脱・ワーキングマザー それがわたしの生きる道 vol.2 | Nao Terashima さん

写真は、ご家族(ご主人・6歳の長女)と南アフリカの隣の国、ナミビアにある赤の砂漠に行った時のもの。

駐在妻として南アフリカ・ヨハネスブルグ在住のNao Terashimaさん。大学卒業後に弁護士としてのキャリアをスタートし、結婚・NY留学を経て国際的な弁護士としての活躍が期待される中、夫の海外駐在をきっかけに専業主婦としての道に転身しました。「キャリア断絶?」「私っていったいなんだろう?」出産や思いがけない家族の転勤などのライフイベントに悩む【Molecule(マレキュール)】読者も多いのではないでしょうか。Naoさんはいわゆる“バリキャリ”の生活を意思を持っていったん手放し、専業主婦としての「今」を前向きに生きています。そんなNaoさんから、専業主婦・駐在妻を通して得られた仕事には変えられない体験と、これからのキャリアについて、伺ってみました。

国際弁護士としてのキャリア開花中に選択した専業主婦(駐在妻)への道

−Naoさんは現在、ご主人の駐在帯同で南アフリカで生活しているのですね。弁護士としてのキャリアを積み、アメリカのロースクールを卒業した直後の駐在スタートだったとか。

はい。夫の駐在帯同で、現在は南アフリカのヨハネスブルグに住んでいます。その前は2013年からオランダのアムステルダムに駐在していて、現在駐在歴7年目です。

弁護士としてのキャリアは、2004年に東京でスタートしました。その後、夫と結婚して、翌年にNYのコロンビア大学ロースクールに進学しました。夫を置いて単身で渡米し、勉強一色の毎日を過ごしていました。

NYでの司法試験にも合格して帰国してからは、いったん仕事に戻ったのですが、2012年に夫の駐在が決まり、と同時に、妊娠も発覚しまして・・・そのタイミングで仕事をいったん辞めることを決心しました。そして夫が先にアムステルダムに渡り、私は日本で出産をしてから娘が生後3ヶ月の時に渡航しました。それから現在まで、駐在先で専業主婦として暮らしてしています。

−国際的な弁護士から専業主婦へ・・・さらなるプロフェッショナルとして飛躍していこう!という時に、自ら仕事を断ったということですよね?ものすごく大きな決断だったと思うのですが、どのような思いだったのでしょうか?

最初はもちろん、努力して得てきた仕事から離れることに対して、不安や危機感はありました。・・・ただ、士業という確固たる資格を持っていることで、「きっとまたいつか仕事には戻れるだろう」という確信というか、甘えもありました。それが心の拠り所となって、正直そこまで不安が深くなることもなかったんですよ。

実は、ロースクールに留学していた時に、同級生の奥さんで駐在妻としてNYに来ている皆さんがとても楽しそうな様子を見ていたので、「駐在妻になるのもいいなあ」なんて妄想もしていたのです(笑)。「うらやましいなあ〜」って思って見ていたんですよ。だから、突然の専業主婦への転身でしたが、実は出だしはポジティブ。かなり前向きに考えていましたよ。意外ですか?

オランダ駐在時代に訪れたチューリップ畑で。Naoさんの娘さんとご主人。

専業主婦を「選択」することの意味とわたしのキャリア

−意外です!バリバリ働いていた方が、家族の転勤や駐在でキャリア断絶に苦しんでいるというお話、私も上海にいる駐在妻の方やキャリア相談を受けた方からよく聞くので・・・。それで、専業主婦・駐在妻を経験してみてどうでしたか?

それが、本当に貴重な経験をできて、今とっても幸せです!まず、子どもと毎日どっぷり一緒にいられること。これは日本ではできなかったと思います。おそらく、共働きで育児をしていたと思うので・・・。

駐在って終わりはハッキリしていなくとも、いずれ帰国するから「期間限定」じゃないですか。その期間、特に子どもが0歳〜6歳という小さい時期に、十分に子どもに寄り添えることで、子どもの成長を日々味わえるという幸せを感じています。

娘がヴァイオリンを習っていて、毎日1時間程度家で練習を見てあげているのですが、その中でどんなに親子で衝突しても、最終的には「ママに隣に座っていてほしい」と信頼してくれているんです。そして難しい曲を上手に弾けた時は幼いながらに達成感のあるいい顔をしていて・・・。その姿を時間をかけて見られることが、本当に嬉しいんです。

−娘さんとの信頼関係を築く大事な時間を過ごせているのですね。ステキです!

