暮らしに芸術を、キッズクリエイティビティがもたらす無限の可能性を届けたい【後編】 |My little days主催 太田さちかさん

「芸術」というと何を思い浮かべますか?美術館、演劇、クラシックコンサート・・・人によって捉え方は様々だと思います。でも実は、季節の移り変わり、子どもの落書きや毎日作る料理さえ、意外と私たちの身の周りに「芸術」はあるものなのです。芸術教育士として活躍中の太田さちかさんは、子どもの誕生を機に、日本で暮らす子どもたちが芸術に触れる機会の少なさに驚きます。「ないのならば作ってしまおう!」そんな気持ちから仕事と平行して子ども向けワークショップの活動を始めたそうです。彼女が子どもたちのキッズクリエイティビティについて思い描く未来は何なのか?連載でお届けします。

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子ども向けワークショップを展開する太田さちかさん。前編では太田さんの芸術に関する原体験、ワークショップの活動を始めたストーリーをお届けしました。後編では太田さんの起業、大学院での学び直し、そしてこれからについてお聞きします。

キッズクリエイティビティを形にして起業を決意、そして生まれた悩み

―お子さんがいらっしゃる中で活動を始めて、芸術教育士として起業に至るまで本当に大変だったのではないしょうか?!

3人子どもがいますが、3人とも育休をとって復帰もしました。

3人目で復帰して保育園に無事入ってから一気に起業しましたね。活動を始めて10年、起業は4年になります。

起業するまでは、平日は仕事、週末はワークショップの生活でした。仕事はマーケティング業で、商品や人、企業の魅力を世の中に発信し、関わった人たちみんなが幸せになれることに喜びを感じていました。一方で、週末ワークショップを続けられたのは、待ち望んで参加してくださる方がいたことと、家族に迷惑をかけないという使命感に支えられていたからです。

好きな事をやるけれど、家庭は犠牲にしない、という中でやりくりしていました。それと、ワークショップは子どもたちも参加していたので、ボーダーレスな部分もありましたね。

でも、会社員時代のことも全部つながっているんです。起業して一人でビジネスしてみると、経理や法務など会社で否応なしにやっていたことが助けになっています。企業がクライアントになる場合にも、会社員時代の視点が生きています。

そして慌ただしい日々の中でも、短くてもいいから自分の時間をもつようにしてきました。一人の時間を作って俯瞰する、一息つくのは大切なことです。

あとは、家族で海外旅行に行くことも大切にしています。子どもたちと今しか行けないところに行く意味があると思っています。年末はエジプトに行ってきました。旅行先でインスピレーションを受けてワークショップの題材になることもたくさんあります。

エジプト旅行の様子。古代文明の壮大さ、イスラム圏の食文化に感銘を受けんだとか。

ワークショップを立ち上げた頃は、フランスのルーブル美術館で見たワークショップを日本でもやれるようになりたい!というのがスタートでした。でも今は、日本には少ない子どものための場・コミュニティを作って、世の中でも機能すればと思っています。

はじめた当初は、ハロウィンやイースターは今のように季節のイベントではなかったし、子どもと参加してかわいいものができる場が、少なかったんです。そこに子どもやママたちの生活を充実させる時代の流れ、需要がでてきました。そうした大きな流れの中で、クライアントの企業やイベントの参加者と一緒に作っていった感覚です。ママだけがキラキラするのではなく、キッズクリエイティビティを生かして子ども自身が楽しめる要素を必ず入れるように心がけていましたね。

例えば、夏休みに開催するキッズカフェと言って、子どもたちが提案するカフェがあります。朝から昼過ぎまでデコレーションやお菓子作りといった準備をして、夕方になると家族をカフェに招待します。どんなデコレーションにするか、何を作るか、全て子どもたちのやりたいアイディアを表現していく面白みがあります。意見をまとめるのが大変なんですけどね(笑)

関わる人たちと一緒に考えて実現することが楽しいし、自分自身好きなのです。そうすることで世界にひとつだけのものが生まれます。

人気ワークショップとなったキッズカフェの様子。毎回子どもたちのワクワクが詰まった日になります。

―順調に形になっていったように見えますが、うまくいかなかったこともあったのでしょうか?

そうですね。ハロウィンなどテーマ性があるものは、うわべだけに見えることがあって。

ただ楽しいだけと言うか、自分の大切にしたいものとずれているけれども、そこに満足しているお母さんもいたりして。自分の中で違和感がありました。

それから芸術という優劣がないもの、理解されづらいものを扱っているところに効果を求められる苦しさもありました。

点数を付けられないのだけれど、お母さんは「うちの子が一番」と思える何かを求めてしまう。そうではないことを、どう伝えて理解してもらうかを、自分も悩み考えました。

日本では一般的に思いうかべる「アート」というと、お絵かきの意味合いが強く、場面は限られてしまうかもしれません。だけれど、「暮らしの中の芸術」と捉えると実はいっぱいある。

例えば、料理に楓や紅葉の葉を添えたり、お花を活けたり、生活の中に根差したものが必ずあるはずで。そうした暮らしの中にある芸術を、ワークショップに取り入れていきたいと思っています。

モヤモヤを吹き飛ばした大学院での学び直し 太田さんが考える「子ども芸術」とは

―大学院での学び直しのきっかけ、行ってみての気づきは何ですか?

