コロナ禍の多忙在宅ワークで仕事優先の価値観をシフト 靴下ブランド「aligato socks」を起業

産後にMBAを取得し、コロナ禍まっただ中の2020年夏、靴下ブランド『aligato socks(ありがとうソックス)』を立ち上げた香月美蘭(かつき・みらん)さん。生まれ育った中国から日本への留学、アパレル・IT企業での社会人経験を経て、高校時代からの「経営者になりたい」という夢を実現しました。

持ち前の好奇心と行動力でキャリアを切り拓いてきた香月さんですが、起業に踏み切るまでには「失敗したらどうしよう」「子どもと夫に迷惑をかけたらどうしよう」と葛藤もしたと言います。不安とどう向き合い、アクションを起こしていったのか。家庭もキャリアも諦めたくない、そんな“私”らしい人生を描くためのヒントを聞きました。

“心が動くまま”に積み重ねてきたキャリア

香月美蘭さん|YOUMORE株式会社 代表。中国から日本の大学へ留学し、就職後はアパレル業界で店舗マネジメント、IT業界で人事や人材開発に従事。育休中にビジネススクールへ通学し、MBA取得。2020年3月に創業。

ー日本への留学のきっかけをお聞きしたいです。

高校生のころによく読んでいた雑誌で日本のファッションに触れ、「すごくおしゃれだな」と興味を持っていて。経営者だった母親の影響もあり、大好きなファッションの分野でいつかは起業したいとも考えていたんですよね。それで日本の大学に進学を決めました。

ー留学当初から、日本で起業しようと決めていたんですか?

その時点では、まだ日本か中国のどちらに軸を置くかは決めていませんでした。でも大学卒業後の進路を考えたとき、やはり日本のファッション業界を学びたい気持ちが強く、新卒で大手アパレル小売企業に入社したんです。そこで店長として店舗のマネジメントや、海外出店などを経験しました。その後は人材開発にも興味を持ち、IT業界へ転職して組織や経営に近い職種へとキャリアをシフトさせていったんです。

ーアパレルで起業を考えていたなか、なぜIT業界へキャリアチェンジされたのですか?

最新のテクノロジーに囲まれているIT業界は、どんなふうに人事・組織・経営をシステム化しているんだろう? と気になって。アパレル業界はアナログな業務フローがまだまだ残っていて、非効率な部分も多いと感じていたんですよね。いつか起業したときに、全く違う業界の仕組みを知っておくことはプラスにもなると思いました。

ーここまでお話を聞いていると、「アパレルの分野で起業をする」という夢に向かって、とても戦略的にキャリアを描いてきたように思えます。

自分のキャリアを人に説明すると、よくそう言ってもらえます。でも振り返ってみると、私としてはそのときベストだと思える選択をしてきただけなんですよね。正直、「IT業界がなんだか気になる!」くらいの気持ちで、興味を持ったらパッと行動してしまったんです(笑)。

戦略というよりは、好奇心。自分の心が動くままにキャリアを積み重ねていったからこそ、今の私があるのかなと思います。

「経営者」になる夢を叶えたい 産後にMBA取得を決意

ー素直に、好奇心の赴くままにキャリアを歩んでこられた香月さんですが、起業をされる際もポジティブな気持ちで順調に進んでいったのでしょうか?

それが、経営者への夢が膨らむ一方でどこか漠然とした不安も抱えていましたね。現実問題、まずは子どもを育てないといけないし、お金も必要ですし。「もし家族に迷惑をかけてしまったらどうしよう」と、ライフステージが進むにつれ、不安要素が増えていく感覚があったんです。

ー失敗を恐れる気持ちが生まれてしまっていたと。

起業への道に進むことをためらってモヤモヤしていたときに、社内研修で「ロジカルシンキング」の講座と出会いました。ロジカルシンキングとは、イシュー(課題)に対して、論理的に分析して解決策を導き出す思考法のこと。受講後に、学んだことを活かして「私はなぜ起業に踏み出せないのか」についても考えてみたんです。

ーなるほど、ご自身の不安をイシューと捉えて、ロジカルに分析してみたんですね。どうでしたか?

私の「不安」は、進むべき道が見えていないことが原因で生まれているのではないかと気づいたんです。アパレルで起業したいと考えているものの、具体的な商材、販路、販売方法など何も具体的に計画ができていなかったと。さらに、どうしてできていなかったのかを深掘りすると、そもそも計画の立て方や起業のノウハウを知らなかったからだという結論に至りました。そこまでわかれば、あとは行動をするだけ。夢を実現するために、ビジネススクールでMBAを学ぼうと決めました。

ー何が不安の原因なのかを特定して、夢を叶えるための道筋を明らかにしていったのですね。すごいです。

結局、何をやるべきかが見えないから不安になるんですよね。知らない道を進むのは怖いけど、通い慣れた道なら迷わずに歩けるはず。「次の角を曲がったら、行き止まりかもしれない」などと、心配事が多くなればなるほど踏み出せなくなるので、一つひとつ気になることを分析していんです。不安の原因を明らかにしていき、今後の進むべき道を描けたことで「やっぱり、やってみたい!」という純粋な気持ちと向き合えるようになりました。

ー起業にあたり、家族に迷惑をかけてしまわないか不安もあったとお聞きしました。ビジネススクールに通うと決めてから、旦那さんとはどのように話し合われましたか?

