2019年3月に公開した記事で「育休を新たなスタートラインに、社会全体の変革へ」と強いメッセージを発信し、大きな反響があった育休コミュ二ティ「MIRAIS」代表の栗林真由美さんの連載です。この春から育休復帰した彼女とともに、【Molecule】読者の皆さんも「育休」という期間について、今一度考える機会にしませんか。キャリア絶頂期で発覚した妊娠「育休は休暇じゃないー。」 最近何かと世間を賑わせている「育休」。カネカの「育休」を取得した男性社員が育休明けに即転勤辞令が出された問題や「パタハラ」と言った言葉も珍しくない。 世間から見た「育休」と、実際に「育休」を取得した当事者とはまだまだ「育休」の捉え方に乖離があるからこそ、今世間を賑わす「育休」のあらゆる問題が起きていると感じている。正直に言おう。かくいう私もそうだった。まだ子どもがおらず、夜も帰宅が22時だと早いと感じていた働き方で、時間があればあるだけ働いていたまさに「仕事一辺倒」だった時に、職場の先輩から「実は今妊娠5ヶ月なんだ。」と知らされた時は「いいなぁ、これから長い休みに入るなんて・・・」と思ったし、「子どもが熱を出したから早退します」と慌てて帰っていく先輩を見て「残った仕事、私がやるのか・・」と思ったこともあった。今となってはそんなことを思ってしまったことを本当に謝りたいが、当時は「子どもがいて働く」ということがどれだけ大変なことなのか、を知る機会もなければ、無論想像もできなかった。そんな私も、まさかのタイミングで妊娠した。 妊娠発覚の数ヶ月前、初めての大きな人事異動をした。異動した先が社内でこれから事業を拡大しようとしている事業部にジョインできたこともあり、私のやる気は過去のキャリア史上最高になり、残業時間はさらに拍車をかけた。けれど全然苦にならなかった。それほど面白かったし、それほど熱中していたから。異動して約半年。異動先の人間関係や仕事にもようやく慣れ、周りの期待も大きく、さらに大きな仕事にチャレンジしようとしていたまさにそのタイミングで、思いもよらなかった妊娠発覚。「嘘でしょ・・・なんでこのタイミングなの・・・」 妊娠検査薬で判定が出てあまりのショックに私は家を飛び出した。(後から夫が追いかけてきたのだけど(苦笑))出産1ヶ月前までフル稼働、育休期間に味わった喪失感当時の私は子どもができたら「キャリアを諦めなければいけない」と思い込んでいたからだ。 「こんなに懸命に積み上げてきたキャリアを諦めるなんて・・・」 キャリアを諦める。それは当時の私にとっては「自分の人生を諦める」とイコールに等しかった。大好きな仕事、懸命にやってきたこれまでのキャリアを子どもができたらもう築くことはできない。考えるだけで涙が出そうになった。 早く上司に報告しなきゃ・・でもきっとがっかりされるだろうな・・もう私に仕事を任せてくれないかもしれない・・と思うと怖くてとてもじゃないけど切り出せなかった。一週間以上かけてようやく上司に報告したのだが、私の緊張とは裏腹に「おー!良かったじゃん!」と会議室に漏れんばかりの声で喜んでくれた。そんなリアクションに思わずこっちも拍子抜けした。 そして自分の仕事を最後までしっかり納めることを目標として、「私の遺書」と銘打つ実績を残そうと産休ギリギリまで無我夢中で駆け抜けた。まだまだやりたいことはいっぱいあったけれど一先ず産休入りした翌日。あまりにも疾走してホッと一息・・・のはずが、、、 あれ・・・? 誰からも何も求められない。気づけば誰とも話さずに一日が終わろうとしていた。今考えれば無理もなかった。それまで仕事一筋で近所の公園はおろか、地域のことが何も分かっていなかったのだ。当然近所の知り合いもいない。これまで会社に行けば、 「栗林さん、ちょっとこれお願いできない?」 「栗林さん、相談したいことがあるのですが」 「おい、栗林!