あなたは選挙に行っていますか?政府は「異次元の少子化対策」を打ち出し、子育て世代への支援をアピールしています。でも、政治は遠い世界の話。暮らしとどう関係があるかわからない。そう思いますよね。「どうせ政治は何もしてくれない」そんなあきらめが浸透しているのかもしれません。こまざき美紀さん(以下、こまざきさん)は身近な課題解決からスタートして東京都北区議会議員になり、2023年の同区長選にも挑戦した女性です。彼女がこれまでたどってきたストーリーから、身の回りの課題を解決する方法を考えてみましょう。産後うつから始まった当事者意識「人のためになる仕事がしたい。誰もが暮らしやすい街づくりに携わりたい」こまざきさんはそんな思いで、埼玉県戸田市役所に15年間勤務しました。公務員時代は、行政への不満を感じたことなどなかったと言います。しかし、そんなこまざきさんに試練が訪れます。それは自身の出産です。自分が満足に動けない状態になって初めて、行政のサポートが十分なものではないことに気づきました。「24時間育児に追われ、”私”を主語にして語れる場がない。お母さんというものは、こんなに孤独を感じるものなんだ。と気づきました。孤独な母親の気持ちがよくわかりました」と言います。そこで出会ったのが、自分の思いを語り合える集まりでした。「これだ」とヒントを得たこまざきさんは、2013年に地域団体「北区はたらくママ★ネット」を設立。それからのこまざきさんは身の回りの課題に対し、次々とアクションを起こしていきます。保育園の父母の会・会長時には、形骸化していた父母会自体もアンケートをとり、廃止するなど保護者の負担を減らす試みを次々に行いました。このようなアクションは保護者の「困っている」思いから出発したものです。他の役員や園長との話し合いを経て実現しました。地域団体でも、孤独な母親を増やさないようワークショップや子育て講座を開催し続けました。「政治の場に子育て当事者がいない」区政への挑戦出産を機に、見える世界が変わったこまざきさん。子育て世代の当事者として課題解決に取り組んでいました。ところがある日、区議会議員の顔ぶれを見てはっとします。当時、北区の議員はほとんどがシニアの男性。子育て当事者がほとんどいなかったのです。「これでは政策と現場の課題がかけ離れてしまうのも当然だ」と感じたこまざきさんは、半年悩んだ末、区議へ立候補。トップ当選を果たしました。その後、こまざきさんは区議として4年間で850件以上の区民相談に一つずつ丁寧に対応。その中で、行政から手を差し伸べる「アウトリーチ型」の必要性に気づきます。要請に対して支援を行うのではなく、訪問や聞き取りなどにより行政側からアプローチするのがアウトリーチ型支援の特徴です。そしてこの気付きが、こまざきさんを次の挑戦へと導いていくことになります。政治を自分ごと化できる子を育てるには区議として区内の課題解決に取り組んできたこまざきさん。子育て当事者が区議会で提案することには十分な意義があります。しかし、大きく北区を変えるのは難しいと感じていました。「アウトリーチ型の区政で、声を上げづらい人や孤独な人を支援したい」その思いと周囲の声がこまざきさんを突き動かし、区長選へ出馬することを決めました。こまざきさんにとって、一番の応援団は我が子です。昼夜を問わず区民の相談に対応し休みなく活動している姿を「お母さんは自分たちのためにもなる仕事をしているんだ」と受け止めてくれたのだと言います。それだけではありません。周りの子も「〇〇ちゃんのお母さんは町のためにがんばる”選挙の人”」と、応援してくれたのだそう。今回の区長選でこまざきさんが「新しい」と感じたのは、街頭演説に子どもたちが何度も集まってくれたことでした。選挙結果は残念ながら次点でしたが、自分が動けば周囲も変わることを実感したのです。修学旅行もランドセルも政治につながっている「政治は政治家のもの」とのイメージを持っている人は多いかもしれません。