他にも、専業主婦だからこその、たくさんの貴重な経験をさせてもらっています。娘は去年の12月まで、現地のPre-Primary School(日本でいう幼稚園)に通っていたのですがて、そこで1年間、「クラスマム」というPTA役員の仕事をさせていただきました。

学校からのNewsletterに書いてあるお知らせを、さらにクラスの父兄のWhatsAppグループ(LINEのグループチャットみたいなもの)に送って、翌日のイベント、持ち物、提出物などのリマインドをしたり、遠足の引率をしたりするんです。

去年の11月のほぼ1か月間は、朝のお見送りの後など、毎日学校に数時間滞在して、恵まれない家庭の子どもたちが通う学校にクリスマスプレゼントを贈る「Love Box」というプロジェクトも手伝いました。一人ひとりのお子さんのためにカスタマイズしたギフトボックスを何十個もつくったので、かなりハードな作業でした。

「クラスマム」の役割としてWhatsAppに送ったメッセージ。一年間通してほぼ毎日、Naoさんが英語で文面を考えて送信してきたそう。「コミュニケーションスタイルや文化の違うママたちにどうやって伝えるか、毎回かなり頭を使う作業でした」とNaoさん。

たとえば、WhatsAppにメッセージを送る作業ひとつでも、文化の違いやバックグラウンドの違い、価値観の違いを理解して、良好なコミュニケーションをどうやってしていくか?と、毎日苦戦するわけですよ。日本にいたら「え、なんでそんなことで?」と思うくらいのちょっとした言葉のやりとりで、ママ同士で誤解が生まれたこともあって、それを解決するのもひと苦労したんです。

英語も私が今まで勉強していたのは、ビジネスで使える英語ばかりだったから、子育てや学校の中で使う英語はまた違うんですよね。すべて一からのスタート、一からの挑戦という感覚でした。だから、とてもプライスレスな経験をさせてもらったなと実感しています。

Naoさんの娘さんのPre-Primary School卒業式の写真。今年1月から、Preparatory Schoolの1年生(小学1年生)に進級したそうです。

そして良かったのが、これが娘への教育にも役に立ったことです。当然ながら学校への滞在時間も長くなり、子どもたちと触れ合ったり、担任の先生や校長先生とお話しする機会も増えるので、娘の学校での様子がとてもよくわかりましたし、また、たとえば、娘がお友だち同士のやりとりや、身近な出来事で「なぜ?」に触れた時は、「ここがチャンス!」と思って、文化の違いや考え方の違い、歴史や宗教のことなどを6歳児でもわかるように説明するようにしています。

ヨハネスブルグは、本当に様々な人種や民族が共存する、世界地図がそのまま縮小されたような場所。そのど真ん中に放り込まれて、親子共々、日本で共働き家庭でいたら絶対にできなかっただろう体験と学びを得ているな〜と、骨身に沁みて感じています。

−それは貴重な財産になりそうですね!専業主婦も、様々な場で大きな仕事やその価値を体験をすることができますよね!

はい、本当に私たちの世界観やものの見方が変わる体験をすることができました。この体験があるからこそ、どこへ行ってもきっと、次のキャリアに生かせることがたくさんあると思っています。

−それはたとえば、どんなことですか?

たとえば、WhatsAppの件で学んだように、どんな複雑な人間関係や利害関係の壁に出会ったとしても、それを丁寧に解きほぐして、人と前向きに交流していくことができると、自信を持てるようになりました。

だから、仕事やプライベートのどんな場面でも、良好な人間関係を構築していけるんじゃないかなあと思います。娘も、現地では外国人として異文化が絡まる世界が当たり前の中で暮らしているので、きっと、物事をフラットに広い視点で見ることができるようになると思います。

だから、毎日貪欲!ここで得られるものは得て帰らないともったいない!という気持ちでいろいろトライしています。

「Love Box 」プロジェクトの活動の様子。Naoさんの娘さんが通うPre-Primary Schoolの子どもたちも、家でお手伝いをして稼いだお小遣いを寄付してくれたり、箱詰めを手伝ってくれたりしたそうです。南アフリカでは、まだまだ経済格差が激しく、小さい頃から親子でボランティア活動をしながら学びを得ていく経験は、「他の国ではなかなかできないことなので、苦労してでも最後までやってよかった」とNaoさん。

−なるほど!仕事においても生活においても、すべて人間関係は重要課題ですよね。良い経験を生かしていけそうですね!これから本帰国を見据えて、どのようなキャリアを考えていますか?

東京に戻ったら、もちろん仕事を再開したいなと思っています。今は夫の会社派遣の駐在員の身なので諸々補助もあり、私が仕事をしなくてもありがたく暮らせていますが、戻ったら、経済的な事情も含めて、共働きは必須です。

子どもも大きくなりますし、私自身がやりたいことをしたいという思いもあります。

ただやっぱり、複雑な混じり合った感情・・・。仕事に戻れる日は楽しみだし、いつまでもここにいてはいけないとは思うけれど、今の環境を離れるのが寂しくなりそうです。

南アフリカは、オランダよりも日本から遠くなりますし、治安の面での不安もあって、実は最初は行くのが嫌だったのですが、ここまでせっかく自分なりに苦労して人間関係や生活スタイルを整えて、充実する環境をつくりあげたので、そこから離れるのは想像するだけで辛いです。

そう思えるくらいに海外での生活環境が想像以上に良かったので、海外で仕事をするという選択肢も、実は考えているんですよ!特にオランダは、世界でいちばん子どもに優しい国だなと思うくらい、子育てや教育の環境も生活環境もとても良かったので、ベースをオランダに移して仕事ができるなら、弁護士の仕事じゃなくてもいいや、と思えるくらいです(笑)。

日本で仕事を続けていたら、出会えなかった発想ですね。それほど、海外で専業主婦をするという機会が私にもたらした影響は絶大でした!

