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埋もれた専門性・資格どう活かす?保育園看護師だからできること

2023/7/7

せっかく専門職の資格やそれまでに積み上げてきたキャリアがあるのに、それを十分に活かせていない女性はたくさんいます。

看護師資格をもちながら医療の現場から離れている「潜在看護師」はその一例です。

専門性や資格、スキルを活かせていないのは看護師に限りません。

保育園の副園長をしている前島記子さんも看護師からキャリアチェンジした一人。前島さんはどのような経緯で、看護師から保育園の管理職になったのでしょうか。

前島さんのストーリーから、スキルや強みをパラレルに活かす方法を探ります。

災害時に求められるきめ細やかなケア

前島記子さんプロフィール

かつて、小児科看護師として働いていた前島さん。

当時保育園児だった前島さんの娘は、保育園で細やかに見てもらえていました。その安心感は、働く上で大きな支えだったといいます。

そんな中、2011年に東日本大震災が発生。1秒でも早く娘の顔を見て安心したいところでしたが、前島さんは病院での対応に追われました。夫も同じく病院勤務。とても迎えに行ける状況ではありませんでした。

そんな時、娘が通う園の先生がかけてくれた言葉が「娘さんは無事だから大丈夫。迎えに来るまでしっかり見るからね」というもの。その一言で、安心して業務にあたることができたのだそうです。

娘を迎えに行くめどが立った前島さんが道すがら考えていたのは、「このような災害発生時に、保育園にも看護師がいれば心強いだろう」ということでしたアレルギーや慢性疾患をもつ子は、非常時に細やかなケアが求められます。また、災害で職員や子どもがけがをする可能性もあります。

大変な状況下でも安心して子どもたちや職員が過ごすには、看護師の必要性は大きいと感じました。

病院での知識と経験を活かして保育園の子どもたちと職員の健康を守っていきたい。そう考えた前島さんは、保育園看護師へのキャリアチェンジを決めたのです。

仕事と家庭の両立に完璧主義はいらない

総合病院の小児科から保育園へと働く場を変えた前島さん。

忙しい共働き、夫婦ともに実家は遠方……前島さんはそんな状況を自分なりの工夫で乗り切ってきました。

その秘訣は「完璧主義を捨てたこと」だったと、前島さんは語ります。

学童保育やファミリーサポートを利用し、自分たちだけで子育てを抱え込まないようにしました。また、夫婦で次月以降の予定をすり合わせておき、必ず仕事に行かなければならない日と子どものために使える日を調整したのだそうです。

職場でもさまざまな工夫をしました。仕事を「見える化」し、必要なことは早めに周囲に相談。不測の事態に備え、いつ休んでもいいように段取りを整えておくことを心がけていました。後輩を育てる意識を持つことは、組織と自分両方にとって有益でした。

「保育園に看護師」で生まれる安心感

前島さんのように、看護師が活躍できる場は病院だけではありません。

助産師、保健師、養護教諭…いろいろな選択肢があります。資格とやる気があれば、転職自体は難しくないのです。

職場によって勤務形態や勤務時間帯はさまざま。自分のライフスタイルや家庭の状況に応じて選ぶことができます。

そもそも保育園とは、仕事などの理由で家庭で保育できない保護者に代わって子どもを保育する場所。働く子どもの保護者が仕事に集中できるよう、安心して子どもを預けられる環境をつくることが求められています。

そこに必要なのは保育士だけではありません。多様な専門職が関わることで、保育の「質」は向上します。

体調不良時の判断に看護師経験

たとえば園児に体調不良やけががあった場合、お迎えを要請するのか、すぐに病院受診をするべきなのかの判断は難しいものです。

そんなとき頼りになるのは看護師。小児科で数々の症例を見てきた前島さんは、「元気がない」「いつもと様子が違う」などの変化に気づき、素早く対応を決めることができました。

