地方移住と会社員卒業を経た私が、全国の仲間と仕事をする“複業フリーランス”になるまで

新卒から18年間勤めた大手人材会社を退職し、2020年6月に複業フリーランスとして独立した桐山梨奈(きりぃ)さん。独立前の会社員時代には2度の育休を経験し、地方へ移住。現在はこれまでのキャリア支援経験を活かし、複数の企業や団体でキャリアカウンセラーとして活動中です。

「会社の人間関係も社風も大好きで、居心地が良かった。自分がフリーランスになるなんて思いもしませんでした」と語る桐山さん。今では、全国のメンバーとリモートで繋がりながら仕事をするフリーランスの働き方を心から楽しんでいます。地方ではまだなじみの薄い選択肢とも言えるフリーランスになるまでには、どんなストーリーがあったのでしょうか。小5と小3の二児の母でもある桐山さんに聞きました。     

桐山梨奈さん|新卒で大手人材派遣会社へ入社し、営業・コーディネーター職に従事。2013年、上の子3歳、下の子1歳の時に、夫の地元である静岡へ移住。2016年にキャリアコンサルティング資格を取得後は、社内のキャリアデザイン研修に登壇しつつ、副業にて地域でのキャリアワークショップを開催。2020年6月に退職し、現在はフリーランスとしてオンラインでのキャリアコンサルティングを中心に活動中。

「子育ては田舎で」夫からの提案で静岡移住を決める

移住先の静岡の風景。子どもが使うサッカーグラウンドの先には富士山が。

ー大手人材サービス会社で新卒から長年勤めてきた桐山さんが、地方移住にいたるまでのいきさつをぜひお聞きしたいです。

社会人になって最初の配属が東京の渋谷支店で、子どもが生まれてからは横浜支店で働いていました。2人目の育休から復帰してしばらく経つころ、夫婦で「そろそろ移住をしようか」という話をしていたんです。

静岡出身の夫は、「子育てをするなら都会よりも田舎で」という考えで、マイホーム志向もあったんですよね。結婚当初から夫の希望を聞いていたので、引っ越すなら子どもたちが小学生になる前に、と移住を決めました。子どもたちが大きくなれば友達との別れがつらくなるだろうし、親としてもママ友など育児に関わる人間関係の基盤を早めにつくっておきたいなと。そうして夫の実家の近くに家を買って、引っ越してきたのが2013年です。

ー桐山さんご自身は、社会人になって20年近く過ごしてきた環境を変えることに抵抗がなかったのでしょうか?

そうですね。マンション育ちだし東京や横浜での暮らしも好きだったけど、私自身も奈良県の田舎のほうで育ったので、子育てを田舎ですることには賛成でした。夫から「静岡に住みたい」と言われたとき、そんな環境もいいかも! という感じでしたね。

静岡への移住後は、休日に一家でキャンプやBBQを楽しむように

ーご主人からの提案に、「そんな生活も楽しそう」と思えたんですね。

環境を変えることにはあまり抵抗がないんですよね。「こうじゃなきゃ」っていうこだわりが良い意味でなくて、何事も楽しめるタイプだなと思います。

そういえば、就職のときもそうでした。関西で就職活動をしていたので、働く場所も当たり前のように関西でと考えていたんですが、入社する会社の大阪支店と通っていた大学が同じ沿線にあって。

これからもずっと同じ電車に乗って生活していくのかなと考えたとき、「なんかつまんないかも」と思ってしまったんですよね。それなら東京で働いたほうが一人暮らしも経験できていいかもしれないと、入社前に人事に「都内の配属にしてください!」って直接連絡しちゃいました。最初の配属が渋谷支店になったのは、そのおかげなのかはわかりませんが(笑)。いろいろな経験をしてみたいという好奇心が人より強いのかもしれません。

ー桐山さんの軽やかで柔軟な考え方が伝わってくるエピソードです。とはいえ、当時は横浜で働いていたんですよね。移住後のキャリアについてはどのように考えていましたか?

そうそう、とりあえず「移住」というライフプランから先に決めてしまったんです(笑)。そのときちょうど仕事で期間限定のプロジェクトに携わっていたので、この業務が一区切りつくタイミングで実行するしかないと。

とはいえ、この時点では転職を全く考えていませんでした。会社に移住先から通える最寄りの支店があったので、そこに異動できないかと社内でリサーチしてみたんです。運よく空きが出そうなポジションがあると教えてもらい、当時の上司に異動したい旨を伝えて、無事に異動が叶いました!

