。助産師の経験値も日本とかなり違いがあります。通常日本では出産を10例ほど扱う経験すると、資格を取る権利が取得できるのですが、オランダでは最低60例こなしてなくてはなりません。知り合った方には、学生さんでも100件以上の立ち会い経験があるという方もいらっしゃいました。資格を取ったらすぐに、1人で自宅出産も立ち会えるくらいの経験を積んでいるのです。

オランダでは4割以上が、助産師立ち会いのもと、自宅で出産します。病院で産んだとしても、順調なら数時間後には退院させられてしまうので、それなら逆に自宅で産んだほうが楽という考え方もできます。

異なる習慣と文化の中、「一般的」でない選択に迫られる日常

オランダにて長女と

どのやり方でも正解はなく、それは個人個人が決めればいいと思いますが、海外にいると、どちらのやり方を倣おうか、迷う場面も出てきます。例えば、同じ日本人ママでも、国際結婚カップルか駐在家族かで、悩みは違ってきます。

ずっとこちらに住む気で子育てもこちらなら、選択もしやすくなるかもしれないけれど、私はいつか日本に帰る身。「もうそちらにいるんだから、そちらのやり方でどうぞ」みたいな日本側の対応もあったり、あくまでも「一般的な」情報やサポートしかない中、そこに当てはまれない私たちは、孤独を感じました。

周りの日本人ママたちも、現地の助産師さんたちから、言語や文化の違いから、見当違いのアドバイスをされて悩んでいる方がいらっしゃいました。そんな中で自分ができることは、なんだろうと思い始めて。

そんな中、オランダ語でマタニティヨガをするのが抵抗があるという声を聞き、マタニティヨガ講座を始めました。自分もオランダに慣れてきた頃でしたし、出産や育児のアドバイスなんかも含めて、一年間くらい、周りのママたちをサポートしていました。

そして第二子出産後、わずか3週間で本帰国されたんですね。

タイミングは本意ではありませんでしたが、無事帰国し、日本での生活を再スタートしました。そうしてしばらくして、「そう言えば、あの方達(現地の日本人ママ)今どうしてるかな」と思い始めたんです。

あの時は近くにいたのでサポートできたけど、今こうやって離れてしまって、心配だなと。そして、自分自身も自分の意思とは関係なく、産む場所、育てる場所が決まってしまった。「どうやったら、世界のいろんなところにいるママたちをサポートできるんだろう」と思った時に、オンラインという手段を思いついたのです。

オンラインという形で、どのくらいの人のお手伝いができるか検証するために、まずは私1人で、100名の方に無料で、アドバイスやマタニティヨガをご提供したのです。

その後確かな手応えを感じ、翌年の2020年、知り合いの助産師5名で始動したのです。そして間もなく新型コロナウィルスの流行が始まってしまいました。

コロナ禍で立ち上げた助産師200人によるオンラインでのサポートプロジェクト

オンラインだからこそ出来る、繋がり方も、サポートもあります。特に海外に住まわれている相談者をリアルタイムでサポートできるのも、オンラインの強み。

―あるデータでは、2020年のコロナ禍で4人に1人が産後うつを発症と言われていますね。*

はい。もともとこの活動を始めたのは、ママ達の不安を軽減して安心してもらえることで、産後うつや虐待を減らしたい、という想いだったのに、コロナによってもっと悪化させてしまうかもしれない、という状況になって、いてもたってもいられなくなりました。当初のミッションである「世界中どこにいても」を実現するのは私たち5人じゃ足りないと。

同時に、助産師にとってもコロナの影響で、直接、母親達と会ってサポートするというのが難しくなっていました。じゃあみんなで何かできないか、とFacebookで他の助産師さん達を募集しました。反響は想像以上に大きく、投稿後2時間で60名ほどの助産婦さんが集まり、合計200名ほどの助産師が集まってくれました。

投稿した日の夜緊急オンラインミーティングを開いて、1週間後、まずは「緊急企画オンライン両親学級+児童館」80クラス無料で提供しよう、ということになりました。世界中の助産師達がそれぞれシェアしたり、プレスリリースを出してくれて、40以上のメディアに取り上げていただけました。結果1445組のご家庭にサポートを届けることができたのです。

「このまま孤独の中にいたら手をあげそうになっていた」「息が詰まってどうなっていたかわからない」、中には「ここに出会っていなかったら私は死を選んでいたかもしれない」という方もいらっしゃいます。

―「世界中どこでも」とありますが、海外在住ママ達はどのくらいの割合でいらっしゃいますか?

三分の一ほどです。共通のお悩みも多いですが、国際結婚されているかたなどは、例えばお子さんの言語の発達のスピードだったり、日本人であれば、現地の子に比べて体の発達が遅い、もしくは離乳食の習慣の違いなどのご相談が多いです。

ー海外、特に欧州では助産師による産前産後のケアも保険や国が提供してくれますが、日本の状況はいかがですか?助産師さんを取り巻く状況も含めて教えてください

自治体にもよりますが、助産師による産後のサポートは、支援がない場合がほとんどです。私たちの活動も、経済的なハードルが無いわけではないと思うので、母親や子育て世帯への支援が増えといいな、と思います。

実は日本には七万人ほど助産師の資格保持者がいると言われているのですが、その半分は現場を離れている状態です。日本の助産師の勤務先の9割以上は病院で、働き方の負担が大きかったり、違う部署に回され、看護師として勤務されることを求められたりする場合が多いのです。そのため、特に子供が生まれた後などは、復帰で来る仕事環境が整っておらず、復帰へのハードルが高くなっています。

「あなたの感情は間違っていないから否定しなくていい」 大切なのは声をあげること

子育てを支えられれば、産後うつも虐待も減らしていける!じょさんしonlineのチームには多くの助産師さんが登録・活躍されています。

―あえて皆さまに今アドバイスできることがあるとすれば、何ですか。

出産や育児に対する情報はたくさんありますが、残念ながら今の日本では、自分の生き方を選択したり、自分で意見を言う環境が与えられていないことが多いと思います。「人と一緒」とか「一般的」な枠から外れてしまった時、どうしたら良いのかわからなくなってしまう時もあるかもしれません。

でも、自分が思うこと全て、間違っていることなんて一つもないのです。否定せずに、受け止めてあげてください。その悩みや不安を、受け入れて力になってくれる誰かや場所は、きっと見つかりますから、まずは声をあげてください、と言いたいです。

コロナ禍で妊娠・出産される方へ

いつ終わるか分からない、先行きの見えない状況に不安になることがあるかもしれません。たった1人で小さな責任に押しつぶされそうになることもあるかもしれません。でも、これだけは絶対にお伝えしたい。絶対にあなたを1人にしたくはない!そう思っている人がいることを。それはご家族であったり、友人だったり、助産師や子育て支援者の方たちでもあります。母親も1人の人間です。出産したらいきなり母親になれるわけじゃないです。できなくて当然。頼って甘えて当然です。この時期に生まれてくる子たちには、生き抜く力があります。私はそう感じています。自分のお腹の中で育ち、無事出産したことを、誇りに思って下さいね。

▼じょさんしONLINEの詳細はこちら
https://josanshi-cafe.com

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*引用元
「産後うつ」はコロナ禍で4人に1人が発症、自覚なしで進む怖さ
https://diamond.jp/articles/-/253384?page=2
産後うつのリスク、コロナ禍で「倍増・長期化」の調査結果。
https://news.yahoo.co.jp/articles/27d2384efd18a1dee86186097bf1db28446af651

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