先ほど言った「悩み」であったうわべだけの部分や、芸術の効果をどう伝えるか、芸術がつかみにくいものであるがゆえにぼやけてきたんです。

ワークショップを始めた頃は、目新しい場を作ることが楽しかったし、マーケット自体も盛り上がってきて、それでよかったと思います。でも自分は何をやって、何を大事にするかモヤモヤしてきて・・・

その時、「子ども芸術」という学術分野があることを知って、自分の求めている答えがズバリあることがわかりました。

調べると、京都造形芸術大学の大学院なら東京に分校があってオンラインでも授業が受けられる、これなら通える!と入学を決めました。もともと芸術を「学ぶ」という機会がなかったので、純粋に学んでみたかったんです。

大学院での様子。右から2番目が太田さん。

行ってみると自分の中の「芸術」が何なのかがはっきりして、その自分の言う芸術を用いて子どもたちと何ができるかが整理されました。ワークショップで実践している個々人のキッズクリエイティビティを引き出す場や芸術環境作りがリンクしていきました。

さらに、学校・家庭といった集団生活の中で、個性をどう生かすか、どうあるべきなのか深いところも探求もしていこうと思っています。去年卒業したのですが、今でもたまに学校に顔を出しながら研究は続けています。

「子ども芸術」の分野は15年とまだ若い分野で、「子ども」と「芸術」の両方を対象にしなければいけない難しさがあります。社会性と個性を大切にする、二律背反すると言われていることを、どうバランスをとるか、組み合わせるかを考えています。

どっちかだけではなく両方大事で、自分の場合はどちらかと言うと個性に重きを置きながら、個性を出せる場を提供していきたいです。そして、子どもたちの延長上に、お母さん自身にも気づいて、楽しんでもらうことも意識しています。

あとは芸術という効果の見えにくいものが何なのかを伝えるため、コラムニストとして自ら発信しています。芸術の優劣ではない部分を届けたいと思っています。

―実践的にワークショップをする中で、お母さんの変化もあるのでしょうか?

大体のお母さんが当日お子さんを預けるので、後日メールをくださることがあります。

そのメールから、子どもとのコミュニケーションが生まれていることがわかるし、子ども自身がまた参加したいだったり、違う表現をしてみたいだったりが伝わってきます。

ある子どもさんが黒をたくさん使って絵を描いて、その子のお母さんが「先生、大丈夫ですかね・・・」と、とても心配されたことがありました。

でもできたものは本当に素敵で、それをどうやったらお母さんに伝えられるか、お子さんと一緒に考えて伝えていく中で、お母さん自身が「これでもいいんだ!」と受け入れられたり。

家とワークショップで様子が違う子もいるので、普段と違うその子の側面を伝えることで、子どものことをもっと知ってもらうきっかけ作りにもなっています。中には「え?うちの子そんな事するんですか?!」と言って驚かれることもあります(笑)

芸術教育を通じて子ども、世の中に届けたいこと

―活動して10年、これからの夢は何でしょうか?

芸術が広い意味であることをもっと伝える場、発信を増やしていきたいと思っています。

今、「サイエンスカフェ」というイベントをベースに、レシピ本を制作中です。3色から7色の色ができるゼリーなどを紹介して、暮らしの中で不思議と思うことを織り交ぜています。

サイエンス(科学)、芸術、算数、国語など、学術的には分けているけれど、同じ対象物に対してアプローチが違うだけで、本来は同じものだと思っています。そうした視点で対象物を観察したり、変化を楽しんでみたり、工夫したりする本になっています。

なぜ芸術という観点を扱うか?と言うと、元々自然との関わりが深いからです。芸術の一部であるart(アート)の反意語はnature(自然)なんです。自然に人間が手を加えたものが芸術になる、言い換えると芸術を介していろんな物の見方をできる。それが自分の個性につながることを知ってほしいし、他の人の見方も良いと思えるようになる。そうした視点を生活の中に取り入れることを、伝えていきたいです。

もう一つは、地球環境との関わりを題材にしたいと思っています。芸術と深い関わりがある自然という観点でも、ここ数十年の地球環境は大きな危機だと思っているので、活動の中にも取り入れたいです。

キャッチコピーの「子どもとママンと地球のために」の「地球」の意味も、初めはエコの意味合いが強かったのですが、この冬も東京でほぼ雪が降らなかったり、環境問題がシビアになってきていると思います。子どもとワークショップをやっていることもあり、子どもたちの将来に関わることなので真剣に考えたいです。

子どもという不確実なものだからこそ日々発見があって、こちらが学ばせてもらっています。子どもたちが作っている場でもあるんです。一人ひとりその子らしさを大切にして、これからもワークショップの場を拡げていきたいです。

編集後記

太田さんを知ったきっかけは、女性起業家によるトークイベントでの登壇でした。「会社での経験も確実に生きている」と、晴れやかな表情で堂々と語る姿に、強烈な印象を受けたのを今でも覚えています。3人のお子さんの育休・復帰・共働きと平行しながら、ワークショップを展開されてきたことに、そこはかとない力強さを感じました。キッズクリエイティビティという子どもたちの可能性はもちろんですが、太田さん自身が自分の可能性を信じて、ポジティブに邁進されている、その姿が本当にまばゆかったです。これからどんなワークショップがあるのか?今後の展開が楽しみです!

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