「すみません」ワーキングマザーの多くが、さまざまな場面で頭を下げています。時短勤務で仕事を切り上げる時、子どもの発熱で休むとき、お迎えの時間に間に合わなかった時など。「母親だからちゃんとしなきゃ」と思うからそうするわけですが、いつの間にか心や生活全てに余裕がなくなっているように感じるのは気のせいではないはず。 心の呪縛から解かれるためには、どうすればいいのでしょうか。世のワーキングマザーが睡眠時間を削ってまで自分の役割を果たさなければならないと考えるのはなぜなのか。今回は「日本のワーキングマザーは世界一睡眠時間が短い」というnoteを書いた瀬尾真理子さんに、ワーキングマザーを考察する中で見つけた「心と体に余裕を持つ生き方」をうかがいました。ワーキングマザーの睡眠時間が短い理由今回瀬尾さんにお話をうかがいたいと思ったのは「ちゃんとしていたら眠れない」というワーキングマザーのタスクの多さに着目していたことでした。慶応義塾大学経済学部の津谷典子教授によると「妻が35時間以上のフルタイム就業をすると夫の家事時間は有意に増加するが、増加の絶対値は週平均1時間ほど」だそう。また、次のように指摘しています。自分の就業時間が長くなるほど、妻は家事に費やす時間を減らすが、それでも多くの場合、就業時間が増えた分だけ家事時間を削ることはできず、結果として、働く妻の多くが仕事と家庭の両方を担っている出典:津谷典子「夫婦の就業と家庭内ジェンダー関係の結婚へのインプリケーション」そして、ほとんどのワーキングマザーは母親、仕事、妻、どの役割においても「ちゃんとやらないと」と考えています。その結果、睡眠時間を削ることにつながっているのでしょう。私たちは周囲の期待を内面化しているしかし全てを完璧にこなすのは無理があります。完璧であろうとすればするほど、タスクは増え睡眠時間や心を癒やすための時間が減ります。そもそも、なぜ私たちは睡眠時間を削ってまで完璧であろうと考えてしまうのでしょう?「母親なんだから」「母親なのに」21世紀になっても、このような声は多いですよね。子育てや家事は夫婦で行うものですが、日本では母親への期待が大きいと感じています。そうした周囲の期待をとらえて、私たちは自分の役割にしています。そして実際に、一人でこなしている現状。それらが重なりあって心の余裕が消え、自分を追い詰めているのです。期待の内面化こそが、多くのワーキングマザーが抱えている心の呪縛の正体ではないかと瀬尾さんは考えています。そのために必要なのは母親や妻がやるべきとされている家事や育児の必要性をもう一度冷静に考えることです。具体的には「なぜそうなっているのか?」を俯瞰して見ること、そして「やらなくてもいいことはやらない」と決めることだと言います。瀬尾さんがそんな風に考えられるようになったのは、歩んできたキャリアの中に答えがありました。やらなくていいことを見極めるには現在フリーランスとして活動をしている瀬尾さん。広告制作会社などいくつかの仕事を経験する中で「自分で時間をコントロールできない働き方」は合わないと感じたそうです。とりわけ睡眠時間を削ると、心身の余裕がなくなります。すると仕事のミスも増えます。プライベートもうまくいきません。睡眠の大切さに気づいた瀬尾さんは、自分の生活を犠牲にしない働き方・暮らし方をしたいと考えるようになりました。そして、実際にその両方を変えていったのです。「逆の立場ならどうか?」を考えてみる実は以前は瀬尾さんも、夫や夫の両親に子どもを預けるときは、お膳立てした上でお願いすべきだと思っていた時期があったそうです。ただ、あるとき思いました。「これは、夫が逆の立場ならやらないのでは?」逆の立場なら、そこまでしなくてもいいと気づいたそう。またあるときは夫が予告なしに友人を家に連れてきてしまうことがありました。片付いていない家は「奥さんがちゃんとしていない」と見られるかもしれません。はじめはそれが嫌で仕方なかったそうですが、次第に瀬尾さんは「家を片付けるのは妻だけの仕事ではないのだから、自分が引け目を感じる必要はない」と考えるようになったそうです。「普通」とは何なのか。自分は何に対して嫌だと思っているのかを整理できると、1つ心に余裕ができることに気づいたのです。「なぜ、こうなっているのか?」を考えてみる瀬尾さんも共働きのワーキングマザーですが、夫との家事分担ははっきりとは決めていません。瀬尾さん自身は家事分担をきっちり決めたいタイプですが、夫は「やれるときにやれる方がやろう」というタイプです。家事分担の形は夫婦の数だけあります。きっちり決めた方がよいカップルもいれば、そうでないカップルもいるでしょう。いずれにしても、女性だから、母親だからという役割に縛られずに、お互いが納得できる形が作れれば理想ですよね。瀬尾さんは疑問を感じたときは目の前のことから少し距離をとって「なぜ今こうなっているんだろう?」と、冷静に見ることの大切さを教えてくれました。娘に負の遺産を残さないために瀬尾さんには2人の娘がいます。瀬尾さんの願いは、娘たちに母親、妻はこうあるべきという負の遺産を残さないことです。何でもできる母親・妻は素晴らしいですが、子どもの立場からすると重荷になってしまうこともあるかもしれません。無意識のうちに「これくらいできて当たり前」という期待を内面化することにもなるでしょう。そのため瀬尾さんは家事や育児は完璧を求めずに、ある程度の隙があっても構わないと考えています。世の中から期待される母親像にとらわれない姿を見せておくことは将来の娘たちの心の余裕にもつながっていくのではないでしょうか。もちろん娘が瀬尾さんの姿を見て「私はもっときっちりしたい」と思うならそれで構いません。選ぶのは本人。自分の意思で役割を決められるのが1番だと考えているのです。「大変なこと」にも終わりがある娘たちが成長し余裕ができた今、瀬尾さんは「これからは、今大変さを感じている人の力になりたい」と話してくれました。地域の仲間とともに、子育て家庭をサポートする活動をはじめています。「今が1番大変」これは、ワーキングマザーが感じていることだと思います。しかし育児の大変さには終わりがあります。その頃には今とは違った景色を楽しめるようになるに違いありません。自分に少し余裕ができたからこそ、できること、楽しみもあります。瀬尾さんの未来は、地域の仲間と共に作られていきそうです。瀬尾真理子さんのnote