私たちの“暮らし”は代々受け継いだものや職業。子どもの学校や保育園。そんな偶然がいくつも重なり作られています。“暮らし”をあらためて考えるとき、意外と自分から選び取ったものは少ないことに気づくMolecule(マレキュール)読者の方もいるかもしれません。でも、ときに暮らしをイチから変えてみたい。そんな風に思うことが、人生に一度はあるものではないでしょうか。そんな時に移住は最も効果的な手法かもしれません。2019年8月に、慣れ親しんだ鎌倉の地から米国ポートランドに家族で移住した松原さん。リモートで移住支援の事業(SMOUT)を続けながら、新しい暮らしにチャレンジしています。「移住」は、自分にとって価値のあるものをイチから選び直し、「暮らしのリデザインのチャンス」になることを実感しました。 そんな松原さんに、移住から約3か月経った今の暮らしについてお伺いしました。渡米移住を目前にして【前編】はコチラ松原佳代さん。「面白法人カヤック」(所在地:鎌倉)でPR担当として会社の成長を支えたのち、出産を期に独立。現在は(株)カヤックLiving兼 みずたまラボラトリー(株)代表取締役。移住スカウトサービス「SMOUT」を2018年に立ち上げた。2019年8月、米国ポートランドに夫と子どもたちと一緒に移住。暮らしを自分の手で作り選択していく人を増やしたいと願い、移住支援の事業を続けてきた松原さん。海を渡って約3か月、移住が“暮らし“を作るという行為に対してどういう影響を与えるのか? 実体験を通して言語化する日々だったといいます。そこで、感じたのは「移住は暮らしをリデザインするきっかけになる」という事でした。敷かれたレールから出る「移住」は、価値観をあぶり出す松原さんは富山県出身。大学進学とともに東京に出て、就職をして結婚をしました。「いわゆる普通はこうという、レールの敷かれたライフスタイルを歩んできた」と松原さん。出産後は、1年で違和感を感じ、会社を辞め起業。その3年後に現在のカヤックLIVINGの代表となりました。充分、レールの敷かれていない道を歩んでいるように思えますが、松原さんはそれでも、レールの上を歩いていたと言います。「日本でも、違和感を感じたら、その都度暮らしを見直してきました。でも、それは、あくまで、よくあるレールの中での抗いに過ぎなかったんじゃないのかなと。移住をしてみて、改めて暮らしを自分の手に取り戻す感覚がありました。すべてをイチから選択していく中で、何を辞めて何を大切にするのかを、改めて考えるきっかけになりました。」移住は、住む場所や学校、生活環境や生活コストなどあらゆるものを変化させ、イチから最適なものを選択していく必要があります。そんな中で、松原さんは、何を大切にすると決めたのでしょうか。「子どもとのコミュニケーションの時間は確保したいなと思いました。今は子どもがまだ学校に慣れていないという事もあり、アフタースクール(学童)に入れないという選択をしています。もし、私が移住せず日本にいたら、おそらく迷うことなく何かしらの学童に預け、夜7時頃まで仕事していたと思うんです。外部環境がガラッと変わり、レールの上を歩くことができなくなった時、昼間は子どもとの時間を大切にし、時差もあるので夜間に日本との仕事を進めています。」また、日本にいたとすれば2人目は上の子と同じ保育園に預けるはずだったが、移住することになり保育園をイチから選ぶことに。子どもにどう成長していってほしいか?立ち止まって考えるきっかけになりました。子どもの学校を通して、コミュニケーションに挑む英語はあまり得意ではないという松原さんですが、言語の壁はどのように乗り越えているのでしょうか。仕事は日本とのやり取りが中心のため、ともすれば現地の人と関わらなくてもよい生活に。そうならないために、子どもの小学校や保育園をきっかけに、現地の人達とのコミュニケーションにも積極的に挑んでいます。「次男は、悩んだ末に現地の保育園に入れました。先生や他の親とは、すべて英語でのコミュニケーションです。子どもも私も結構大変ですね。保育園特有の英語も勉強中。でも、そんな中でも、意を決して連絡先を交換し、土日に保育園以外でもお友達と遊ばせるなどしています。そういうふうにしないと、馴染めないと思ったんです。保育園は私にとって、現地の人とコミュニケーションをとる良いきっかけになっています。」