ー住まいを移すとなると、まっさきに退職を考えてしまいそうなところ。今の会社に満足しているなら、社内でうまくキャリアを繋げられる選択肢を探してみるのもアリですね。

ちょっとダメ元だったんですが、相談はしてみるものだなと思いました。柔軟に対応してくれた会社と上司には本当に感謝しています。

仕事に活かすため、キャリアコンサルタントとコーチングを学んだことが転機に

静岡のキャリアコンサルティング会社 (株)SNOPPI creationのメンバーと

ー社内での異動も叶い、順風満帆なキャリアを歩んでいたように見えます。会社員を卒業しようと考えたきっかけはなんだったのでしょうか?

きっかけは、キャリアカウンセリングを学ぼうとキャリコン(キャリアコンサルタント)とコーチングの勉強を始めたことでした。

静岡への異動後は、派遣事業部門で営業職とコーディネーターを経験しました。今後のキャリアに悩む方たちと向き合ううちに、ただ契約を更新するかしないかの話を聞くだけでいいんだろうかとモヤモヤしてきてしまって。私が介在することで、もっと一人ひとりに合った幸せな道を見つけられるお手伝いをしたいなと思ったんです。

それでまずキャリア発達や心理学の理論をしっかりと学べるキャリコンの資格を取り、仕事の面談で活かせる実践的な対話の組み立て方も身に着けようとコーチングの勉強もしました。

ー資格の勉強を通じて、どんな変化がありましたか?

自分自身のスキルアップにはなりましたね。相手に寄り添い傾聴しながら、理想のキャリアに向けて課題や現状とのギャップを捉える。そして、ゴールとアクションの設定をしていく。そんなキャリア面談の「型」を身につけることができたと思います。支店の中で有資格者が私だけだったので、個人との面談に加え、派遣社員向けのキャリア講座を任せてもらえるようにもなりました。

ー学んだことがさっそく仕事に活かせたんですね。

はい。ですが……相手の人生に寄り添いたいという想いと、契約を更新してもらいたい派遣営業としての立場。キャリアカウンセリングを学べば学ぶほど、その間にどんどん溝が生まれてきてしまって。

営業としては派遣での就業を続けてほしいけど、その方のキャリアにとって何がベストかをフラットに考えると、新たなステージへの一歩を応援したい。そんな葛藤を感じるようになりました。「ここで仕事をするのはやり切ったのかも。別の方法でキャリア支援をできないだろうか」と考え始めたんですよね。

小さく「個人の仕事」を始め、次第に拓けたフリーランスの道

ー仕事に真剣に向き合うゆえ生まれた葛藤と、どのように向き合い、行動していったのかとても気になります。

社外の世界を広げてみようと、そのころから副業で個人の仕事を少しずつ始めていったんです。

移住はしたものの社内異動なので、静岡に来てからも相変わらず仕事もプライベートも会社の人と過ごす時間が長くて。でもキャリコンとコーチングの勉強を始めた2016年ころから、社外の人と出会う機会が増え、人間関係が一気に広がったんですよね。

そのなかで知り合った1人の女性がキャリアコンサルティングの会社を立ち上げるということで、私も何かお手伝したいなと業務委託で参加させてもらうことに。キャリア面談やワークショップの企画運営などの仕事をちょこちょこと受けるようになりました。

※桐山さんが参加する株式会社SNOPPI creation

ー社外の人間関係が広がり、そのつながりで個人でお仕事も受けるようになったんですね。会社以外での活動を始めてみてどうでしたか?

純粋に楽しかったですね。会社以外の人とこんなに密に関わるのは、社会人になってから初めてで。普段の職場なら席まで直接声をかけにいくところを、オンラインで打合せをしたり、資料の受け渡しをしたり。一つひとつの工程が何もかも新鮮に感じられました。本業でモヤモヤを抱えても、個人の活動が充実していることで心のバランスも取れていましたね。

ー自分の居場所を新たにつくってみたら、たくさんの発見があったんですね。

今までずっと会社員としてやってきたので、フリーランスなんて自分と全く関係ない、住む世界が違う人のための働き方だと思っていたんです。でも外に飛び出していろいろな人と知り合ってみると、個人でお仕事をしている人って意外とたくさんいるんだなぁと。フリーランスという選択肢が、ちょっとずつ身近になっていく感覚がありましたね。それで、会社員は卒業しようと決めることができました。

ー独立にあたって、今後のキャリアへの不安などはありませんでしたか?

