仕事にコミットする女性が増える一方、家事や育児の負担は変わらず女性に集中しがちです。そこで必要となるのは、パートナーや両親、地域の人などを巻き込んでいくこと。しかし、頭ではわかっていても、周囲との協働を難しく感じるMolecule(マレキュール)読者も多いのではないでしょうか。シングルファザーの上田充憂さん(以下、上田さん)は、フリーランスのシステムエンジニアとして働く一方、会社代表としての顔ももつ多忙なパパです。上田さんが「今は娘が第一」と言い切り子育てを楽しめているのには秘密があります。妻を病気で亡くし、シングルになったあとも義両親と同居を続け、協力して子育てしているのです。上田さんのストーリーをひもとくと、男女関係なく心がけたいパートナーシップ向上のコツが見えてきます。自分の「あるべき姿」と他人のルールを分ける「僕は自分ルールっていうのがあまりないんです。この家はこのルールなんだ、じゃあそれでいいかと受け入れています」家庭内のもめごとの種になりがちなのが「ルール」ではないでしょうか。たとえば祖父母がよかれと思って孫にお菓子やおもちゃを買い与えた場合。家庭内のルールと違っている場合、摩擦は起こりやすくなります。子どもからすれば「お父さんの言っていることと、おばあちゃんの言っていることが違う」となりますし、異なるルールをそれぞれが押し通そうとしてケンカになったりするのはよくあることです。その点、上田家は臨機応変。義両親との同居にストレスを感じる人が多い中、上田さんは妻を病気で亡くしたあとも、義母との円満な生活を続けています。娘と自分という核家族のルールなのか、同居の義両親を含めた家族のルールなのか、社会のルールなのか、はたまた自分自身の個人的なルールなのか…と、分けて考えることが習慣づいています。主観的な「あるべき姿」に縛られることはほとんどありません。その上で家事や育児を義母と分担し、感謝を伝えながら生活しているのです。「お義母さんの人柄のおかげ」と話しますが、義両親との協働生活を支える上田さんのしなやかさは、私たちからみても尊敬に値します。一体なぜ、上田さんはここまで柔軟でいられるのでしょうか。柔軟さと公平さを育んだ土壌上田さんのお母さんもユニークな人で、多様性を受け入れる生き方に影響を受けて育ちました。社会の中で個性的な人達と触れ合う中で、さまざまな人の生き方やあり方を自然と受け入れていたと語ります。いろいろなアルバイトを経験したり、システムエンジニアとして多くの会社で経験を積んだりしたことも、上田さんの「柔軟さ」につながっています。しんどいなら、休憩しよう上田さんの「柔軟さ」を感じるエピソードは、結婚して娘が生まれた時のことでしょう。産後うつになった妻が「子どもに触ることすら怖い」と感じる時期があったのだそうです。そんな妻に上田さんがかけたのは「しんどいんだったらとりあえず休憩しよう」という言葉。フルリモートの働き方を活用し、妻に代わって仕事をしながら娘を世話しました。そんな上田さんの最も強い願いは「 ただ、家族と笑っていたい」ということ。仕事と家族、両方への思いが自然と両立したのは、上田さんの考え方があってこそだったのかもしれません。世界をもっと公平なものにしたい上田さんが幼少期に柔軟さと同時に育んできたのは「公平さ」への意識です。「昔は区別と差別の線引きが難しいと感じる場面がたくさんありました。今なら多様さという言葉で説明がつくようなことでも、色眼鏡で見られていたり……。その頃から、公平と平等は何が違うんだろう、ということをすごく考えるようになりました」それが形になったのは、海外での経験です。2019年に電子政府で知られるエストニアやスタートアップの中心地のシリコンバレーにわたり、ブロックチェーンを学びました。最前線の技術を通じて、多様な人々と出会った上田さん。自分で何かを成し遂げるアグレッシブさや際立った個性に触れ、大いに刺激を受けたといいます。なぜライブチケットが取れないのかブロックチェーンに対する興味の発端は、妹から「好きなアーティストのライブチケットが取れなかった」と聞いたことでした。「100人の会場に1万人が応募したというなら、チケットが入手できないのもわかります。しかし実際は十分な席が用意されているはずなのに、チケットが買えない人が大勢いる。当日蓋を開けてみると、空席がたくさんあるんです。」こういった転売を防止するために、テクノロジーを使えないだろうかと考えました。ちょうどその頃上田さんが受けていたのが、ブロックチェーンを活用したシステム構築の依頼です。この技術を使えば、チケットの売買でも透明性の高い取引ができるのではないか。そうひらめいた上田さんは、「ブロックチェーンで世界をもっと公平にしたい」という思いを実現するため、会社を設立し海外で研鑽を積みました。一人では生きていけないから「あるべき姿」を捨てたそうしてビジネスに注力しようとしていた矢先、人生を大きく揺るがす出来事が起こります。妻が病気になり、1年経たずして亡くなってしまったのです。「産後うつから回復した妻はいつも僕を支え、立ててくれていました。そのおかげで僕は、子どもからは絶対的な存在に見えていたと思います。でも、そんな父親像を妻の死後も守っていこうとすれば自分が崩れてしまうと、早い段階でわかりました。」いったんは自分が全て妻の代わりをしようと考えたものの、「絶対に無理だ」と気づいた上田さんは、同居していた義母に頼ることを決めました。親の役目はやりたいことができる環境づくり上田さんの娘は現在小学2年生。「よそはよそ、うちはうち」を最初から受け入れることができている娘は、父親譲りの柔軟さもありつつ、しっかりした子に育っているといいます。今の上田さんにとって最も大切なのは、娘がやりたいことをできる環境づくりです。海外経験で得たものが多かった上田さんは、娘にも海外の発想力、多様さを感じて主体的に生きてほしいと考えています。小学校までの時期を大切にしているのも、上田流子育ての特徴といえるでしょう。中学生以降は潔く手を離す心の準備ができており、そのために今のうちから選択肢を広げておいてあげることが親の役目だと語ります。目的を明確に考え、そのために柔軟に手立てを講じる上田さんの考え方は、ビジネスにも生かされているようです。個人が自分のあり方を決められる社会をつくりたい「今は会社よりも娘が第一。会社のことは、娘がもう少し成長してから力を入れていきたい」という上田さん。現在、上田さんはフリーランスのシステムエンジニアとして活動しながら、自らのビジネスをブラッシュアップしているところです。幅広い案件に携わって経験値を上げようと、IT専門エージェント「ROSCA」を利用しています。エージェントを活用するメリットは、受注した仕事から業界ごとのニーズが分かり「自分の会社ならこんなことができるのでは」とビジネスのヒントが得られること。上田さん個人がめざすのは、Web上での公正な取引を可能にするサービスの構築です。Web上で行われる個人情報の扱いや、雇用主と雇われる側の関係性など、課題に感じることはたくさんあります。世界中の人が自分の情報を自分の意思で正しく使えるようにしたいというのが、上田さんの願いです。壮大な夢にも思えますが、上田さんが大切にしているのは”自分が人々を救う”ことではありません。「自分が生きている間に完成しなくてもいい、社会が良くなる礎をつくっていきたい。僕のアイディアが実現したら救われる人がいるだろうな、そういう社会になってほしい」と話します。その根底にあるのは、誰もが自分の足で立ち、自分のあり方を自分で決められる社会への思いです。上田充憂さんのLinkedInIT専門エージェント「ROSCA」