一方、小学生の長男は、日米のバイリンガル教育をしている学校へ。日本人とのコミュニケーションに慣れてきている方が多く、情報交換も積極的にしています。松原さんが、英語の文章読むのにも聞き取るのにも時間がかかるのを見て、「これちゃんと気づいてる?」など気遣ってくれる友人もできました。写真は通学時の朝焼け日本に紹介したいポートランドの魅力は?ポートランドは町としてとても魅力的で、日本に紹介したいことが溢れていると松原さん。日本のローカルな町おこしのヒントになりそうな仕組みも沢山あります。さっそく現地で取材先を見つけ、SMOUTのメディアで取り上げています。「ポートランドでは、ボランティアなどGIVE精神からはじまるコミュニケーションがすごく多いですね。私が取材したいと思ったのが、スーパーマーケット。マイバッグを持っていったら会計から5セント引くか、5セントを寄付するという仕組みがあります。寄付の入り口に行くと、“貧困”“教育”“環境”のボックスがあり、自分が応援したい団体を選んで寄付が可能です。日々の暮らしの中で、関わりたいと思う所へ貢献していける仕組みを、地元の企業が提供しているんです。」自分が関われば関わるほど、住んでいる街への愛着は増すものです。松原さんは、ポートランドの関わりの作り方が、日本の地域を活性化につながるヒントになるのではないかと考えています。「ポートランドには、街に関わっている感覚が産まれる仕組みが沢山あふれています。ここに住んでみて社会や環境への問題意識が上がりました。街や周りの人の影響ですね。」写真は最近の松原さんのオフィス(お気に入りのカフェ)移住は暮らしを調整するトレーニング大好きだった鎌倉での暮らしを手放した移住。ポートランドを選んで良かったと、明確に白黒つけることはできないんじゃないかなという松原さん。良かったこと、良くなかったことが日々の暮らしの中で、時と場合によって、49 vs 51になったり、51 vs 49になったり揺れると言います。私たちは何かを選択するとき、どちらかと言えばやって良かったなと思う事の方が、多いのかもしれません。「移住に関しても、学校、生活環境、気候いろんな変動要因がある中で自分にとって良いものに変えていく行為が重要だと感じます。色んな事が変わったので、良い悪いはそんなに重要ではなくて、良い方向へ自分で調整し、動かしていくという気持ちが大切なんだと思います。移住は暮らしを少しずつ調整し、良いものにしていくトレーニングになりますね。」例えば、長男は学校にすぐ馴染んだが、一方、コミュニケーションの壁にぶち当たっているのは次男。でも、上の子もどこかでコミュニケーションの壁に当たるかもしれないと松原さん。良い悪いはいつでも逆転する可能性はあり、日々の暮らしは、それをちょっとずつ調整していく訓練なんじゃないかと感じるといいます。移住は、ずばり何をもたらした?ポートランドは街がとてもコンパクト。開発していいエリアと、自然を残すために開発禁止のエリアがあり、20分も行けば大自然があります。自分の日々の営みが、その大自然も含めた周りのものに影響を与えるという感覚が強くなったそうです。「鎌倉にいた時よりも一層、身近で作られた手触り感のあるものを消費したいという気持ちが強くなりました。ただの消費だと自分の欲を満たすだけで、その日暮らしになってしまいますが、自分の消費行動が継続的に何かに繋がると思える仕組みがあるのが大きいです。これは、移住してから強くなった意識です。子どもがそういう感覚を自然と身に着けられるのも良い環境だなと思う一方で、その感覚がなかった私がその感覚を得る“転換点”を自分で意識できるのは、大人の移住の面白い所だと思います。」移住して、やっぱりよかったなと思っていると松原さん。それは、今まで、近視眼的だったり、限られた価値観の中で生きてきたと気づけたから。そう話す笑顔がとても清々しく感じました。【後書き】いつも、自分の気持ちに忠実に行動を起こすことの大切さを教えてくれる松原さん。実際に自ら行動を起こし移住をしてみたことで、改めて腑に落ちる事も多かったそうです。暮らしを自分で作ることの魅力を再確認した後の、「SMOUT」事業の展開も楽しみになる取材でした。▽SMOUTの詳細はこちらのHPより▽ https://smout.jp/