子どもは大人と違い、体調が悪くても言葉で表現できません。「自分が見つけてあげなければ」という気持ちで、全体をくまなく観察する力が養われたといいます。

いのちの教育に看護師の医療知識

園での健康教育の様子

保育の現場で看護師ができることは、それだけではありません。

前島さんが子どもたちの様子からひらめいたのが、「日常の健康指導だけでなく、もっと大きなものを伝えたい」ということです。

そして生まれたのが「いのちキラキラ」という健康教育でした。

看護師が各園を回り、命や体の大切さを伝える授業をすることで、命の大切さを伝えることができたのだといいます。

その根底にあるのは、「命への思い」です。

「小児科では、助けられなかった命もありました。自分自身はもちろん、周りの人の命も大切にして欲しい。そう考えていました」

健康教育を看護師というプロの目線から子どもたちに伝えられるのは、東京児童協会ならではの特徴なのだそうです。

看護師のキャリアパスを広げたい

保育界のフロンティアとして先進的な保育に取り組んできた東京児童協会は、「女性が活躍する窓口を広げたい」というポリシーをもっています。

その取り組みのひとつが、看護師を管理職に抜擢することです。

前島さんは危機管理にすぐれた看護師であり、園のことをよく知っていることから白羽の矢が立ちました。

実は、オファーを受けた時の前島さんにはためらいがあったといいます。

「看護師としての仕事はできるけれど、ピアノが弾けるわけでも、子どもたちにかわいいおもちゃを作ってあげられるわけでもありません。”私でいいの?”という思いはありました。」

しかし最大限のサポートを約束されたことや、看護師から園長に昇進したケースが他にもあったことから、「先輩に相談しながらやっていこう」と腹をくくったのです。

元看護師の管理職に求められる職員のケア

前島さんは現在、副園長として多様な仕事をこなしています。

管理職にとって一番大事な仕事はなんでしょうか。前島さんによれば、それは「職員のケア」なのだそうです。

職員に疲れている様子や行き詰まっている様子があればさりげなく対応します。直接声をかけることもあれば、あえて主任やリーダーから「大丈夫?」と聞いてもらうこともあります。

子どもを観察するのと同じように職員のことも、仕草や声のトーン、顔色、食事がとれているかなど看護師ならではの視点で見ているのです。

その根底にあるのは、「職員のケアは園児や保護者のため」という信念です。保育園で過ごす園児にベストな保育をし、保護者に対しても最大限の向き合い方をしたい。そのために、職員のケアに注力しているのだといいます。

みんなが学び合える園をめざして

水やりする園児と前島さん

前島さんがこれから大事にしたいのは、学びです。

「これは私個人の思いですが」と前置きしつつ前島さんが語ったのは、「日常生活を送る上で医療的なケアと医療機器を必要とする ”医療ケア児”の受け入れを進めたい」ということ。

保育園で医療ケア児を受け入れているところはまだまだ少ないのが現状です。

医療ケア児が保育園で育つことは、当事者だけでなく、周りの子にとっても大事だと前島さんはいいます。

いろんな子が一緒に園生活を送ることで、学べるものがあると思っているんです。看護師が配置されていて、元看護師の管理職がいる法人だからこそ、多様なお子さんが一緒に生活ができるような保育園が作れたらと思っています。」

私たちはこれまでの人生でさまざまなキャリアやスキルを積んできました。それらの宝物は、もしかしたら別のところで活かす道があるのかもしれません。

看護師だからできることを、病院以外の場で。

前島さんの挑戦は、いろいろなことを教えてくれます。

東京児童協会 

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Writer Profile

中村藍

78年宮城県生まれ。教員として20年以上働いたのち、新しい生き方をスタートしました。現在はフリーライターをしながら、特別支援学校非常勤講師/コーチとして働いています。自分らしく納得感のある生き方・働き方を追求中。Molecule(マレキュール)でそのエッセンスをお伝えできたらと思っています。

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