「お客様のタイプを見極めて、それぞれに合わせた対応をすることが大切なんです」。 名古屋市内のスナックで週2-3日、ママとして働く但住奈都貴さん。13年にわたる税務署のキャリアを持ちながら、人と人との温かな交流の場を創り出す仕事を選びました。2月9日は「副業・複業の日」。「フ(2)ク(9)」の語呂合わせから生まれたこの記念日に合わせ、デジタル時代における"複業"の可能性と、人間らしい働き方のヒントを探ってみました。コミュニケーション力が導いた意外なキャリアチェンジ「税務署での仕事も楽しかったんです。人と会って話す機会が多く、コミュニケーション能力が必要という点では、今の仕事と共通しています」。しかし、子育てとの両立の難しさから、税務署を退職。時短勤務でも実際の仕事量は変わらず、保育園のお迎えが夜7時になることもめずらしくありませんでした。組織のシステムに違和感を覚えた但住さんは、以前から興味のあったスナックの仕事に転身したのです。リアルな場だからこそ生まれる価値スナックには、話を聞いてほしい人、楽しくお酒を飲みたい人、人との交流を求める人など、様々な目的を持った客が訪れます。20代から70代まで幅広い年齢層の客層を持つ但住さんにとって、特に印象的なのは経営者やフリーランスの方々との会話です。特に大事なのは"聴く"ことだと但住さんは話します。お客様の表情や仕草、声のトーンから、その日の気分や話したい内容を察知することが大切なのだそうです。たとえば、仕事の愚痴を言いたそうな客には、まず5分ほど黙って聴くようにします。その後「それは大変でしたね」と共感の言葉を添えると、表情が和らぐとのこと。この経験は子育てにも活かされています。子どもの話も最初は遮らずに聴くことで、学校であった些細な出来事も話してくれるようになりました。予測不能な交流の温かさスナックならではの魅力について、印象的なエピソードがあります。「あるとき、カウンターで隣り合わせたお客様同士が、実は同じ業界で似たような悩みを抱えていることが分かり、意気投合されたんです。SNSだと同じ興味を持つ人と意図的にマッチングできますが、スナックでは思いがけない出会いが生まれる。その予測不可能性も、リアルな場所の面白さだと思います」。どんな話題にも対応できるよう、日頃から勉強を欠かさない但住さん。客それぞれの興味や関心に合わせて会話を展開していく過程に、この仕事の醍醐味を感じているようです。「オンラインでは得られない温度感があるんです。隣で話せたり、向かい合って話せたりする。その温もりこそが、スナックという場所の価値だと思います」デジタル化が進む現代だからこそ、人と人が直接触れ合える場所の重要性は増していくと但住さんは考えているのです。子育てとの両立 - 新しい "いい母親" の形夜の仕事と子育ての両立について、但住さんは確固たる考えを持っています。「夜一緒に寝られないことが、良くない母親だとは思いません。短い時間でも濃密なコミュニケーションを心がけています」日中は子どもとしっかり向き合い、スナックで培ったコミュニケーション力を活かして子どもの話に耳を傾けています。夜の仕事中は夫が子どもと過ごし、どちらかの親が常に一緒にいられる環境を整えました。この新しい生活リズムを確立してからは、以前に比べて子どもの様子も安定してきたといいます。自分らしい働き方を見つけるために「楽しいこと、嫌いじゃないこと、人の役に立てること。この3つが揃う仕事を探してきました」税務署を退職後、ライターや事務職など複数の仕事を経験した但住さん。試行錯誤を重ねる中で見つけたのが、現在のスナックママという仕事でした。「一般的な "正しさ" にとらわれる必要はありません。それぞれの環境に合った、自分らしい方法を見つければいい」そんな彼女の言葉には、既存の価値観に縛られることなく、自分なりの答えを見つけ出した確信が感じられます。将来は自分のお店を持ちたいという夢も語ってくれました。「リアルで人と人がつながれる場所として、デジタル化が進んだ今の社会だからこそ、対人の温もりは大切です」チャットやSNSが日常となった現代で、むしろ対面での交流の価値は高まっています。但住さんが選んだ"複業"という働き方は、デジタル時代における新たな可能性を示唆しています。それは、テクノロジーと人間らしさが共存するこれからの時代を生きる私たちにとって、ひとつの希望になるかもしれません。但住さんがママを務めるスナック「メガフレンズ」