突然のライフイベントへの直面から、ポジティブに生きる秘訣

−そうなんですね!お話を伺って、Naoさんはこれまでのキャリアや生活の変化に対して、とてもポジティブに向き合っていらっしゃるな〜と感じました。Naoさんと同じように、思いがけない家族の転勤や、出産・育児などのライフイベントに直面したり、専業主婦として生きることに悩む女性へメッセージをいただけますか?

全体としてはとてもポジティブに見える私ですが、悩んだりすることなどないか、というと、そんなことは全くないんですよ。娘との日々の接し方、いつかは復帰するであろう仕事のこと、転勤族がゆえに、毎度新しい土地で人間関係や生活スタイルを整えて、充実する環境を作りあげたとしても、数年後にはそれらを全て手放して、また別の新しい土地でゼロから作り直さなければならないこと、などなど・・・悩みはつきません。

でも、そんな風に悩んでしまったとき、私が立ち返る原点はいつも一つ。常に根底にある「今しかできないことをとことんやろう」というスタンスです。これが私の中で1つの軸になって、今までの人生の中での大きな選択をしてきているので、今の自分は、その選択の結果としてあるわけです。そうだとしたら、今自分が置かれている状況は、責任を持って受け入れないといけないですよね。

「今しかできないことをとことんやろう」というと、目の前の楽しそうなことに即座に飛びついているようにも聞こえますが、必ずしもそうではなく、とことん考え尽くした上で、将来、悪い点の方がよりクローズアップされてしまったときでも、自分の選択の結果として受け入れる覚悟ができた上でどうするか選択してきたつもりです。

そして、一度選択したからには、もう考え尽くしているので、振り返らない。もしあのとき別の選択をしていたら、ということは考えません。それよりも、過去の選択の結果としてある今の良い点に積極的に目を向け、そのことに心からの感謝をするようにしています。そうすることで、思い通りにならないことがあっても、今の現状ってそんなに悪くないな、とポジティブに思えるようになる気がします。

一緒に学校でのボランティア活動を頑張った、一番仲良しのママ友とNaoさん。お誕生日のお祝いしてもらった時のショットだそうです。素敵な笑顔に、南アフリカで専業主婦として過ごしているNaoさんの充実した気持ちが伝わってきます。

−もう振り返らない!潔く、でもとことん考え尽くした上で、覚悟して選択してきたのですね。そして良い点に目を向け、そのことに感謝する・・・

若干極端な話かもしれませんが、アフリカ大陸で生活していると、正直なところ、健康で、一応の安全が確保されていて、経済的にもほどほどに安定した生活が送れていることって、奇跡に近いことなんだな、と思うようになりました。

日本のように衛生的で、安全で、経済的にも発展した国で、さらにもし、専業主婦をされているのだとすれば、日常生活を送られる上で、一応経済的にも安定していらっしゃるということだと思います。それって、日本を離れた広い視点から見たら、ものすごく恵まれた生活だと思うのです。

その上で、自分がやりたいと思っていることをもっと自由にしたい、社会との接点を持ちたい、といった希望があるかと思います。私自身も今、仕事か否かに関わらず、もっと人の役に立っていたいという思いは常にあります。

また、日本を出てから7年目にもなり、うまく仕事に復帰できるか、娘が日本の社会に上手く馴染めないのではないか、といった不安もあります。それでも、こういったネガティブな面にばかり目を向けて、「あのときの選択は失敗だった」とか、「だから私の今の生活は充実していない」と考えるのはとてももったいないことだなと思います。

それよりは、今できること、そして、自分が思い描いている将来に少しでもプラスになることを積極的に探して取り組むといいと思います。私の場合は、それが、去年一年間やらせてもらった学校でのボランティアであったり、また、家族が少しでも健康に過ごせるように、できるだけ、家で日本食を手作りすること、だったりします。

そんな風に現状にしなやかに自分を合わせていく、そして、そうすることができる健康や時間や経済的な余裕がある現状に感謝する、ということも大切なのかな、と思います。

編集後記

「覚悟の上の選択」「振り返らない」そして、「現状に感謝する」という言葉に、力強さと勇気をもらいました。考え悩みつくすことは大事ですが、その後の結果に対して、良い面を自分自身で見つけていくことで、すばらしい価値を発見できる。そしてそれが今後のキャリアに役立っていく、という視点を、私もライフイベント毎に実行していきたいなと思いました。