夫の外出は「行ってくる」という報告なのに、「なぜ、私は許可が必要なの?」とモヤモヤした経験はありませんか?日本で共働きしている夫婦は、本当の意味で対等とは言えないケースが多くあります。モヤモヤした気持ちを抱えつつ「母親になったんだから」と我慢する人もめずらしくないかもしれません。でも、我慢の上に我慢を重ねるってつらすぎますよね。働く子育て世代が、自分のやりたいことを育んでいくには、夫婦のあり方から見つめ直すことが必要です。2人の子を持つ母でありながら、自分らしく活動する松田絵理さんに、パートナーシップの作り方をうかがいました。仕事が楽しいのは夫婦2人で変わったから「今、仕事が本当に楽しいです」と笑顔で話す松田さん。現在、広告コンサルタントとして活動する松田さんは、仕事も家庭も順調に見えます。お互い、一生を添い遂げたいと考えているとか。今だけを見ると松田さん夫婦は「お互いを尊重できるすてきな関係」です。ところが最初からいい関係だったわけではなかったようです。かつて2人の頭の中には「離婚」の文字が浮かんでいた時期もありました。当時、松田さんにも夫にも心と時間の余裕がありませんでした。「これじゃいけない」と考えた結果、夫婦ともに働き方を変えたそうです。「なんで、私が?」の不公平感松田さんと夫が出会ったのは、松田さんが26歳で商社勤務の頃でした。出会って2ヶ月目には結婚しようという流れになります。出会ってから結婚までが早く、電撃婚のようにも思えるかもしれません。しかし、必ずしもそうではなかったとか。26歳は学生時代からお付き合いしていた友人カップルが次々と結婚する結婚ラッシュの時期でもありました。「お互い結婚したいタイミングがぴったりだった」と話します。大学卒業後、商社に入社した松田さん。「この会社で結果を出す!」との思いから、転職するつもりはありませんでした。そのため夫の転勤先にもすぐにはついていかず、別居婚を選択します。ところが当時は別居婚という選択がめずらしかったこともあり、周囲からは何度となく「ご主人の気持ちを考えてみたら?」と言われたそうです。自分自身でも中途半端な生活になっていると感じて、商社を離れました。一緒に暮らすために「私はキャリアをあきらめた」そんな思いを募らせる松田さん。一方、キャリアを順調に重ねる夫。被害者意識のあった松田さんにどんどんフラストレーションがたまっていきました。キャリアへの不安や焦りから、夫に八つ当たりばかりしていた松田さん。夫もうんざりしていたと話します。そんな2人の関係を決定的に変えたのは、夫のスイス留学です。「応援したい」の気持ちが夫婦2人の関係を変えた夫のスイス留学が決まったのは、第2子妊娠中のこと。「幼い子ども2人を1人で育てられるのか」大きな不安がありましたが、夫のスイス留学も応援してあげたい。大きな葛藤がありましたが、松田さんは夫を送り出すことに。彼女が待つことができたのは「次は私」という思いがあったからです。夫が不在の間は、電話やメッセージで不満を伝えてしまう事も少なくありませんでした。日本の共働き夫婦は、夫の転勤に妻がついて行く、子育ての状況に合わせて妻が仕事を変える、など「変化するのは女性」という考え方がまだまだ強いですよね。ところが、松田さんの夫はそうではありませんでした。妻と小さな子どもを日本に置いて、1人留学に行かせてくれた妻への感謝の思い。そして周囲の力を最大限に使って仕事と育児を頑張っている松田さんの姿を見るうちに、少しずつ夫も変わっていきました。そして夫が働き方を変えたのは、帰国後も激務の状態が続いていたときのことです。夫が感じていた「我慢は女性」への疑問松田さんの夫は「女性だけが変わらなければいけないのは違う」と考えていました。両親共働きで、父は単身赴任でほとんど家に居ない家庭環境で育った夫はいつも、母親ばかりが大変な状況に疑問を感じていたといいます。また、新卒で入社した会社では子育てのため時短勤務や退職を選ぶ女性を目の当たりにしてきました。いつも調整役になるのは女性であることに違和感を持っていたそうです。そして自身が家庭を築くようになった今、妻である松田さんがキャリアを変え続けフラストレーションを抱えている。自分にもできることはあるのでは?と考えるようになりました。そして夫はIT関連の仕事に転職。少しずつ在宅ワークの割合を増やし、夫も家のことに関われる時間を持てるようにシフトしていきました。夫が家にいる時間が増えるようになって、松田さんにも変化が生まれはじめます。仕事に打ち込めるようになったのはもちろんのこと、1人で旅行したり友人と過ごす時間も取れるようになったのです。余裕を持てるようになると、夫婦で子育てしたかったのだなという自分の望みに気づきました。「私ばかり」という犠牲感の裏には、2人で同じ方向を向くことができなかった寂しさが隠れていたのです。2人の関係が変わったら執着を手放せた「今までは周囲の期待に応え続けることでしか、自分の価値を見出だせませんでした。他人の評価が自分の基準だったので、キャリアへの執着があったのかもしれません」今までの松田さんにとっては、他人の正解が自分の正解だったのかも知れません。しかし、夫婦関係の変化と共に松田さん自身に余裕が生まれたことで、その正解が変わりはじめます。「できてないところではなく、できるところを見るようにしたことで、私は私を認められるようになりました。」そうするうちに、キャリアへの執着を手放すことができたそうです。その結果、仕事を変えることは「キャリアを捨てる」ことではなく「新たな挑戦」なのだと、思えるようになったと松田さんは話します。自分らしい2人に必要な“本音”の共有とはいえ、松田さん夫婦も自然と今のような関係になったわけではありません。お互いが自分らしくあるためにも「家庭を築く努力」が必要だと考えています。夫婦でいる時間が長くなればなるほど、子どもの話以外で何を話していいかわからないという夫婦は多いのではないでしょうか。一緒にいることが当たり前になり「結婚し家庭を築いていく」ための努力をしなくなる夫婦も少なくないですよね。松田さん夫婦がしているのは、週末にお酒を飲みながら「子どもの話をNG」にして、本音を話す時間を持つこと。話さなければお互いに知ることのない「本音」や「好きなこと」「これからやりたいこと」を共有する時間を毎週末必ず作ります。これは「家族や子どもがいたらできないな」という心の制約を解放して、自分のことを考えるためです。お互いに努力と変化を重ねてきたからこそ、無理せず自然にお互いを知るための時間を作れる夫婦関係となりました。”人が好き”だからパートナーシップを広げたい「いろんな仕事をしてきたけれど、これからも大好きな広告の仕事を続けていきたい」と話す松田さん。一般的な広告コンサルは、数値を見て改善策を提案します。しかし松田さんは「数値の裏には人がいる」と考えます。なぜクライアントはその商品を作ったのか、背景に何があったのか。広告コンサルでクライアントの思いや背景に立ち入るケースは少ないからこそ、プロデュース型のコンサルがしたいと松田さんは考えているそうです。「施策の提案なら、すごい人はたくさんいます。でも、背景まで深掘りする人は少数派なのではないでしょうか。以前の私のように、働き方で悩む女性をサポートできたらうれしいです」これからの松田さんのキャリアに、新たな可能性が見えてきました。女性起業家のための広告代理店・スニフアンドスカリー