夫の転勤に帯同し、中国・上海で暮らす呉由香です。 産後の体力回復、保活幼活、自分のキャリア、子どもの将来、夫や親との関係等々・・・産後、子育てをしながら様々なタスクに怒涛の日々を送っている読者の方、多くいらっしゃることと思います。筆者の呉由香も、産後に突然生じた「考えなければいけないことの多さ」に息詰まった経験がありました。 そして昨年の夏から上海で暮らしてみると、日本とは全く違う子育てのメリットや女性のキャリア形成の壁・伸び代を知ることが出来、逆に日本の子育て女性の環境についても客観的な視点で見ることが少し出来るようになりました!そこで今回は、上海で子育てを頑張る日本人ママを応援する託児園園長の杜丽娜(ト・リナ)さんを中心に、上海に住む日本人ママの大塚清香さん・大西愛美さんに、日本と中国で暮らしてみて感じた子育て・女性のキャリアについて対談形式でインタビューさせていただきました。日本と中国ではこんなに違う!子育て費用、親との関係杜丽娜(ト リナ)さん。広州の日系企業に勤めていた時に日本人の夫と知り合い、上海で結婚。上海の古北地区で、2012年に託児園・こども中国語教室・親子中国語あそび教室「葵(AOI)」を開園。現在は小学生になる二人のお子さんを育てながら、葵の園長として子育てママやこどもたちを応援することをライフワークとして活躍中。―上海と日本、子育ての環境で、最も違うと感じる点は何でしょうか?杜:私が一番感じるのは、日本には公園など、自然の中で子どもが遊べる環境が整っていること。これはとてもいいなあと思います。上海は車が多く、この近くにも遊べる場所が少ないですし、親が見ていないと危険ですし・・・。大西:確かに、上海では公園や広場はあるけれど、遊具がある公園ってないですよね。大塚:ベンチやきれいな橋や芝生、建物・空間はあって、見た目はキレイですけどね。大西:日本は、特に都心部は保育園内に園庭も有る・無しがありますので、外遊びできる外の公園に近いかどうかで園をつくる場所を決めたりすると言いますよね。杜:その違いはありますね。でも、幼稚園など学校施設の様子は、あまり変わらないのではないかなと思います。大塚:ただ、上海の幼稚園は、日本に比べ学費がとても高いですよね。私は中国人の夫と国際結婚です。上の子どもは幼稚園に通っているのですが、日本からの駐在ではないので会社からの学費補助もなく、結構大変です。小学校以上でも、教育にかかる金額を聞いて驚きました。杜:中国では、自治体や会社からの学費補助はありませんからね。完全個人負担です。日本企業が子どもたちの学費を負担してくれていることと、経済発展の相互的な影響で、学費も高騰したんだと思います。大西:日本からの影響があったということですね(笑)でもそれくらい、経済発展が著しいということですよね!杜:そうです。そのおかげで経済は豊かになりつつあります。ところで大塚さんは、中国人のご主人と結婚されたんですよね?上海の親御さんが子育てを手伝ってくれているの?大塚:はい。主人のお母さんと、おばあちゃんと一緒にいます。主人は一人っ子なので、高齢になったおばあちゃんと一緒にいたほうがお互いに安心ですので。杜:そうね。中国は法律で、子は親を扶養しなければならないことになっているので、一人っ子だからなおさらそれは大変ですね。大西:先日、日本のテレビで「中国親子大戦争」なる番組を見て、初めてその法律があることを知りました!義務化されていると、親御さんとの関係性が複雑になった場合、生きづらくなってしまいますね。杜:そう。でも、それもいい面があって、親が歳をとっても、孫を見ることは当たり前と感じて、皆で子育てをしているから、出産後の親自身(私たち世代)も助かっていますよね。でも、親との関係が良くないと確かに辛いです。だからこそ、中国は親子関係をとても大切にしていて、家族内での距離感はとても近いですね。皆賑やかですしね(笑)。大塚:それはとてもいい面ですよね。日本ですと、核家族が増えて、嫁・姑の距離感はもちろん、自分の親に対しても中国ほど近くないし、お互い遠くにいて気を遣い合う文化です。