つらい時や悩んでいる時は、人に話を聞いてもらうだけで心が軽くなります。でも、悩みが大きかったり漠然としていると、誰に話していいかわからないこともありますよね。一方、家族や友人だから話せないこともあるのではないでしょうか。そんな方におすすめしたいのが、コーチングです。しかし、まだまだメジャーなものではないので、聞いたことがないという人も多いはず。「子育ても仕事も一人で頑張る働く子育て女性こそライフコーチを知って欲しい」と話すのは、小学校の先生からコーチングの世界に入ったきやまりえさん(以下、きやまさん。)なぜ働く子育て女性とライフコーチの相性がいいのでしょうか。そこには、自身も働く子育て女性であるきやまさんの実体験がありました。ライフコーチと教員の意外な共通点私たちにとってもっとも身近な家族や友人は、お互いに助け合う存在です。ところが心理的な距離が近いだけに「否定されたらどうしよう」「話す勇気がない」と、悩みを打ち明けられない人も多いと思います。そんなときはライフコーチを頼りにしてみるといいかもしれません。ライフコーチとは、コーチングと呼ばれるコミュニケーション技術でクライアントの人生(ライフ)をサポートする人のこと。コーチングは基本的にアドバイスをしません。私達が仕事や家庭、社会生活で直面するさまざまな悩みに対して、一緒に解決のための方向性を見出すためのお手伝いをしてくれます。ストレスマネジメントやワークライフバランスの改善や、目標達成につながるものとして近年コーチングが注目されているのです。アドバイスをしない。原点は幼少期からの違和感「アドバイスをしない」コーチングのスタイルは、きやまさんの考え方にフィットしています。原点は、きやまさんが幼少期から感じ続けてきた周囲からの期待や「こうしなさい」というアドバイスに対する違和感でした。「本当はやりたくないのになぁ」「私が好きなことはこれじゃない」とアドバイスを受けて行動する自分に居心地の悪さを感じていたきやまさん。そのため、きやまさんは小学校の先生になっても、自分から子どもたちや保護者にアドバイスすることはありませんでした。背景を知ると課題の根っこが見えてくるその代わり、大切にしているのは「背景を知ること」。きやまさん曰く「コーチングを受ける人の多くは、目の前の課題解決」に意識が向いています。しかし、表面の課題に対処しても本当の意味で解決することはありません。課題を解決するには、抱えている課題の根っこの部分を探ることが必要だと考えました。彼女の人生観を大きく変えたのは、世界一周旅行です。どう変わったのかを詳しく見ていきましょう。”正解”は正解じゃない。価値観を変えた世界一周旅行きやまさんが生まれ育ったのは、長崎県諫早市です。地方の小さなコミュニティでは「手に職を付ける」「結婚して母親になる」ことが正解とされてきました。誰もが気軽に発信できる今と違って、雑誌やテレビの中の人は別世界の人だった当時、周囲に認められる職業に就くことがきやまさんにとってのすべてだったのです。「地元を離れたい」その一心で大学院まで進み、小学校の先生になったきやまさん。仕事にはやりがいもありましたが4年後、念願だった世界一周旅行に出るために一度退職します。そして1年2ヵ月の世界一周旅行で、きやまさんの価値観は大きく変わりました。旅先で出会ったのは、これまで、きやまさんが関わったことのなかった人たちでした。女性が経済的に自立できる職業は学校の先生や医療従事者とは限らないこと、手にしていた職を辞めてもいいこと。自分の意志で自由に生きている人がたくさんいるのを目にして、信じてきた「正解とされる価値観」がすべてではなかったことに気づいたのです。他人の価値観を認められるようになった世界一周から戻った彼女は再び小学校の先生に就きます。以前と違うのは、これまで自分が信じてきたものが必ずしも正しいとは限らないと学んだことです。「どんな物事にも、必ず背景がある」と腹落ちしたきやまさんは、他の人の価値観を認められるようになりました。元々人の話を聞くのが好きでしたが、背景を意識するようになってからは、より他人に寄り添えるようになったと話します。はじめてのコーチングで現実の見え方が変わったそんなきやまさんが再び違和感を覚えたのは、コロナ禍に3人目の子どもを出産した頃のこと。