けれど、もし何らかの不満やモヤモヤがあるなら「誰かが変えてくれる」のを待つのでは不十分です。こまざきさんの選挙戦のエピソードは、自分が変わることの大切さを教えてくれます。とはいえ、どうすればいいかわからないという人も多いはず。どのように考えればよいのでしょうか。「堅苦しく考えず、『まずは身の回りの困ったことを解決する』と考えてみては」というのが、こまざきさんの答えです。たとえば、コロナ禍での修学旅行。中止した自治体も多い中、修学旅行は「学ぶ場所が変わるだけ」と考えて実施したところもありました。「どうして自分の学校は中止になったのだろう」区内の小学校の子どもたちはそんな疑問を持ち、区長に手紙を書きました。身の回りの困った出来事に対し、アクションを起こしたのです。他にも重すぎるランドセル、厳しすぎる校則など、日々感じる疑問はたくさんあるのではないでしょうか。私たち大人がそれらに正面から向き合っていくことで、子どもたちも政治を課題解決の手段と捉えるようになると、こまざきさんは考えています。私たちの生活そのものが政治子どもたちが政治に興味を持つには、大人も無関心ではいられません。こまざきさん自身も政治不信をなんとかしたいという思いから、「皆さんの生活そのものが政治なんです」と言い続けてきました。最近はインターネットを利用する政治家が増えていますが、インターネットでの情報収集が難しい方もまだ多いのが現状です。こまざきさんはそんな人たちのために、紙媒体の「みっきー通信」で情報発信しています。イラストや写真を多用し、なるべく分かりやすい言葉で伝えているのだそうです。そんなこまざきさんの思いは少しずつ広まっていきました。「自分たちにもできることがある」と考える人が出始め、区長選では300人以上のボランティアが集まったと言います。身近な課題に気づいたとき、政治は身近なものになります。そこから「誰かに相談してみよう」と思えたら前進です。地域の議員に相談してみたり、自治体の窓口に問い合わせたりといったアクションがおすすめだそうです。身近なモヤモヤ解決からはじめてみよう「困っている人がいれば解決したい」そんなこまざきさんの政治への思いは、どこから来ているのでしょう。スタートは自身が産後うつで感じた生きづらさでしたが、同じような思いを持つ人の存在に気付きました。また障害児の保護者やひとり親家庭など、社会から孤立しがちな人の抱える課題も見えてきたといいます。こまざきさんも「もうダメかもな」と仕事と家庭の両立をあきらめそうになったこともありました。しかし、周囲と関わり続けることで、エネルギーが湧いてきたそうです。働くことへの心理的なハードルが高い人には、「働くということを広くとらえてほしい」と話します。自分の「得意」や「好き」を活かして社会や地域に貢献することから始める…。それが「目の前の課題解決」にもつながることなのです。小さなチャレンジでわたしの未来は変わる議員でなくなった今、こまざきさんは日々どう過ごしているのでしょうか。区長選落選の後、こまざきさんは「自分に足りないものは何だったのか」と自問自答してきました。答えの一つが「高齢者支援」でした。もっと知見を深めたいと考えたこまざきさんは、高齢者福祉施設で働きながら介護職員初任者研修に取り組んでいます。高齢者の方や施設の方と関わる中で早速、足元の課題が分かってきたと言います。現在、こまざきさんは議員ではありませんが、今でも毎日のように区民からの相談が寄せられています。「本当に申し訳ない。できることが限られちゃうな」と思いつつ、そのままにしておけないこまざきさんは、知人の区議と連携してできる限りの対応をしているのだそうです。当事者として活動することは大切です。同時に、こまざきさんのように自分の知る範囲を離れ、多様な立場の人と関わることで身の回りの課題はより明確に見えてくることでしょう。目の前の「困ったできごと」は、まずは声を挙げることから。周りの人と協力することで変えられるのです。こまざき美紀さん公式HP