30歳までに結婚したい。子どもを生みたい。プライベートの充実やキャリアアップを考えて転職を視野に入れるなど、30歳をひとつの節目と考える人は多いのではないでしょうか。社会人生活にも慣れてきた30代は、周囲からも中堅として見られるようになります。今年30歳になる中島絵里夏さん(以下、中島さん)もその一人。ただ、いまのところ彼女に転職の予定はありません。「まったく不満がないわけではありませんが、辞めてしまうほどではありません。自分で変えていけばいいと思っています。」言っても変わらないとあきらめて転職。あるいは転職しないものの、期待以上の成果を目指さない「静かな退職」の風潮も広がっています。そんな中、なぜ中島さんは「変えていけばいい」と思えるのでしょうか。中島さん流の心地のいい職場の作り方を聞きました。「心地いい職場づくり」は、誰のため?「言っても変わらない。もちろん、そのような意見も社内にはあります。でもそれは、そもそも会社の方針に沿っていなかったり、それをやるタイミングではないことも少なくないと思うんです。もうひとつは、適切な人に話をしていない可能性もあるのではないでしょうか。」話をするタイミングと、話をするべき人を見極めること。これらは簡単なようでいて難しい高度なコミュニケーションです。中島さんが20代でそのようなふるまいを身に着けられたのは、何がきっかけだったのでしょうか。「人からはよく気がつくね、と言ってもらえるのですが、実は面倒くさいことが苦手なんです。誰だって、できるだけ効率よく仕事がしたいですよね。特別な理由もなく、慣例的にやっていることはやめましょう、など思ったことを口にするタイプです。でも、それで相手が不機嫌になったら自分も仕事しにくくなります。ですからきちんと手順を踏んで、事前に地固めをしておくんです。働きやすくて、心地のいい環境を整えることは結局は自分のためだと考えています。」「どうせ変わらない」という、あきらめと閉塞感。組織の中で働いたことのある人なら、誰もが一度はそうした思いにとらわれたことがあるはずです。波風立てまいとして主張しない。あるいは、いきなり最後通牒をつきつけるかのどちらかを選ぶ人も多い中、中島さんのような考え方はとても建設的です。とはいえ、どうやって自分の働く環境を整えればいいのかわからないという声もあるでしょう。普段の仕事の中で、中島さんはどのような心がけをしているのでしょうか。心地いいコミュニケーションの秘訣は雑談中島さん流コミュニケーションのコツは、包み隠さずさらっと伝えることです。たとえば、会議の場ではじめて意見を出すと反対にあうので、日常会話の中に織り交ぜながら、あらかじめ周囲に自分の考えを伝えておくといいます。新入社員の頃は「雑談よりも、仕事すればいいのに」と思っていた中島さん。コロナ禍以降、機会は少なくなったものの、以前は職場の飲み会にも積極的に参加していました。中島さんは、実はお酒が飲めません。それでも参加していたのは、飲み会になると自分のことを話す人がいることに気がついたからでした。中には「あのとき、本当はこう思っていた」という話をする人も。しかし雑談だけで終わらせないところが中島さん流です。話の最後には「そういえば、あの書類の件」と仕事の話を織り交ぜます。そうした経験を繰り返すうち、中島さんはスムーズに仕事をするには業務に直接関係のない話をすることも大切なことを学びました。普段から自分の考えていることを周囲に伝えておくと意見が聞き入れられやすく、周囲とも良好な関係を築ける。というのは、すべての職場にあてはまるわけではないでしょう。また、必ずしも意見が聞き入れられるとは限りません。もちろん若手の意見に耳を傾ける土壌のある職場を選ぶことも重要です。その点、中島さんが働く株式会社モレーンコーポレーション(以下、モレーン)は副社長をはじめ、役職者を中心に雑談する雰囲気のある会社だといいます。心地いい職場には「場を作る」空気がある大学で開発経済を学んだ中島さんは、感染症対策の製品の販売や感染管理のコンサルティングを行うモレーンに入社しました。当時、途上国のフェアトレードの問題に関心を持っていた中島さん。感染症対策に特別な興味があったわけではありません。