風邪やインフルエンザが気になる季節。免疫力を高め、健康な体づくりが重要になってきます。そのカギを握るのは、私たちの「おなか」です。さらに驚くべきことに、腸内環境は私たちの気分や行動にまで影響を与えています。「食べたい』という欲求から、ストレスや不安まで——。「私たちは、腸内細菌に操られているのかもしれません」そう語るのは、食品素材メーカーの太陽化学株式会社で研究開発に携わる安部綾さん(以下、安部さん)。11月30日の「いいおしり」の日を前に、全身の健康の要となる「おなか」の意外な真実に迫ります。昆虫が教えてくれた衝撃の真実「腸内細菌に興味を持ったのは、大学のカメムシとアブラムシの授業でした」子どもの頃から食べることが大好きで、生き物の仕組みや食べ物をおいしく感じる仕組みに興味を持っていた安部さん。獣医師の父の影響もあり、東京大学農学部に進学しました。そこで出会った2つの昆虫の生態に、彼女は衝撃を受けます。カメムシの母親は赤ちゃんの命をつなぐために、とても不思議な行動をとります。それは、1つ1つの卵に自分の糞を産み付けること。卵から生まれた赤ちゃんは、その糞を真っ先に食べることで母親の腸内細菌を受け継ぎます。この「継承」がなければ、生きていけないのです。さらに驚きなのは、アブラムシのえさと腸内細菌の関係でした。アブラムシの多くは生涯、たった1種類の植物の蜜しか吸いません。ところが、バラの蜜を吸うアブラムシとヒマワリの蜜を吸うアブラムシの腸内細菌を入れ替える実験を行ったところ、それぞれが求める蜜も入れ替わったのです。「つまり、アブラムシの『食べたいもの』は、自分の意思や本能ではなく、腸内細菌によってコントロールされているんです」と安部さんは目を輝かせます。腸内環境を改善する"砂漠の恵み"太陽化学では、食品の品質向上や健康機能に関わる素材の研究開発を行っています。いま安部さんが注力しているのが、腸内環境を改善する「グァー豆食物繊維」(正式名称:グアーガム分解物)の研究です。インドやパキスタン地方の砂漠に生える豆から抽出されるこの成分は、実は私たちの身近で長年使われてきました。アイスクリームのなめらかさを保つ安定剤や、とろみをつける増粘剤として、また化粧品などの増粘剤としても活用されています。「グァー豆食物繊維の特徴は、水を捕まえる力が強いこと。さらに、研究開発の過程で、この水溶性の食物繊維には腸内環境を改善する力も非常に強いことがわかってきました」お腹の健康を保つ、理想的な食生活とはこうした研究成果は、私たちの日々の食生活にどう活かせるのでしょうか。腸内環境を整えるために、普段の食事で気をつけることを見ていきましょう。「大切なのは、発酵食品と食物繊維をバランスよく摂ることです」と安部さん。発酵食品には、ヨーグルトや納豆などの乳酸菌・ビフィズス菌を含む食品があります。食物繊維は大きく2種類に分かれます。キノコ、ゴボウ、サツマイモなどに含まれる水に溶けない食物繊維と、ワカメ、オクラ、モズクなどに含まれる水溶性の食物繊維です。特に水溶性食物繊維は保水力があり、腸内細菌によって分解される際に生まれる酸が腸のぜん動運動を促します。「両方の食物繊維をバランスよく摂ることが大切」と安部さんは言います。安部さん自身も、食物繊維や発酵食品を意識した食生活を心がけています。自宅でぬか漬けを作り、ご飯は玄米と小豆を混ぜて食べるなど工夫を凝らすほか、油っこいものや塩分は控えめにしているそうです。心の健康は腸内細菌が関係していた「緊張するとおなかを壊す」という経験は、誰にでもありますよね。これは脳がストレスを感じると、その刺激が腸に伝わって起こる現象です。しかし最新の研究により、その逆も起こることがわかってきました。「腸内環境が乱れると、腸内細菌が炎症を引き起こす物質を作り出します。その物質が脳に影響を与え、ストレスや不安、さらには不眠までも引き起こす可能性があるんです」安部さんは、かつては人前でプレゼンをする際に緊張で倒れたことがあるほど、人見知りであがり症だったそうです。「でも最近は、人前に立つことにもあまり緊張しなくなりました。安らかな気持ちで毎日を過ごせているのは、経験を重ねたことに加えて腸内環境が良いおかげかもしれません」理想の腸内環境をめざしてでは、自分の腸内環境が良好かどうか、どうやって判断すればよいのでしょうか。「うんちの状態をみれば、腸内環境の良し悪しをある程度判断できます。ズバリ、形も柔らかさもバナナのようなうんちが理想的です。色はあまり黒くなく、拭いたときに紙に付かないくらい、つるんと出るものが良いでしょう。定期的にスッキリ出ていれば、毎日出なくても問題ありません」気になるのは、日本人の腸内環境が年々悪化していることだそう。女性の便秘傾向に加え、最近では軟便の若い男性も増えているといいます。研究の傍ら、勉強会でうんちや腸活の記録ができる「ウンログ」アプリを紹介したり、研究会に参加したりと、啓発活動にも力を入れている安部さん。ただし、完璧を求めすぎることは禁物だと言います。「おいしいものを食べたい!と思ったら、時には素直にその声に従うことも大切です。我慢し過ぎることは、かえってストレスになりますから」100兆個の小さな友達が握る健康のカギ「いまでは『腸内細菌が関与しない病気はないのではないか』と言われるほど、おなかの健康は全身に影響しています」そう安部さんは話します。太陽化学では、こうした研究成果を活かし、機能性表示食品などの素材開発も進めています。 「大切なのは、いかに手軽においしく続けられるか。単におなかに良い食品を作るだけでなく、気がついたら健康になっている、そんな仕組みづくりを目指しています」私たちの体内には、約100兆個もの腸内細菌が住んでいます。その存在が私たちの「意思」や「感情」にまで影響を与えているかもしれない——。そう考えると、おなかの健康を保つことは、100兆個の小さな友達と良好な関係を築くことなのかもしれません。仕事と育児に追われる子育て世代は、つい自分の体調管理は後回しになりがちです。でも、腸内環境を整えることは、単なる体調管理以上の意味があるといえるでしょう。免疫力を高め、心の安定にもつながる腸内環境の改善。毎日の食事を少し意識するだけで、家族みんなの健康づくりの第一歩になりそうです。太陽化学株式会社