コロナ以降、デジタルのコミュニケーションが広がりました。ところが第5類に移行した今、再びアナログのコミュニケーションの重要性が増しています。コミュニケーションでは「何を言うか」に意識が向きがちですが、それ以上に声のトーンや表情がとても大事と語るのは、アナウンサーで株式会社 トークナビの代表・樋田かおりさん(以下、樋田さん)。アナウンサーのスキルを生かした研修講師や、企業広報を代行する事業「女子アナ広報室」を運営している樋田さんも、対面とオンラインのコミュニケーションでは、異なる表現や伝え方を意識することが必要だと話します。ハイブリッドなコミュニケーション手法が求められる、これからの時代。2024年をいい1年にするために、話し方・伝え方をアップデートしましょう。オンラインで意識したい抑揚とオーバーリアクションコロナを境に樋田さんが気づいたのは、新たな課題を抱える人が多くいることでした。それ以前は対面が当たり前だった営業現場には、大きな変化がありました。営業担当者も外出自粛を強いられ、状況が一変。時間の経過とともに樋田さんのところにも「オンライン営業で売れなくて悩んでいる」という問い合わせが増えたのです。対面とオンラインで必要なコミュニケーションは、違うのでしょうか。「対面は五感で感じ取るものが多く、会っただけで情熱が伝わるなど、いろんなものが感覚的に伝わります。反対に、オンラインでは感情が伝わりにくく、冷たい印象になりがちです。抑揚をつけて話したり、オーバーリアクションをしないと、感情が届きません」抑揚を意識したりオーバーリアクションで話すことは、実はテレビ局のアナウンサーが普段やっていること。樋田さんは、そのノウハウを営業担当者や経営者に伝えています。リーダーの声と言葉で組織は変わる第5類に移行した後、接客業などは対面研修に戻りつつありますが、業種によっては出社とリモートのハイブリッド勤務を取り入れる会社が増えています。樋田さんは、管理職の方から「部下指導を在宅でするのが難しい」とお悩み相談されることが多いそうです。対面ならすぐアドバイスできたのが在宅ではわかりにくく、オンライン上で指摘すると関係が悪化するケースもあるとのこと。「オンラインはいつもより明るいトーンで声掛けを。意識的に広角を上げて話しやすい雰囲気を作ることが大事です。声のトーンや抑揚はアナウンサーも使い分けていて、中継リポートの場合はテンションを上げます。反対に安定感のあるトーンが好まれるニュースでは、感情を入れません。状況や目的に合わせて変えることが重要です」メールやチャットといったテキストによるコミュニケーションは働きやすさにつながる一方、ズレが起きやすいのが難しいところでもあります。教える時は顔を見て話す、進捗確認時はチャットでというふうに、伝える手段を変えると良いでしょう。経営者と話す機会の多い樋田さんは、伸びている企業のリーダーは共通して「承認している」と話します。業務の進捗確認も大事ですが、最初に相手の存在や行動を認める声掛けやトークを。その後に進捗確認と、順番を間違ってはいけないのです。「リーダーの声と言葉で、部下や企業は変わります」先に相手を承認することで部下との関係も良くなります。これは、子どもへの声掛けでも応用できそうですね。声に想いをのせるおもしろさに魅せられた樋田さんが声で伝える仕事の魅力に目覚めたのは高校生の頃でした。高校野球のウグイス嬢を経験し、声に想いをのせ届ける表現のおもしろさを知りました。その後、声を使った幅広い仕事ができる「声の総合職」のテレビ局のアナウンサーを目指します。青森のテレビ局では、情報番組のMCやお天気キャスター、ラジオや食リポと多岐にわたる仕事を経験。「番組によってはディレクター兼アナウンサーで、とにかく時間に追われる忙しい仕事でした」3年間の勤務でしたが、それ以上に感じるほど濃い時間だったと振り返ります。その後、名古屋のテレビ局へ転職。さらに夢を追いかけるため、29歳の頃上京しましたが、思うように仕事は見つかりません。あきらめきれなかった樋田さんは、自身で仕事を作ることを決意します。株式会社 トークナビを立ち上げ、アナウンサーをしながら、経営者や営業担当者向けに研修講師を始めました。そして31歳の頃、ついに東京のキー局で報道番組を担当することに。アナウンサーとして大きな仕事を務めるという夢を叶えました。アナウンサーのセカンドキャリアを応援したいしかし、樋田さんは妊娠により番組を降板することになります。当時は夜の22時に出勤し、翌朝まで勤務。帰宅の数時間後には研修の仕事が始まるというハードスケジュールを送っていたからです。昼夜が逆転する勤務時間帯で働くことは、アナウンサー業界では一般的でしたが、ただでさえ妊娠は体に負担がかかります。ひどい体調不良に悩まされた樋田さんにとって、アナウンサーの継続は難しくなりました。この経験がきっかけで樋田さんはセカンドキャリアと真剣に向き合い、産後直後にも関わらず「女子アナ広報室」という新事業をスタートします。死物狂いで作ったと話すその事業は、元局アナが企業広報を代行するというもの。フリーのアナウンサーの仕事はイベント司会業が多く、現地への移動時間も含めた時間の確保、また保育園利用も事前計画が立てにくいことが働きにくさにつながっていました。一方、企業の広報活動はオンライン取材やプレスリリース作成など在宅でできる業務もあります。出産後も、地方に住んでいても、元アナウンサーがスキルを活かし、在宅でも働くことができるのではと発想を転換しました。伝わりやすいテレビ目線で企画を考えられるのが、元局アナである樋田さん達の強み。原稿を読むだけでなく、企画や取材もできるスキルと経験があります。正しく情報を伝えるという広報活動も、樋田さんが備えていて得意とするスキルでした。いつの時代もコミュニケーションの本質は同じ「女子アナ広報室」の事業を通じて社会に貢献できることがわかった樋田さんは、「アナウンサーのセカンドキャリアのサポートができたら」と、話します。在宅で働けるこの仕事は、これまで「現地にいてこそ役に立つ」と考えられていたアナウンサーの仕事を大きく変えるものだと自負しています。自分にとって仕事は生きることそのまま、と話す樋田さん。「フリーアナウンサーが毎月、仕事も心の安定も得られるような環境。それが当たり前になるようにしたいですね」かつてプレーヤーだったポジションを変えて、より多くの仕事を生み出し、たくさんの人を活躍させる場所をつくるため、2024年も精力的に活動を続けます。ハイブリッド勤務が当たり前になったデジタル時代。コミュニケーションの方法は多様化しても、相手のことを考えて察する気配りの本質は変わらないことを樋田さんに教えてもらいました。自分自身の困難な経験から新事業が生まれたように、私達もこれからの時代をしなやかに生きていきたいですね。株式会社トークナビ