育休中に保護者の立場で参加したPTAで目の当たりにしたのは、大変な状況に置かれている学校現場でした。経験したことのない状況に戸惑う先生たち。不安そうな保護者と子どもたち。クラスが不安定になり子どもの沈んでいく表情を見るうちに、これまで自分でも気づかなかったモヤモヤが顕在化した、ときやまさんは言います。「私にできることは、なんだろう」「本当に大切にしたいものはなんだろう」「それ以前に私は母親として、一人の人間としてどう生きていきたいのだろう」クライアントとしてきやまさんがはじめてコーチングを受けたのは、このときでした。そして初めてプロに話を聞いてもらった経験を通じて「一人で抱えなくても大丈夫 」と思えたと言います。大丈夫と思えたことで、家族にしっかりと向き合えるようになったのを感じました。自分と他者を否定しなくなった「母親だから無理」「先生だから〜してはいけない」今までは一瞬のうちに自分で否定することもありました。しかし定期的にコーチングを受けるようになって、「本当はどうしたい?」と自分に問いかけるようになったきやまさん。うまくいったことだけでなく、思い出したくない過去や失敗も、すべての経験には意味があると受け入れられるようになりました。さらに、仕事を通じて実現したかったのは「サードプレイス」を作ることであると気づきます。家族でもなく友人でもない、近い関係ではない存在だからこそ、話せることがある。そして一人で頑張りすぎている人に、一人じゃない事を知ってほしい。仕事の肩書や家庭での役割から離れて「わたし」でいられる場を作ることが、きやまさんがコーチングの道に進むきっかけになったと教えてくれました。けれども、これまで築いてきたキャリアを手放すことには不安もありました。迷っていた時、最後に背中を押してくれたのは夫です。「やりたいことをやればいい」と言う夫に背中を押されて、ライフコーチの道を選びました。コーチングで知った「自分のための選択」で起こる変化「コーチングでアドバイスをしないのは、私の答えを提示することになってしまうからです。選択肢が増えれば、同じ現実でも見え方はまったく違ったものになるでしょう。課題を根本的に解決するには、自分で考え、自分で選ぶことが大切です。実際に行動に移すかはその方の自由ですが、話を聞いてもらえる場があることを知っているだけでも、心のゆとりができますよね。そのお手伝いをするライフコーチという仕事には、そんなやりがいがあると思っています。」自分で選んだという感覚は、自分を認められるようになるための第一歩。誰かのための選択ではなく、自分自身のために選べるようになると、自分も他者も否定しなくなる、ときやまさんは言います。「自分を知っているだけで全然違う」それは、きやまさんがライフコーチになって改めて実感したことでした。仕事もプライベートも、今しかできないことを楽しむ先生という仕事がとても好きだったきやまさん。人の成長に関わることに大きな喜びを感じていました。にも関わらずライフコーチにキャリアチェンジしたのは、今のきやまさんにとって何よりも大事なのは、家族との時間だと考えたからです。学校の先生でいる以上、家族との時間を優先できない場面も多く出てきます。来年、きやまさんの長男は中学生になります。小学生の今しかできないこともたくさんあるはずです。コロナ禍が落ち着き、海外旅行を気軽に楽しめるようになるこれからは、世界一周旅行にもう一度行きたいのだとか。仕事もプライベートも大切なライフ(人生)の一部です。どちらも楽しむために選んだのがライフコーチという仕事でした。「一人で頑張りすぎてしんどくなっている人や、大きな悩みはないものの気がつけば数年同じもやもやを抱えている人はたくさんいると思います。自分の話を聞いてもらえる場があること、つながれる人がいることを知ってほしいです。」「誰かに話す」ことを身近にすることで人の成長をサポートし、自分自身も成長を続けながら今しかできないことを思いっきり楽しみたい。ありのままの自分を認め、ごきげんに生きる魅力を発信するきやまさん。彼女の姿に今日もまた一人、励まされています。きやまりえさんのInstagram