「海洋ゴミ」について考えたことはありますか?マイクロプラスチックの問題はニュースでも大きく取り上げられているので、見聞きしたことのある人も多いでしょう。しかし「いいことだけど、経済性との両立は難しいのでは?」という声も少なくありません。そんな中、ビジネスとして海洋ゴミに取り組んでいる人がいます。テレビ東京の「ガイアの夜明け」などのメディアにも取り上げられた、株式会社SUSTAINABLE JAPANの東濵孝明さん(以下、東濵さん)です。5月30日のゴミゼロの日を前に、東濵さんの「きれいな海を次世代へ残したい」という想いの原動力をうかがいました。海洋ゴミはビジネスにならない?東濵さんが立ち上げたサステナブルジャパンは、オーストラリア製の海洋浮遊ゴミ回収機「SEABIN(シービン)」の販売リースと、自社開発した用排水路浮遊ゴミ回収機「SEETHLIVER(シースリバー)」の製造販売リースを柱とする会社です。海洋ゴミ問題に対するビジネスの取り組みが活発に行われている海外では、海洋ゴミを利用した製品の開発や販売も生まれています。海洋ゴミの回収やリサイクル、海洋環境保護と経済活動は別物としてとらえるのではなく、そこから新たなビジネスチャンスも生まれているそうです。海洋ゴミがより深刻な問題としてとらえられ、ビジネスの機会としても注目されている海外と比べて、日本の取り組みは発展途上と言えます。「前例がない」で門前払い。生存率5年を生き延びる実際、サステナブルジャパンの事業を軌道に乗せるのも簡単ではありませんでした。創業から5年のベンチャー企業の生存率は15.0%という話があります。5年後は10社のうち8社以上が廃業か倒産していることをふまえると、その厳しさがわかるでしょう。企業が成長し、生き残っていくには必要なタイミングで資金を調達することが欠かせません。しかし東濵さんの状況を厳しいものにしたのは、SDGs(持続可能な開発目標)をビジネスに結びつけることは難しいという世の中の見方でした。なぜなら、多くの人々が「SDGsは地球にとってはいいことだけど、ビジネスにならないのでは?」と思っているからです。シービンの購入や、シースリバーの自社開発にはまとまった費用がかかりますが「“前例がない”ので、融資してくれる金融機関はゼロでした」と東濵さん。サステナブルジャパンの創業は2019年。金融機関から資金を調達できなかった東濵さんは、個人のお金を会社に貸し付けることで、なんとか5年を生き延びました。周囲の人に「やめ時を考えることも必要だよ」と言われても、自分を信じてやってきたのです。そうして突き進むうち、少しずつ共感する企業も増えてきました。「最初はとても厳しい状況でしたが、5年の努力の末、電力会社や建設会社、水産加工会社など、さまざまな企業と取引させていただけるようになりました。農業用水路のゴミを回収するシースリバーは、農水省の交付金を活用して農業生産者にも提供をはじめています」環境に対する責任を果たしたいと考える企業との協業で、環境保護とビジネスの両立が実現しはじめています。なぜ海は汚れるのか多くの人が難しいと考える、環境保護とビジネスの両立。厳しい状況を耐えてまで東濵さんが突き進めた原動力はどこにあるのでしょうか。漁港がある場所で育った東濵さんにとって、海は身近な存在。沖縄出身の父親に連れられて頻繁に沖縄を行っていたこともあり「青い海と白い浜」は、東濵さんの原風景でした。20代で上京した東濵さんが故郷の熊本に戻ってきたのは30歳目前のこと。子どもたちと久しぶりに浜辺を歩いた東濵さんは、目の前の光景を疑います。ゴミだらけの海は、昔見た景色とまったく違うものになっていたからです。きれいだった海の変貌ぶりにショックを受けた東濵さんは、浜辺のゴミひろいを始めます。しかし、どんなにきれいに浜辺を掃除しても、しばらくすると再び浜は汚れました。そこで上流でゴミを止めることはできないか、と考えます。「地元の海をきれいにしたい。我が子に美しい海を残したい」はじめて自分がやるべき仕事だと強く感じた東濵さんは、すぐにオーストラリアの海洋浮遊ゴミ回収機の会社と連絡をとったのです。主食が海洋汚染に?米とマイクロプラスチックの関係海洋ゴミの問題に取り組みはじめてしばらくたった頃、東濵さんは日本特有の環境問題に気づきました。それは米の栽培で使われる肥料の膜がプラスチックでできている、ということです。この肥料の膜はとても小さく、マイクロプラスチックと呼ばれています。一度海に流れ出ると回収は難しく、近年はマイクロプラスチックが生態系に大きな影響を与える可能性がある、と考えられるようになっています。田んぼで使った肥料の膜が水路に流れ込み、海へ流れていく。私たちが毎日食べているお米が海洋ゴミ問題とつながっている。このことがマイクロプラスチックも回収できる、用排水路浮遊ゴミ回収機「シースリバー」の開発を始めるきっかけになりました。頑張らない。1日1個ではじめるきれいな海海洋ゴミの8割は私たちが住む街中から流れていると言われています。道に落ちているビンや缶などのゴミは、雨風によって道路の溝に入り、そのまま川や海に流れ出ていきます。一旦海に流れ出ると、回収自体が難しく、海洋汚染をさらにひどくしてしまいます。「一人ひとりが毎日ゴミを1つひろうだけでも、劇的に環境は変化します。自分一人が行動しても意味がないと思わず、落ちているゴミを見つけたら、1つでいいので拾ってください」そう東濵さんは話します。海を子どもたちにつなぐ。東濵さんの3つの目標東濵さんには3つの目標があります。1つ目は集めたプラスチックゴミで新しい製品を作り、お金を稼ぐ仕組みを作ることです。2つ目は「シースリバー」にAIやGPSを搭載して、自動で動くゴミ回収ロボットを作り、世界中でゴミ回収機を使えるようにすること。家庭の自動掃除機の海バージョンですね。夜に自動的にゴミを回収してくれて朝きれいな海になっていたら……と思うと地球にもやさしいし、とてもわくわくしませんか?3つ目は、ゴミ拾いの大切さを伝える講演を続けることです。子どもたちに伝えるのは「僕が死んだ後も、活動が引き継がれていって欲しいから」と話す東濵さん。自分が住む地球に対する優しさや思いやりの心をもつことは、自分のためだけでなく、次の世代のためでもあるのです。あきらめなければ変えられる「僕は経営者じゃない。ただ好きなことをやってきただけ」そう語る東濵さんの目は夢を語る少年のようにキラキラしていました。「子どものころに見たきれいな海を取り戻したい。そしてきれいな海を子どもたちに残したい」その強い想いは、周囲を巻き込みはじめています。東濵さんは知人・友人に反対されても、あきらめることなく、自らの使命に愚直に向き合い続けてきました。環境保護も経済成長も両立するという挑戦はとても大きなものですが、志を同じくする企業の共感も得ています。ひたむきな姿が、人々の心を動かし、応援したいと思わせているのかもしれません。わたしたち一人ひとりの力は微力でも、同じ方向に歩く仲間の存在がいればとてつもない大きなことも成し遂げられるはずです。東濵さんの挑戦はこれからも続きます。株式会社SUSTAINABLE JAPAN