仕事が取れるかなという不安はありましたね。けど、ここまで人との出会いで自分の世界が広がってきたので、ご縁を大切にすればなんとかなるかなという気持ちもあり。

ちょうど退職を悩んでいるときに、業務委託で参加している企業の代表がこんなことを言っていたんです。「フリーランスの仕事は目に見えて用意されているわけではなく、人とのつながりの中で『あなたに頼みたい』『あなたと一緒に仕事がしたい』と思ってもらえることで生まれていくんだよ」って。

フルタイムの会社員を続けていると周りは頼みづらいけど、仕事やスケジュールに余白をつくれば仕事がやってくるものなんだと。当時は半信半疑でしたけど、今ならその言葉の意味がわかる気がします。

フリーランスになって変わった、働き方と育児の時間

参画しているキャリアカウンセリングサービス『ミートキャリア』では、毎日オンラインでメンバーたちとやり取り

ーフリーランスへと働き方を変えて、よかったことは何ですか?

働き方の選択肢が広がったことですね。現在メインで仕事をしているキャリアカウンセリングサービス『ミートキャリア』では、全国からメンバーが集まり、全員がフルリモートで仕事をしています。SNS経由でダイレクトメールをもらったことがきっかけで参画しました。

地方にいながら、オンラインでいろんな人と繋がって仕事する未来なんて想像もしていませんでしたね。多様な人たちと関わることができる今の働き方が自分には合っているなと思います。

ーやっぱり、人とのつながりというのが、桐山さんがお仕事をする上で大事なキーワードなんですね。

そうですね。フリーランスというと、営業から受注、実行までをすべて1人でやるイメージでした。だけど今の私は複数のチームに所属しながら、さまざまな人の紹介で仕事をもらってやっているという感じで。今では古巣の会社からもお仕事をもらえていて、感謝しています。会社員生活が長かったこともあり、組織の中で貢献していくのが好きだし得意分野なんですよね。

これからも複数のチームに所属しながら仕事をを続けていきたいので、普段から積極的に人とコミュニケーションを取りに行き、声がかかったらスケジュールが許す限りまずは引き受けるようにしています。その積み重ねで、周りとの信頼関係を築いていけると思うんです。そういった繋がりや出会いをこれからも大切にしていきたいですね。

ー素敵な考えです。プライベートでのよい変化もありましたか?

たくさんあります! 一番は、子どもたちと過ごせる時間が増えたことですね。小学校から帰ってきたら「おかえり」と言ってあげられるし、その日にあった出来事もたくさん聞いてあげられる。夕方の習い事への送り迎えも、ゆとりを持ってできるようになりました。

ー会社員時代は、育児との両立で悩まれることもあったのでしょうか。

悩みはずっとありましたね。フルタイムの勤務を終えて学童に向かうと、大抵お迎えが最後になってしまうんですよ。地方では、フルタイムで働く人がそこまで多くないんですよね。

子どもたちに申し訳ないと思う必要はないのかもしれませんが、どうしても後ろめたさのようなものを抱えていました。本当は無理をさせているんじゃないかって。それが今は、自分の仕事時間を子どもの生活に合わせられるように。もともと休日は、家族で田舎ならではの自然と触れ合えるアクティビティを楽しんでいたのですが、平日も子どもたちとたくさん話せるようになったのが嬉しいですね。

健康診断のように、定期的に自分のキャリアを振り返る機会を提供したい

ー柔軟に環境を変えて、仕事も育児も楽しんで向き合ってきた桐山さんに今後の展望についてお聞きしたいです。

今は自分がずっとやりたかった、求人紹介や契約にとらわれない「フラットな立場でのキャリアカウンセリング」ができるようになりました。今後は、個人のカウンセリングだけでなく、企業内でのメンタルヘルス研修や法人向けのカウンセリングにも力を入れていきたいですね。

大多数の方はまだまだキャリアカウンセリングに対して敷居が高い印象を持っていたり、「自分には必要ない」と感じていたりすると思うんです。先日カウンセリングをした50代の男性も、「これまでの何十年もの社会人人生で、キャリアを振り返る機会は一度もなかった」と話されていて。

企業と連携を深めていくことで、健康診断のようにもっと気軽に、当たり前に、自分のキャリアを見つめ直す機会を持ってもらえたらいいなと思います。変化が激しく不安定な社会においても、だれかに自分の想いを話せて整理できる場があると、気持ちが軽くなって前を向ける方が増えるはず。

ー人のキャリアにずっと向き合ってきた桐山さんだからこその言葉ですね。最後に、キャリアに悩むことも多いMolecule(マレキュール)読者に一言お願いします。

普段カウンセリングをしていると、みなさん理想の生き方を描きながらも「自分には無理だ」と諦めてしまっている人が多いなと感じます。まずは、自分の中にある思い込みを手放せるといいですよね。

どうすればできるか? と考え方を変えて、決めたことをやってみれば必ずよい方向にキャリアも人生も動いていくはず。カウンセリングを通して、今後に悩む方の気持ちがちょっとでも上向きになれるよう、活動の場を広げていきたいなと思っています。