中西あゆみさん| もんぺや店主。個人的に売っていたもんぺが売れる様子を見て、夫に勧められ前職の退職を機に起業。2014年にECサイト、自社HP開設。翌年には自社オリジナル商品である「もんぺや印のオリジナルもんぺ」を発売。2019年1月阪急百貨店にて催事に出店するなど幅広い場所でもんぺを広める活動をしている。昔ながらの作業服であるもんぺを、可愛く着られる日常着として提案している“もんぺや”の中西あゆみさん。彼女はもんぺというファッションを通じて、「枠に囚われない自由な生き方」を提案しています。知らず知らずの間に自分のロールモデルに囚われていないでしょうか?母であること、女性であること。そこだけに囚われて自分を見ていると、世界が少しずつせまくなってしまうかもしれません。自分らしくいるために、自分らしく毎日を過ごすために。自分を「自由」にするヒントが、もんぺやにはありました。人を自由にさせる服、もんぺ―もんぺを選んだことがとても面白いですね。 何にそんなに惹かれたのでしょうか?もんぺはデニムや制服など比べて体の動きを阻害する要素が圧倒的に少なく、物理的な制限から体の動きを自由にする服です。さらに、そのゆったりしたもんぺのシルエットゆえ、痩せなくても可愛く着れる、今の自分をそのまま最大限生かせる服だ!と感じました。スレンダーであれば着こなせる服はたくさんあります。服を買うたびにここがもう少し細ければ…とよく感じていましたが、もんぺはこのままの私にもよく似合い、今この瞬間から可愛く着れるやん!と感動したのです。年齢も性別もライフスタイルの変化も体型の変化もそのまま包み込むもんぺという選択肢も世の中にあってもいいと思ったし、それを必要としている人もいるのではないか、とも考えました。だからもんぺを「人を自由にさせる服」として売ろうと思いました。―その「自由」という表現がとても 印象的です。私の中に「自由」がずっとテーマにあったからです。 「自由」とは自分がいいと思ったことを素直に言えること。誰かや何かを、物理的にも精神的にも支配しないこと、されないこと。今の自分を最大限に生かせること。それらはお金も性別も関係なく誰もができるものだから、自分も含めみんなが「自由」になれたら、のびのびと毎日を過ごせて日常の質もあがるだろうと。―そう思い始めたきっかけは何かあるのですか?鍼灸師・マッサージ師として人の痛みや体の不調に向き合い仕事を続けていくうちに、痛みや不調の原因は思考の中にあると感じはじめました。思考は人の習慣を作り上げます。習慣は体の動きにつながり、それに問題があれば痛みや不調が生まれます。思考も体を作る一要素であるから、自分を肯定できれば習慣や体の動きも変わり、痛みが軽減できるのではという結論に至りました。そして、どうすればそれを実践できるのか、考えていました。 そんな時、たまたま出会ったもんぺに足を通したところ、私の求めていたことは全てもんぺの中にあった、と衝撃を受けたんです。―見た目の美しさのための服でなく、その人を自由にする服なのですね。はい、私は民芸の考え方がすごく好きで、もんぺもそうありたいと思っています。民芸とは、その場所でとれたものを生かして作っています。作為的に手を加えるのではなく、そのものの特徴を生かすことによって美しさが生まれる。それを人の体に応用できないかと考えています。どうやったらその人がありたいように、自由であるか。もんぺは動きやすく、人の心を開放する。芸術品の美しさではなく、実用的な機能美を目指しています。自分や人の世界を広げるツール―起業のきっかけは何だったのですか?実家が民宿をやっていて、常に誰かがいるところに家族で生活をしている幼少期でした。お客さんがご飯を食べている隣で私たち家族もご飯を食べて。何か用があるとお客さんが「すみませーん」と入ってくる感じです。前職は鍼灸師をしていて、鍼灸師の学校時代も、独立ありきで仕事に対して向き合っていたのもあり、起業することに対しては一大決心で、というよりも自然な流れだったと思います。