
夫婦ゲンカは悪じゃない!カウンセラーに聞く「夫との上手な戦い方」
2024/2/8
「ケンカは必ずしも”悪”ではありません。夫婦ラブラブ、仲睦まじく、を理想だと考える人が多いのですが、それって極めて非現実的なんです」
そう語るのは、沢野まもるさん(以下、沢野さん)。夫婦間のコミュニケーション、家族心理学の専門家です。
バレンタインデーには、大切なパートナーに日頃の感謝の気持ちや愛情を伝えたい。
でも、小さなわだかまりがあるしどうも最近夫婦の関係性がしっくりいっていない気がする……。
マレキュール読者の中にも、そんな方がいるのではないでしょうか。
夫に言いたいことはいろいろあるのに、「ケンカはいけないもの」と我慢していませんか。時には苦しくなって一気に爆発してしまうこともあるかもしれません。
その結果、取り返しのつかない問題に発展……などということも起こりうるのが夫婦の難しさです。
沢野さんによると、まったくケンカをしない夫婦より、ちょっとしたケンカを乗り越えていく夫婦の方がいい関係を築けるという研究もあるのだとか。
暴力や相手の人格否定、ハラスメントはもちろんNG。でも上手にケンカすれば夫婦はより仲良くなれるらしいのです。
上手な夫婦ゲンカ。そんなものが存在するのだとしたら、方法を知りたくないですか?
Win-Winになれる夫婦ゲンカの方法とは?

「まず、大事なのは共通目的です」と沢野さんは言います。
最初は話し合いだったものが言い合いになり、さらに言い争いに発展してしまう。その過程で、いつの間にか相手に勝つことが目的になってしまうことがあります。
お互いが自分の正当性を主張すると対立モードになり、二人ともダメージを負うことにつながりかねません。
そんなときは、「そもそも何のために自分たちは夫婦になり家庭を築いているのだろう」と考えてみることを沢野さんは勧めます。
どんな夫婦でも、幸せな結婚生活や家庭づくりが目的で一緒になっているはず。ここに二人で立ち戻ることが大切なのです。
話し合いをするときには、主語を「私たち(We)」にすることもおすすめだと沢野さんは教えてくれました。
「私たちは、どういう子育てをしていこうか」「私たちにとってもっといい週末の過ごし方ってどんなものだろうね?」
このような「Weメッセージ」を使って投げかけることで、さらに2人にとっての最適解が導きやすくなるというのです。
「普段から自分たちが夫婦や家族としてどうありたいのか。雑談や日常生活の中で話していけると良いですね」
とはいえ、夫婦はお互いに最も身近な存在。つい感情的になることもあるでしょう。
そんな場合におすすめしたいのは沢野さんが教えてくれたアンガーマネジメントの「幽体離脱」という手法です。
ヒートアップしてきたと感じたら、幽体離脱しているかのように自分を少し離れたところから客観視します。
「この状況は夫婦の目的に近づいているのか、遠ざかっているのか」と考えると冷静になれるといいます。
それにしても、夫婦の悩みに特化したカウンセラーはめずらしい存在です。沢野さんはなぜ、夫婦関係のカウンセラーになったのでしょうか。
本当に大切なのは「キャリア」より「家族」だった