だから逆に、子育てするママが気楽に親に頼ることができなくて、孤立してしまう人も多いのではないでしょうか。大西:子どもができてから、親との関係性がギクシャクしちゃったり・・・。それで一人で頑張りすぎちゃっているお母さんたちがいるのは事実かもしれませんね。杜:私もそう思います。だから、日本と中国のちょうど真ん中くらいがいちばんいいですね!中国は関係が厚すぎて、親に「迷惑なありがとう」があるし、日本は助け合わなさすぎる。だからその真ん中くらいがいいかなと思います。大塚:それが理想かもしれませんね。でも、そうなるには、どうしたらいいんでしょう?杜:それは、自分自身が調整するしかないのでしょうね。親に言いたくなる気持ちをいったん抑えたり、落ち着いてから相談したり・・・。夫とのコミュニケーションもそう。様子を見ながら相手との気持ちをつないでいく・・・。考えながらやっていかなければいけないから、大変だけれども。産後6ヶ月以内で復職がスタンダードな中国。「保活」の壁は?大塚清香(おおつか さやか)さん。高校生の時から日本で暮らしていた中国人の夫と結婚後、夫の仕事の関係で上海に渡る。現在は未就学児2人を、義理の母・祖母とともに育てている。「ふだんは子どものおばあちゃん・ひいおばあちゃんと上海語で会話しているので、中国語は標準語があまり話せません(笑)」というくらい、現地の生活にどっぷり浸かる日々を送っている。―ところで、上海には、日本で言う「保育園」はあるのですか?杜:ありますよ。日本と同じく入園倍率が高くて、入るのがすごく大変です。産後3ヶ月から預けることが出来ますので、早く預けて仕事に復帰する人が多いですね。日本と違うのは、入園は周辺の住民を優先しますが、働いている・働いていないで条件は付けていません。大塚:3ヶ月で預けてしまうのですか!?ずいぶん早いのですね。杜:そうです。日本のように産後一年、二年と長く休むことは少ないですね。大抵、出産前の妊娠8ヶ月くらいからお休みを取ります。遅くとも、産後6ヶ月くらいで阿姨(アイ)さん(=お手伝いさん)か親に育児を任せるか、保育園・託児所に子どもを入れますね。大西:日本と比べて、仕事復帰がとても早いですね!皆さん、意欲的に仕事に戻ることを考えている方が多いのでしょうか?杜:それは色々だと思います。もちろん、仕事をしたくて仕方がない人もいれば、経済的な理由により働きに出る人など、人それぞれですね。ただ、中国では今、買い手市場で人材の競争が激しく、いったん離職すると、再就職することがとても困難です。特に大きな会社に勤めていた人はやめたくなくて、産後も必死に頑張っている人が多いと思います。子どもができてからこれまでの仕事に戻れるか戻れないかの間で、皆一度は立ち止まり考えると思います。大西:日本は3歳児神話があるように、小さな子どもを預けて働きに出るのに、罪悪感を抱えているお母さんもまだまだ多いと思います。杜:中国でもそういうお母さんは多いと思いますよ。大西:私は日本で出産後すぐに、主人が天津に単身赴任してしまったので、頼る相手がいなくて・・・思い切って育休中に子どもを無認可保育園に預けて、勉強しに行きました。そうじゃないと、初めての子育てに不安な中で、気持ちを保てなかったからです。でも結果、子どももお友達と遊ぶことが楽しくて自立できるようになりましたし、私も取りたかった資格が取れて良かったです。そしてその過程を通して、「家族が一緒に暮らして子育てをすること」が私自身の一番の実現したい未来なんだ、ということがはっきりしました。その後私は日本の会社を退職し、上海で家族みんなで一緒に暮らす、という選択をして今は幸せを噛み締めています。杜:それはいい選択をしましたね!日本ではまだそうやって保育園に預ける選択をする人って少ないんじゃないですか?愛美さんの行動は良かったと思いますよ。親に頼りづらく、自分のしたいこともできなくて、気持ちのバランスが取れなかったら不幸ですよ。だから、保育園に子どもを預けることは罪悪感を感じることでも何でもない。