「自己肯定感」という言葉がよく聞かれるようになりました。しかし、「自己肯定感」とは一体何なのでしょう。「何かができれば上がり、できなければ下がる。状況によって上下するもの」と考えていませんか?「失敗したら下がってしまう。それは本当の自己肯定感ではありません」そう語るのは宮崎直子さん(以下、宮崎さん)。『鋼の自己肯定感』を出版し、自己肯定感を身につけるためのセミナーやコーチングセッションを提供するライフコーチです。宮崎さんの考える、本当の意味での自己肯定感とはどのようなものなのでしょうか?「失敗で下がる」はニセモノ?本物の自己肯定感とは宮崎さんによると、自己肯定感の定義とは「ありのままの自分を無条件に受け入れ愛すること」。何かができなくても、誰かの役に立っていなくても、たとえ失敗しても、自分は存在レベルで価値があると信じることだといいます。私たちはずっと、何かを達成し「評価されること」で自分をはかってきました。そのせいか、「達成」「成功」などの条件を自分に課し、クリアしなければ自分を愛せない、そんな人が多いように見えます。「失敗すると自分が嫌いになってしまう」人も多いのではないでしょうか。それは「自己有用感」や「自己効力感」であり、自己肯定感とは別物です。「混同しがちですが、自己肯定感とは別のものなんです」と宮崎さんは言います。低い自己肯定感が引き起こすこと「自己肯定感」が低いままだと、どんなことが起こるのでしょう。宮崎さんいわく、「誰かの役に立っている」という感覚が、「自己有用感」。自己肯定感の低さを自己有用感で補おうとすると、本当はやりたくないことさえ引き受けるなど自己犠牲に走ってしまうことがあるのだそうです。同時に、他人にも自己犠牲を期待してしまうことがあります。また自己肯定感が低いまま「自分は何かができる」という「自己効力感」だけを高めると、うまくいかなくなった途端、自分の存在価値が揺らぎ、大きく崩れてしまいます。失敗を恐れるあまり、新しいことへのチャレンジもなかなかできない。そんな生き方につながってしまうのです。鋼の自己肯定感は、こうすれば手に入るでは、どうすれば私たちもゆるぎない自己肯定感を身につけられるのでしょうか。自己肯定感は”決意”。そう宮崎さんは教えてくれました。今ここで、「過去に何があっても、今どんな状態でも、未来に何があっても、私は私を受け入れ愛する。自分は一生自分に寄り添い、自分の親友になる」と決めてしまうことが大事だといいます。言葉、思考、行動、そして感情―この4つは密接につながっていて、互いに影響しあっています。決意によって思考が変われば、行動も変わっていきます。思考は行動のスイッチになるからです。そして行動が変わることによって思考が変わる場合も多くあります。宮崎さんがそうだったように、環境を変え多様な考え方に触れることも有効でしょう。また、感情も思考や行動、言葉に影響を与えます。宮崎さんの著書『鋼の自己肯定感』では、思考のワーク、行動のワークなど他にもたくさんのワークが紹介されています。どんな自分でも受け入れると「怠けてしまうのでは」と考える人もいるかもしれません。けれども、その心配は無用です。なぜなら、最も大事なのは自然と湧き出てくる「好き」の気持ちであり、それが「夢中」につながるからです。「”できる”は”夢中”には敵いません。自分が夢中になれることを見つければ、怠けようがないんです」生きづらさはどうして?10代で立てた「問い」本物の自己肯定感が育まれないと、どうなるのでしょうか。具体的なケースを見ていきましょう。宮崎さんの父親は、東大受験に繰り返し失敗。何でもできる優秀な人でしたが、受験の失敗から立ち直れないまま、不本意な人生を送ったのだといいます。宮崎さんもまじめで勉強が好きな子どもでした。しかし「自分は常に一番でなければ人から好かれない」と思い込み、暗い子ども時代を過ごしたのだそうです。常に忙しそうだった共働きの両親も、勉強や健康上の問題にはすぐに向き合ってくれました。