沢野さんは、かつて大企業でバリバリ働く会社員でした。しかし、次第に「がんばっても満たされない」思いを抱えるようになったといいます。
そんな折、企業内でキャリアコーチングを受ける機会がありました。価値観を探っていく中で出てきたのは「家族」というキーワードでした。
両親から愛されて育った沢野さん。家庭は自分にとって充足感を与えてくれるよりどころであって欲しいと考えていました。しかし実際には、仕事ばかりで妻に家事育児を押し付けていたことに気づきます。
沢野さんは二人目の子どもが生まれたタイミングで、当時男性ではめずらしかった育休を1年半取得。
その後「コーチングを仕事にできないか」と考え、コーチ・研修講師としてのキャリアを歩み始めました。
しかし「家族のために」とキャリアチェンジしたにもかかわらず、妻との間には揉め事が絶えなかったといいます。
そこで「鏡の法則」で有名な野口嘉則さんのカウンセリング講座を受けたことが転機になりました。カウンセリングの奥深さに目ざめると共に、沢野さん自身も野口さんのカウンセリングを受けて夫婦の関係が改善。夫婦関係に対するカウンセリングの効果を実感したのです。
沢野さんはカウンセリングや心理学を専門的に学び、夫婦の悩み相談カウンセラーとしての道を歩み始めました。
いちばん身近な相手だから、大切で難しい
人生100年時代、夫婦の関係づくりは一生続きます。
高い学歴や大きな会社への所属だけで幸せになれるとは限りません。有名人や芸能人の離婚もよく報じられています。
ハーバード大学が長期にわたり2,000人以上を追跡調査した「ハーバード成人発達研究」によれば、「幸福と健康の維持に本当に必要なものは、身近な人との人間関係」なのだそうです。
心の土台には夫婦関係があり、ここが安定すれば仕事にも意欲的に取り組めます。
とはいえ、日々接する相手との関係を維持するのは簡単なことではありません。近い相手だからこそ、甘えが出てしまうこともあるでしょう。
夫婦の関係をつくっていくには、地道な工夫と努力が必要なのです。
その一つが、相手との違いを受け入れることです。
「違いは間違いじゃない」から出発する関係づくり
「違いは間違いじゃない、夫婦は違っていて当然なのです。その上で違いをお互い理解し合えると良いですね」
そう沢野さんは言います。
そもそも、「あって当然」という夫婦の違いはどのようなところから来るのでしょう。
ひとつには性別の違いが挙げられます。「レッテルを貼るわけではありませんが、男女の脳に異なる傾向があることは研究でも分かっています」
男性は問題解決型なのに対し、女性は共感型の傾向があり自分と同じであることを求めがち。相手が自分と同じ感じ方ができないと気分を害してしまう場合があります。
「きれいな景色ね」と言った妻に対し夫が「そうでもないんじゃない?」と言うと不機嫌になってしまう。そんなケース、読者も思い当たることはないでしょうか。
違う二人が一緒にいるからこそ見えてくるもの
もうひとつ挙げられるのが「育ってきた環境の違い」です。
たとえば食事の取り分け方、餃子に何をつけて食べるか……ひとつひとつは小さなことですが、背景には生まれ育ってきた家庭環境の違いがあります。
そういった違いがあると、私たちは「相手が間違っている」ととらえがちです。加えて、相手に「違う」と言われると否定されたように感じてしまう場合もあります。
「もちろん自分の意見が否定されて喜ぶ人はいません。ただ、必要以上に傷ついたり、自分の存在そのものが否定されているように感じる場合は、そこに何か理由があるのかもしれない」
相手と自分の違いに対して感じる気持ちは、幼少期の親との関係や自己肯定感とも密接につながっているのだといいます。
夫婦のあり方を見つめることは、自分自身を見つめることでもあるのです。
根っこではつながっている夫婦になりたい

「うちもけんかはしょっちゅう。日々努力や工夫をしています」
そう話す沢野さんですが、以前より寛容になり、ケンカをしても仲直りが早くなったのだとか。
カウンセラーとして積み重ねたものが自身の夫婦関係改善にも役立っているのだといいます。
阪神タイガースファンの沢野さん。妻も昨年ファンになりました。今年もたくさんの試合を一緒に応援することを楽しみにしています。
「表面的にはいざこざがあったとしても、根っこではお互いかけがえのない存在で、自分以上に相手を大切に思っている。そんな夫婦でありたいですね」
夫婦の悩み相談カウンセリングの申込みは増え続け、最近では依頼をすべて受けられないこともあるといいます。
できるかぎり多くの悩みに寄り添いたい。その思いから、今年は書籍の出版も予定しています。
一生続く夫婦関係、どうせなら上手にケンカを乗り越え、対立よりもWin-Winな関係をめざしてみませんか。そのことは必ず私たちの人生の幸福度を高めてくれるはずです。
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