あの件どうなってる?」 などといろんな人から声をかけられ、求められ、それに全力で答えてきた。それが産休に入った途端ぷっつりと切れてしまったのだ。 「私って、、一体何者なんだろう・・・」夫は連日残業で毎日深夜帰宅。息抜きにパン作りや料理に精を出してみたけれど、そこまで好きじゃない私には飽きてくるのは時間の問題だった。突然始まった「私って何なんだろう?」に戸惑い、そんな姿を知ってか知らずか、日に日に大きくなっていくお腹に「母」になることの心配や戸惑いも相まって、「こんな私が母になる資格があるんだろうか・・」とよく泣いていた。さらに追い討ちをかける出来事があった。一人目の出産ということもあり、実家に里帰りをしたのだが、そこで(今となってはありがたい限りなのだが、「掃除」や「洗濯」は全て母や父がしてくれ)私の唯一の家事と言う「役割」が完全になくなってしまったのだ。 そのことがさらにモヤモヤどころか、完全にマイナスにしか考えられないようになっていた。つい産休に入るまではあんなにイキイキと仕事をしていたのに、産休に入った途端、私は完全に自分を見失っていた。というよりも初めて「会社の栗林」ではない素の自分と向き合うことに戸惑っていたのだと思う。それまでずっとわき目も降らずに走り続けてきた人生に突然やってきた「自分と向き合う」そして「母になる」という時間。戸惑いながらも、やってくる赤ちゃんの準備に集中した。母でもない妻でもない「自分がどうしたいのか」考える場をつくりたい育休コミュニティMIRAISのミートアップそんなこんなで、無事に出産を迎え、可愛い我が子と対面した感動は本当に言葉で表現できないものだった。 ひとしきり味わったあとは初めて経験する母親としてのあらゆるタスクの数々。夜泣きを始め、予防接種や病気、ママ友との付き合い。会社を離れて、初めて母になって、そしてひっきりなしにやってくる子育てのあらゆるタスク・行事をこなすことや子どもの成長を感じることに喜びを感じる一方で、いつの間にか「●●ちゃんママ」ともはや自分の名前すら出てこない日々で再びどんどんと膨れ上がる「私ってなんなんだろう?」「私って本当はどうしたいんだろう?」 そしてモヤモヤを心の底から吐き出せる同志がいない故にモヤモヤに拍車がかかる。なんとなく過ぎる日々に「このままでいいんだろうか?でも何をしていいかわからない」と焦りが募る。これが育休中に感じるモヤモヤの正体なのではないだろうか。このような状況に陥ることをどれだけの人が理解しているだろう?これまで「会社」というコミュニティに存分に当たり前にあった「機会」「役割」「仲間」が産休に入った途端一気になくなれば誰だってモヤモヤするのは当たり前。だから私は育休コミュニティ「MIRAIS」を作った。自身の経験から一人でも多く「有意義な育休」を過ごすプラットフォームを作りたかった。 ここでは「母」でもない「妻」でもない「あなた」がどうしたいか?を問う場所だ。会社から離れる期間だからこそ、会社とは別の世界で切磋琢磨し、刺激し合う「仲間」に出会い、「機会」や「役割」を使って「自分軸」を強くする。 それが復帰した後にブレない軸となれば、双方にwinwinになるはずだ。育児休業、略して育休。会社から見たら「休業者」扱いなのかも知れないが、今「育休」は育休取得者によってじわじわとアップデートされようとしている。 育休取得者のみならず、企業もそろそろ育休を「休業」ではなく、双方にwinwinになる期間と定義をアップデートする時期がきているのだと思う。次回は、育休期間に「わたし軸」は見つけられるのか、私自身やMIRAISメンバーの体験談をもとに書きたいと思います。▽育休コミュニティ「MIRAIS」の詳細はこちら▽ https://ikukyu-community.amebaownd.com/