ところがモレーンの話を聞いて、働く環境と人の命は密接な関係があると感じました。過酷な環境での労働はときに命を落とすこともあります。その点はフェアトレードと同じだと気づいたからです。同時に、会社説明会では役職や年次に関係なく、スタッフ全員でその場を作り上げようとする雰囲気を感じたそうです。社会人は1日8時間、ときにはそれ以上の時間を仕事をして過ごすことになります。職場の同僚や上司と過ごす時間は、もしかすると家族よりも長いかもしれません。中島さんにとって職場の心地のよさは譲れない条件でした。そして実際に働く人の様子を見て、彼女はモレーンで働くことを決めました。心地いい職場づくりと仲良くすることは同じじゃない働く人で会社を選び、職場の飲み会にも参加する中島さんは、ウェットな人間関係を好むタイプだと思うかもしれません。意外にも中島さんは、仕事とプライベートは分けたい派。休みの日は完全にオフになれるように、職場から離れたところに住んでいます。職場から離れていると通勤に時間がかかります。そうした中で2人の子どもを育てながら働き続けられるのは、インサイドセールスの仕事をしているからでしょう。これまで、営業は直接お客さまと対面することがほとんどでした。ところがコロナ禍以降、電話やメールのみで営業するインサイドセールスという営業手法が一般的なものとなりつつあります。対面での営業は9時〜18時の営業時間中にアポイントメントがとれないこともありました。その点、インサイドセールスには移動時間がありません。営業時代よりもプライベートを大切にできるようになったといいます。プライベートが充実するのは職場といい関係を築けているからではありますが、必ずしも仲良くすることと同じではなさそうです。休日は子どもたちとパン作り最近、中島さんが休日にハマっているのは、子どもたちと一緒にパンを作ること。中でもクリスマスの頃に北欧の人が食べるサフランが入ったパン「ルッセカット」がおもしろかったそうです。以前の中島さんは、好きなときに、自分の好きなものを食べていました。しかし母親になってからは食事に興味を持つように。コロナでおうち時間が増えたのをきっかけに、海外の食事事情を調べるうち、パン作りにのめり込んでいきました。心地よさは、一緒に作っていける相手からこれまで子育てのために仕事量をセーブしてきた中島さんは「子どもの手が離れてきたらもう少し仕事に時間を割いていきたい」と話します。具体的には、プロジェクトのサポート役からリード役への転身です。これまで以上に自社の取り扱う製品への理解を深めながら、モレーンらしいインサイドセールスチームを率先して作っていきたいといいます。「いざ自分が30代を迎える年齢になってみると、入社時に思っていた30代のイメージよりは大人ではないと感じます。まだまだの部分はありますが、年を重ねたことでものの見方が変わっていることにも気づくようになりました。私にとって、子どもは大切なことに気づかせてくれる存在です。親になってはじめて、小さかったときに親がかけてくれた一言の意味に気づくことも増えました。そうしたことの積み重ねから、自分の成長も感じられます。子どもとは、友達のような感覚で話ができる親でありたいです。いまはまだ小さいけれど、小学生になると子どもの世界も変わるはず。あなたはそういう経験をしたのね。私はこういう経験をしてこんなふうに思うんだけど、あなたはどう思う?と言える親でありたいです。」これは子育てについての話。しかし中島さんが心地よさを感じるのは、仕事にしろプライベートにしろ、一緒に作っていける相手なのでしょう。今年30歳になる中島さん。仕事も子育てもますます楽しみな時期がはじまります。中島さんが働くモレーンコーポレーション編集後記いい意味で、中島さんはギャップのある女性でした。自分の意見をはっきり伝えるところなど、静かにほほえむ彼女の様子からは想像できなかったからです。お話しをうかがって「自分が20代の頃はこんな考え方はできなかったな」と勉強させていただきました。年齢も住んでいる場所も、職種もまったく違う、接点のなかった方の人生や価値観をのぞかせていただく。だからライターはおもしろい!と改めて感じました。