一方、心の問題を両親に話そうとしても、「それは時が解決するよ」と忙しい手を止めてくれることはなかったといいます。このような環境のもと、10代の頃の宮崎さんは生き方に悩みました。両親の姿を見て「どうしたら人は、才能を開花させ幸せな充実した人生を送れるのか?」という問いを立てました。たどり着いた答えが「自己肯定感」だったその答えを探しつつ、大学卒業後のアメリカ留学、日本でのIT企業勤務、そしてアメリカに移住しての起業などのキャリアを積んできた宮崎さん。そんな宮崎さんにとって、留学は最初の大きな気づきでした。周りはみんな、堂々と自分の意見を話し、研究の進め方に関しても教授の考えより自分の意向を優先させていました。日本で生まれ育った宮崎さんにとっては「自分の気持ちや意見を言っていい」ということが大きな驚きだったのだそうです。その後、アメリカで会社を経営しているときに稲盛和夫さんの教えと出会い、盛和塾に入りました。盛和塾では経営だけでなく「心」について学べたことが大きかったといいます。「多彩なバックグラウンドをもつ人たちと出会い、視座が高くなりました」その後斎藤一人さんや中村天風さんの教えにも触れ、アラン・コーエンさんからコーチングを学ぶうち、宮崎さんの中に「鋼の自己肯定感」についてのゆるぎない考え方がつくられていきました。自分ファーストでいい。育児と自分との向き合い方はつながっている自己肯定感は子育てにも大きく影響します。「親である自分自身のことも大事にしてあげてほしい。とにかく自分ファーストで考えることが大事」と、無理したり完璧をめざしたりする必要はないと力説します。「お母さんも一人の人間。実現したい夢があるんだよ」と胸を張っていいのです。親に高い自己肯定感がないと、自分ができなかったことの「リベンジ」を我が子に望んでしまったり、価値観を押し付けたりといった子育てにつながってしまうからです。我が子の尊重で見えてくる「子育てでめざすもの」宮崎さん自身、子育てがスタートした頃はここまでブレない軸をもっていたわけではありませんでした。「最初はかなり勘違いしました」と、勉強ばかりさせようとしたり自分が達成できなかったことをやらせようとしたりしたこともあったといいます。しかし、「価値観の押し付けをしないことが大事」と気づいてからは、子育てのゴールは何かを考えられるようになりました。宮崎さんの場合、子育てのゴールは「自立」。「自分で決める」ことを大切にし、何かを始めるときだけでなく途中で辞めるときも本人の意志を尊重してきました。現在16歳の宮崎さんの娘は社交的で明るい子に育ち、いろいろなことにチャレンジしています。宮崎さんの子育ては、どんどんゴールに近づいているのです。自分亡き後に何を残したい?何と言われたい?もし、どうしても目先のことで精一杯になっていたり、「失敗を恐れる気持ち」から抜け出せなかったりする場合はどうしたら良いのでしょうか。そんな人に宮崎さんが勧めるのが「墓碑銘ワーク」です。自分が亡くなったあと、墓碑銘に何と書いてもらいたいか。それを考えることで、人生の真の目的が見えてきます。ゴールは「最高に楽しみながらやり尽くしました」宮崎さんの場合はどうでしょうか。「この世界が、より幸せな場所になるために、直子さんができるすべてのことを最高に楽しみながらやり尽くしました」墓碑銘にはこう記してほしい―そう考え、すべての行動はこれを基準に決めているのだそうです。宮崎さんは長い心の旅の果てに、ゆるぎない「鋼の自己肯定感」を手に入れました。そして今度は「鋼の自己肯定感がある人を増やしたい」という夢をもっています。英語・日本語ともにもっと本を書きたい、コーチングやセミナー、研修などを通してこの考えを伝えていきたいというビジョンを語った宮崎さん。世界一の親友である自分自身と共に、笑顔で歩みながら、自分の使命を果たそうとしています。宮崎直子オフィシャルサイト「鋼の自己肯定感」