結婚した人が転勤族だったらずっと同じ場所にいられないし、子どもが生まれたらライフスタイルも変わるし、どこかに場所を構えることよりも、どこにいても仕事ができるスタイルの起業の方が、自分にとっては想像しやすかったです。―もんぺを日常的に取り入れるというコンセプトがとても斬新ですね。斬新ゆえに、もんぺを買ってもらうことって、めっちゃハードル高いんです!カナダに卸売りをして、テレビショッピングに出品したときには900着つくって1着も売れなかったことも…なので、ネットショップでの販売もしていますが、催事などでの対面販売をすることで、お客様に実際にもんぺを履いてもらい、もんぺのよさを知ってもらうことも大切だと思っています。―子育てと仕事で影響しあうことはありますか?仕事を始めてすぐに、妊娠がわかり、出産をしたので、もんぺやは子どもとともに成長してきました。今は、子どもも可能な範囲で催事などに連れていくことが多いです。私自身、親が働いているのを身近で見てきて、さらにそこで生活することでいろいろな世界を知ることができました。 家業だった民宿のお客さんたちと話すことで、子どもの世界だけじゃないもっと広い世界を見せてもらったし、それに救われたこともあります。だから、自分の子どもにもいろいろな世界があって、世界は一つじゃないことを見てほしい。普段の生活では出会えない人と触れ合う時間、育児者以外の人との関わりの中でも育ってほしいと思います。―もんぺだからこそできることは何ですか?誰でも履けて、同じ柄でもその人の個性が出るから、コミュニケーションツールとしても面白いな、と思っています。もんぺを通じて一体感を持ち、知らない人同士も「あなたはこのもんぺがいいんじゃない?」とか、「そのもんぺいいですね。」とか、「その着こなし最高ですね。」といった即席品評会がかなりの確率で起こります。もんぺはスタイリッシュとは一線画した、似合っても似合わなくても劣等感を感じにくい服だから、あなたはここがいい、私はここがいい、とそれぞれを認め合う雰囲気になります。買っても買わなくてもなんだか楽しい、というのはもんぺならではだと思います。―それぞれの個性を認め合う雰囲気が、自分を肯定することや、こうであらねばいけないという思い込みからの自由にもつながりますね。そうですね。母親であることや、女性であることにも言えるのですが 、役割はあってもいいけど、それがこの世界のすべてじゃない。それに囚われる必要はない。 もしそれが苦しかったら逃げ道を作ってそこでのびのびといてほしいと思います。もんぺを履くことによって「自由」を感じて、見ている世界がすこしでも広げられたらうれしいです。―これからどのように歩んでいきたいですか?鍼灸師の時から、自分では何の対処もせずすべて任せきりにする患者さんに、もっと自分の体のことを知ろうとしたり、自分のできる範囲でやれることをやったらいいのにと感じていました。もちろん完璧にはできないかもしれないけれど、自分で手足を動かすことが大事なんじゃないかと。もんぺやの運営に関しても、知識のない私でもやったらやったなりにどうにか動いていく。だから誰かに助けてもらったり、協力してもらったりしながらも、ゆだねっぱなしにしないように自分で考え、動き続けていきたいです。今までの価値観が崩壊して放り出されても、立っていられる自分でいられるように、もんぺやで実験していきたいなと思います。―あゆみさんがもんぺやを通じて読者に伝えたいことはなんですか?色々あるけど生きているって楽しい。あなたの体はあなたのもの、ということを伝えたいですね。編集後記 自分が自分らしくあるために、いろいろなものから「自由」であること。既存の価値観にとらわれずに新しい世界を広げていくこと、そしてそのために自分自身の足で歩いていくこと。もんぺを通じてたくさんの人に伝わるといいですね。その理念を体現しているお母さんを見て、お子さんにもきっと自由で広い世界があることをわかってもらえるのではないでしょうか。あゆみさん、ありがとうございました!