きっと親子にとっていいことがたくさんあるはずです。大西:はい。そんなふうに気負うことなく子どもを預けたりできる環境が、まだ日本には少ないなと思います。SOSを出せる場所が増えるといいですよね。 産後女性の「わたし」らしい生き方=自分が楽しめる場所をつくること大西愛美(おおにし まなみ)さん。飲料メーカーにて営業を経験した後、人事にて労務管理や人材育成の仕事に従事。育休取得中に夫が単身赴任で中国・天津へ。その後、上海駐在をきっかけに退職を決めて帯同し、現在上海で2歳になる子どもを育児中。キャリアコンサルタント資格を活かして、上海でママが子連れで交流できる「しゃべり場」や「キャリアカフェ上海」を運営し、上海に住む日本人女性やママたちのキャリア相談にも乗っている。―出産を機に、女性が子育てと仕事のバランスやキャリアについて悩むのは、日本も上海も変わらないのですね。杜:私も出産をきっかけにIT企業をやめて三年間子育てに専念したのですが、ITの変化のスピードは早く、もう仕事についていくのは難しいなと思い、再就職はあきらめました。その一方出産をしたら、子どもが可愛くて可愛くて・・・何か子育てに関わることをしたいなと思って、託児所に子どもを預けて専門学校に通い、幼児教育の勉強をしました。最初、日本人向けの中国語教室をつくったら、それがお母さんたちのニーズにハマって、親向けの教室も開くようになり、さらに託児所を開くに至りました。大西:もしIT企業をやめなかったら、今のようにはならなかったですよね? 杜:そうですね。人生が変わる転機でしたね。―これまでのキャリアを振り返って、産後女性が生き生きと歩むために大切なことはどんなことだと思いますか?杜:私は、お母さんたちがストレスが溜まったら、自分が楽しんだりやりたいと思える環境をつくることが大切だと思います。大西:育児はお母さんだけがやるものではないですもんね。もっと人に助けてもらって育てたほうが、子どもにとってもきっといいですよね。大塚:助けてもらいたいと思っても、じゃあどこに助けを求めたらいいだろう・・・というのはあるかもしれません。親がいなくてママ友に頼るといっても「ここまで」みたいな距離感もあったりしますし・・・。あらかじめ何かのつながりがないと動けないですしね。大西:そういったつながりやきっかけが溢れるような社会をつくりたいなと、私は思います!苦しむ一歩手前のところでお話をできるような場があるといいですよね。杜:今日もうちの託児園の中で、スタッフがお子さんを預かって、ママたちが自分一人で参加できるキャリアデザイン・サロンをやりましたよ。大西:そういう場所、とても嬉しいと思います!大塚:私自身もまだ日々育児で大変ですけど、一人ぼっちでこもっていると目一杯になりがちなので、人に頼りつつ、自分が楽しめる場所をつくっていけたらいいなと思います。杜:お母さんたちも、一人ひとりがもっと自分の価値を信頼して、やりたいことをやって、お友達と楽しく話せるような時間を持っていくことが大事なんじゃないかなと思います。それが社会を元気にする素になりますよね!日本のママも中国のママも、皆がんばってほしいです! 編集後記写真:https://pixabay.com海外在留邦人数調査統計(2018年版・外務省)によると、中国の在留邦人数は、アメリカに次ぎ第2位の約12万4千人に登ります。上海市内の筆者の住む地区にも、多くの日本人家庭が在住しており、小さな子どもを育てているお母さんたちがたくさんいます。産後の子育てについては、身近な中国人の生活を見ると、日本との違いに驚くこともありますが、ママたちの根底の悩みは両国とも一緒なのだと、改めてこの取材を通して感じました。では、子育ても自分のキャリアも、私は何を大切にしたいのだろうか?・・・そんなことを、じっくり考えてみたいと思いますし、【Molecule(マレキュール)】読者の皆さんも、ご自身の胸に問いかけていただければと思います。 ▼杜丽娜さんが運営▼ 上海市・古北地区にある「託児園葵」の情報はこちら