子どもの成長を後押ししたい。でも、つい過保護になってしまう。そんな人も少なくないでしょう。働く子育て世代は部下や後輩を持つ年代でもあります。干渉しすぎず、放任でもない。「距離感をどうするか」という問題は、人材育成に共通する悩みかもしれません。秋田県で税理士として活躍する髙橋晃彦さんは、「企業経営の伴走者」をモットーに「未来会計」という新しいサービスを展開しています。11月の税を考える週間を機に、企業の伴走者として活動する税理士・髙橋さんのストーリーから、仕事と子育ての共通点を探ってみましょう。「未来を描く」これからの税理士の仕事「お金の話ってしにくいですよね。その点、税理士は経営者からすると、唯一すべてをさらけ出して相談できる相手なんです」と髙橋さん。税理士業務といえば、過去のデータに基づく記録や申告というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし髙橋さんが代表を務める株式会社RINGS PRO(以下、リングスプロ)が焦点を当てるのは、未来です。髙橋さんが「未来会計」を始めたのは、企業経営者の真のニーズに応えたいとの思いがきっかけでした。「経営者の一番の関心は、どうすれば経営を良くしていけるのかということ。つまり、未来の話なんです」と髙橋さんは言います。過去の会計データや制度や法律面だけでは答えられない、企業の未来を共に創造していくのが未来会計なのです。半年後、1年後にわかる未来会計の底力未来会計は、クラウド会計システムの導入を促し、企業が自社で経理・会計を行う体制づくりから始めます。財務状況をタイムリーに把握できるため、経営への理解度やコスト意識の向上につながり、じわじわと業績アップに効いてくると言います。実際、導入企業では大きな変化が生まれています。業績が伸び悩んでいた企業の支援に入り、交渉した結果、銀行の信頼を得られて業績も向上した企業は少なくありません。しかし、初期には反発もありました。「前の税理士さんのときは書類を渡すだけで済んだのに、税理士法人RINGSになったら急に記帳を自分でやらなければいけなくなった」「作業が増えたのに、なぜ顧問料が高くなっているのか」といった声もあったそうです。それでも半年、1年と経つうちに会社の状況が見えるようになり、何をすればよいかわかるようになった企業は業績が向上。「とてもよかった」という声に変わっていきました。「もうかる業種」はなくなった 税理士が見た25年髙橋さんが税理士を目指したきっかけは、大学時代に国税職員と税理士の2つの選択肢を比べたことでした。「2つの仕事のフィールドは似ている部分もありますが、税理士はコンサルティングも同時に提供することが見えてきました。仕事の幅広さやおもしろさを考えてみると、私は税理士の仕事に可能性を感じました」。税理士として25年以上のキャリアがある髙橋さんは今、世の中の大きな変化を感じています。「以前は、利益が出やすい業種とそうでない業種が比較的はっきりしていました。ところが15年ほど前から、業績の良し悪しは業種に関係がなくなりました。現在は業種に関わらず企業間の格差が激しくなっています」先が見通せない時代だからこそ、自ら未来を描くことが求められていると言えるかもしれません。ワークシェアで柔軟性アップ企業の未来に伴走する上で、髙橋さんが気をつけているのは全部の仕事を自分ひとりでやろうとしないことです。税理士業務では、一人の担当者が15件〜20件ほどの担当先を持つのが一般的ですが、リングスプロはデータ解析や資料づくりなどの業務ごとに担当者を割り振り、複数の職員が1つの企業に関わる体制にしています。複数の職員がその企業について「知っている」状態をつくることで、担当先の希望に応じて柔軟に対応できるようにしているのです。さらに、情報は良いことと悪いことをセットで伝えます。「支援先からいただいた情報をシミュレーションし今までのやり方だとAですが、少し変えるとBになりそうですね、という話をしています。特別に新しいことをしなくても、ちょっと方向性を変えるだけで大きく変わっていきそうですよ、と。情報を共有して計画を作り、1年経ったら見直すことを繰り返していきます」。経営支援も子育ても「答えは相手の中」にただ、どの方向に進むかを決めるのは「自分ではない」という髙橋さん。その姿勢は、子育てにも通じています。たとえば、髙橋家の2人の子どもたちは、ジュニアNISAの運用商品を自分で選んでいるそうです。「人気なのはこの商品。この商品はものすごく良くなる可能性もあるけれど、極端に悪くなる可能性もあるらしい」と、運用商品はピックアップしたいくつかの中から、子どもたちに選択させました。2人の子どもたちの運用成績は、対照的だといいます。しかし、髙橋さんは次のように経験させることの大切さを力説します。「子どもにも、大人に伝える情報と同じように正しい情報を伝えようとしています。失敗も含めて、実感するっておもしろいじゃないですか」。6歳児が教えてくれた人の育て方「子育て中の資格試験は本当に大変でした」と振り返る髙橋さんには、娘との印象的なエピソードがあります。髙橋さんが税理士試験に挑戦していた当時、娘は6歳。仕事をしながらの受験勉強は、家族の理解と協力なしには成し遂げられないものでした。特に集中が必要な模擬試験の時間は「この時間だけは入ってきてほしくない」と娘に伝えて勉強をしていたそうです。しかし、ある日の模擬試験中、気づかないうちに娘が部屋に入ってきていました。「2時間の試験時間が終わってほっとした時に、部屋の隅に娘がいることに気づきました。『何をしていたの?』と聞くと、娘は絵本の文章をノートにびっしり書き写していたんです」静かに父親の勉強する姿を見ていた娘は、自分なりに「勉強」というものを解釈し、実践していたのでした。その姿を見た髙橋さんは深く感動したといいます。さらに、娘が「お父さん、勉強って大変なんだね」とポツリと言った言葉は、今でも心に残っています。未来は待つ力で育つこの体験は娘の学習意欲に大きな影響を与えたようです。「今、娘は小学6年生ですが、勉強しなさいと言ったことがありません。自分から取り組んでくれます」と髙橋さんは話します。一方、試験勉強の様子を見ていなかった息子には、よく注意しているそうです。「親がどう生きているか、それを子どもはちゃんと見ているんですね。言葉で伝えるより、背中で示すことの方が大切なのかもしれません」髙橋さんのこの経験は、親子関係における重要な気づきをもたらしました。必ずしも教えることだけが、子どもの成長を支援することではない。ときには親が必死に学ぶ姿を見せることも、子どもの成長にとって大切な機会となるのです。これはクライアント企業の支援にも通じるものがあると髙橋さんは考えています。焦って答えを出そうとしない。相手の中にある答えが形になるのを、じっと待つ。髙橋さんからは、親としても、税理士としても、人の成長に寄り添う姿勢が伝わります。髙橋さんの"待つ力"は、6歳だった娘から教わったのかもしれません。あんしん経営をサポートする会株式会社RINGS PRO税理士法人RINGS