単刀直入に、「起業をしたいけど知識がなくて不安なので、経営を学びに行きたい」と伝えましたね。3年前の当時にもオンライン授業が充実していたスクールを選んだり、育児分担を決めたりと、いつもの生活と勉強を両立するためにできる限りの準備と工夫をしました。

平日は、夫の帰宅後に子どもの寝かしつけをお願いしてオンラインで授業を受講。週末は、土日のどちらか1日まるっと自由時間をもらって通学し、課題をこなしていましたね。当時は2度目の育休中でしたが、それでも子どもを育てながら勉強するとなるとパートナーの理解を得ることは欠かせません。協力してくれた夫には本当に感謝しています。

コロナ禍で育児と仕事のバランスが崩れ、人生の優先順位を見つめ直す

ー旦那さんの協力を得て、無事にビジネススクール卒業と復職を果たされました。そんなタイミングでのコロナ禍。どのように過ごされていましたか?

去年4月の緊急事態宣言中は、ひとりで小学生の長男と2歳の次男の世話をしながら在宅勤務をすることに。想像を絶するハードワークでしたね。

自分が立てた企画をプレゼンする重要なオンライン会議の日には、事前に子どもたちに「ゲームもYouTubeも好きなだけやっていいからね!」とiPadを渡し、できる限りの体制を整えて臨みました。

ところが次男がうんちを漏らしてしまって、肝心のプレゼン中にオムツを替えざるを得なくなってしまい……。私ひとりが仕事で大変なのはまだいいんですけど、自分のせいでチーム全体の業務を止めてしまったり、中断させたりしてしまうことがすごく申し訳なかったですね。

また、子どもを見ながら仕事をしているとタイトな納期になかなか対応しきれません。これまで努力して育児も仕事も勉強もがんばってきたのに、今の私はすべてが0点の状態だと感じてしまいました。子どもが泣いてもすぐに駆けつけられない、仕事にも追いつけない。「これって、幸せ?」と、目の前が真っ暗になってしまったんです。

ー想像するだけで目が回りそうです……。そのとき、どうやって乗り越えたのでしょうか。

今までは、人生において全ての役割やタスクをがんばることが自分の幸せだと思っていました。だけど現状を冷静に見つめたときに、今の自分にはこの生活はもうキャパオーバーなのだと悟りました。そこで当時の上司に休暇を申し出て、これからのことを考え直す時間をつくったんです。

ー今、自分に起こっている状況を受け止めて、見つめ直すことにしたんですね。

はい。休暇期間中に、「今、大事にしたいことは何なのか」「自分にできることはどんなことで、溢れてしまう部分はどう対応するべきなのか」を着々と考えて整理していきました。そのとき初めて、欲張りはやめて優先順位をつけようというマインドに切り替えたんです。

今、私が大事にしたいこと。それは、「ママ」である時間でした。子どもたちはまだ精神的にも物理的にも親のサポートを必要としている時期。ほかに替えが利かない親という役割を最優先にしようとに決めました。

テレビをつければ、毎日ニュースでコロナ禍の不穏な状況や感染者数が報道されていた当時。長男がある日ふと、「僕がママをコロナから守ってあげるね」って言い出したんですよ。その言葉を聞いて、子どもにこそケアが必要だと痛感しましたね。

「自分には何が大切か」選ぶことで、キャリアは拓ける

ーコロナ禍で起こった生活の変化により人生の優先順位を見つめ直し、ついに起業も果たしました。

育児時間をどうやって捻出するか考えた結果、自由に仕事の時間を調整できるようにと、このタイミングでの起業を選択しました。小学生1年生の長男は帰宅時間が早く、さらに宿題などのフォローも必要だったので。

コロナという、思いもよらない出来事によって自分を取り巻く環境に変化がもたらされました。そんな状況において経営者になるという夢を前倒しで実現できたのは、「自分にとって何が大切なのか」を選ぶと決めたことが大きかったと思います。

ー自分にとって大事にしたいことを見極める重要性が、香月さんのお話から伝わってきます。アパレル商材の中でも靴下を選んだのはどんな理由だったのでしょうか?

単純に、靴下が好きなんです。派手な色の洋服を選びにくいと感じる人は多いですが、足元なら好きな色を身に着けやすいですよね。

私は足のサイズが女性の平均より大きめで、市販でなかなかフィットする靴下を見つけられないことをネックに感じていました。同じような悩みを持つ人に向けて、あらゆるサイズや形にフィットするような履き心地の商品をつくれたらいいんじゃないかと考えて。そして完成したのが『aligato socks』です。

鮮やかなカラーバリエーションが印象的な『aligato socks』。一般的な靴下にあるカカトの部分をなくしたことでサイズフリーを実現しました。

ー発色がキレイで素敵ですね!

完成するまでには製造を引き受けてくれる工場探しなどさまざまな困難が発生したのですが、ベースに「好き」があったので乗り越えられました。自分の事業に情熱を注ぎ続けられるかという観点で考えたとき、大好きなアパレル商材で起業したのが私にとってはやはりよかったですね。お客様に好みの色、フィット感や素材を見つけてもらうことで、毎日を足元から支えたいなと思っています。

ーありがとうございます。香月さんのお話から、たくさんの勇気がもらえました。最後に、育児と仕事の両立に悩むことも多いMolecule(マレキュール)読者にメッセージをお願いします。

私は「夢に挑戦しながら、育児との両立を実現する」道を選びました。今、何を選べば自分の人生を充実させることができるのか。ときに心の動くまま、ときに不安ととことん向き合って分析してみると、自分が進んでいきたい道がきっと見つかると思います。

 

 

alogato socks公式サイトはこちら

https://aligatosocks.com/