「子育ても仕事も、自分次第。そう考えるようにしています」静岡県沼津市でIT企業を経営する佐々木理誉さん(以下、佐々木さん)はこのように話します。日本のIT業界において、女性エンジニアの割合は2割ほど。そんな中、佐々木さんは女性エンジニアとしてキャリアを積み、現在は株式会社グリーミン・ビッグウェル(以下、GB社)を経営するまでになりました。彼女がエンジニアを目指し、「すべて自分次第」と考える背景には何があったのでしょうか。数学からプログラミングへGBは、中小企業のDX推進を支援する会社です。Pythonを使ったWebシステムの受託開発を主軸に、業務効率化のコンサルティングやパッケージソフトの販売も手がけています。佐々木さんがITの世界に足を踏み入れたのは、大学2年生の時でした。大学で数学を学んでいた彼女は、プログラミングの授業でその魅力に引き込まれました。興味は授業の枠を超え、佐々木さんを更なる挑戦に導きます。大学3年生のとき、国際大学対抗プログラミングコンテストのアジア大会に出場するまでになったのです。優秀なプログラマーと競い合うことで、自身の可能性とプログラミングの奥深さを再認識した佐々木さん。大学卒業後は、携帯電話の通信システム開発や信用金庫のシステム部門での経験を経て独立。その後2017年に自身の会社を設立しました。3年後、5年後はどうしたいですかGBの特徴は「人を育てる」姿勢に表れています。佐々木さんは顧客と関わるときも「会社として、3年後、5年後はどうしていきたいですか」と問いかけます。単なるシステム開発にとどまらず、クライアントの成長を見据えた提案を心がけているのです。背景には、佐々木さんの信用金庫での経験があります。「信用金庫では職員や業者とのコミュニケーション、システム仕様の立案、開発も実際の運用まで携わりました」と振り返ります。特に職員の業務効率化のための相談が多かったことから、システムを通じて人の働き方を改善できることを実感しました。顧客の声に耳を傾け、3年後、5年後を見据えた提案をする彼女の姿勢は、この時期に培われたものだと言えるでしょう。GBがPythonを主要言語として採用する理由も、顧客の将来を見据えた判断です。「Pythonは、AIの導入やビッグデータの分析など、将来を見据えた提案ができる言語です」と佐々木さんは説明します。顧客の未来の需要を予測し、それに応えられる技術を提供することで、長期的な成長をサポートしているのです。未経験者にもチャンスを佐々木さんは社員の育成にも熱心です。今は少数精鋭の会社ですが、その半数が女性であり、多くが未経験からプログラミングを学んだメンバーです。特筆すべきは、未経験者の育成に力を入れていることでしょう。実際、当時横浜に住んでいた佐々木さんが遠隔でプログラミングを教えた沼津在住の主婦の一人は、現在GBの社員として活躍しています。「面談のときは、社員がどんな仕事をしたいのか、今後どうしていきたいのかを深く聞きます。その後はできるだけその人がやりたい仕事を受注してきて、プロジェクトにつけるようにしています」。社員一人ひとりの個性や強みを理解し、それぞれの成長をサポートすることに力を入れているのです。娘に伝える「自分で限界を作らない」未来志向の「人を育てる」姿勢は家庭でも貫かれています。娘とは毎晩寝かしつけの際に学校であったことや悩み事を話し合います。「そのとき、あなたはどうしたの」「そのとき、どんな気持ちだった?」と、娘の気持ちに寄り添いながら、道徳的な価値観や、周りの人と良好な関係を築くことの大切さを伝えているのです。仕事と家庭の両立という女性にとって困難なテーマにも、佐々木さんは前向きに、そして自身のスタイルを確立しているようです。「実際、会社を経営していると、プライベートと仕事との間で葛藤を感じたこともありました。思うように娘や友人との時間を作れないこともあります」と告白します。「でも私は、仕事を通じて人を喜ばせたり、何かを生み出したりすることが好きで、私らしいと思うんです。何かを理由にできないと考えたり、やらなかったりするのは、もったいないですよね」。自分の選択を肯定的に捉え直す努力をすることで、佐々木さんは自分自身のワークライフバランスを支えています。そんな佐々木さんが、娘に伝えたいことは明確です。「言い訳はいくらでも作れる。限界を作らずに、大きく大きく考えてほしい」。この言葉には、自身の経験から得た教訓が込められています。本当の豊かさに貢献できる会社をつくる「限界を作らない」という考え方は、佐々木さんの将来の展望にも反映されています。「最終的には海外でビジネスをしたいです」と、野心的な目標を掲げます。その背景には、日本の技術力への自信があるようです。「日本の緻密さは、プログラム開発の面にも表れています。私たちはそこをもっと深めて、尖らせていきたいです。そして、デジタル領域から、本当の豊かさに貢献できる会社にしていきたいです」そう話す彼女の言葉には、次の世代のために、社会に真の価値をもたらす企業を目指す強い覚悟と意志がありました。株式会社グリーミン・ビッグウェル