【Molecule(マレキュール)】編集長の井上千絵です。今回は、私がこのメディアを立ち上げるきっかけにもなった女性、「育キャリカレッジ」代表の池原真佐子さんにインタビューしてきました。池原さんが繰り返し語る言葉で強く印象に残っていたことが「日本の女性は妻やママ、娘といった幾つもの鎧をまとって、本当のわたしの姿がわからなくなってしまっている」ということ。私もその言葉を聞いてハッとしたんですね。そして「わたし探求」のきっかけとなるようなメディアを立ち上げたいと、ファウンダーの3人でこのマレキュールを作ったわけです。 今回は、数多くのマレキュール読者世代(30-40代働く子育て女性)と向き合ってきた池原さんが考える「わたし探求」について、仕事とプライベート両方の視点から伺いました。ローンチ1年、谷だらけの中で走り続けた先の転機池原 真佐子 | 育キャリカレッジ 代表(株式会社MANABICIA)、早稲田大学・大学院で成人教育を専攻。PR会社、NPOを経てコンサル会社で勤務。在職中にINSEADのパートタイムのコーチングと組織開発の修士(Executive Master in Change)を取得。同時に、エグゼクティブコーチング等の人材育成を手がける(株)MANABICIAを創業。2018年1月に女性メンターを育成し、企業に社外メンターとしてマッチングする「育キャリカレッジ」をローンチ。同年秋から夫・息子(2歳)が暮らすドイツと東京の二拠点生活中。―女性メンターを育成し、企業にマッチングする「育キャリカレッジ」をローンチして1年余りとなりますが、振り返ってみてどんな1年でしたか?谷だらけですね(笑)。課題がいっぱいで、やればやるほど課題が見えてきました。その中で、私が大事にしてきたことはスピード感で、PDCAを考えて違うものはすぐに切り替えて、これだと思ったものは一気に進んでいくようにしてきました。一方で、谷の中で自分の力で這い上がったっていう感じもあまりなくて、それは私にもメンターがいたからなんです。その人の存在がお守り代わりになったというか、その人の存在があったからこそ私自身頑張ってこれたので、そんな存在を私自身も次世代の女性に向けてもっと繋いでいきいなと考えています。―育キャリカレッジが掲げている「働く女性にメンターを」というミッションは、この1年でニーズの変化を感じましたか?1年前に育キャリカレッジを立ち上げた当時は、「社内」メンター制度は既にありましたが、「社外」メンターという概念がほとんどなかったように思います。それが、メディアで取材いただいたことも契機となって、最近では会社組織の中で女性の人材育成の文脈で、社外メンターが必要だ、という声を凄くよく聞くようになりました。同時に、メンター養成講座を受講してメンターになりたい、と希望するハイキャリアの方も非常に多く、企業側のニーズとメンター側のニーズそれぞれを強く感じています。―働く女性たちにとって、社外メンターが果たす役割とは何なのでしょうか。本当に女性が働きやすい社会を作るには、組織を変えていかなければならないと思っています。私たちが個人へのメンター紹介だけではなく、今後は法人向けに社外メンターを提案していくと大きく舵を切ったのも、その大きな転換点になると感じています。働いている中で社外にメンターがいるということは、私たちがマインドとかモチベーションといった、心の部分をサポートすることを意味し、女性が働き続ける上で不可欠なサポートだと感じています。 その結果、意思決定を出来る女性が組織の中で少しずつ増えていけば、男女ともに多様性のある社会を実現出来るんじゃないかというのが育キャリカレッジが目指すところです。たとえ結婚・出産や介護などで一度スピードダウンしても、メンターという存在のサポートがあることで、安心できたら良いですよね。 愛する存在が出来たことで、仕事に「自信」が持てた―池原さんは2年前に出産され、仕事も独立後でかなりハードモードの中だったと思いますが、産前と産後で自身のマインド面の変化はありましたか?すごく繊細になった部分と強くなった部分があります。例えば、子供の事故や虐待といったネガティブなニュースを耳にすると、以前には考えられなかった程に心が動揺します。一方で、これだけ愛する存在が出来たということでもあります。その上で、私は「仕事をする」という選択をしていることで、仕事との両立に自信が持てたんですよね。仕事は大切だし、心から好きなんだな、って改めて分かりました。昔、母に子どもを産むメリットって何なの?と聞いた時に、「世界が広がる」って言われたんですけど、その時はピンとこなかったことが、今ようやくわかってきました。例えば、息子が生まれていなかったらアンパンマンだってよく知らないままだし、一緒に鉄道博物館行く喜びだって知らないし、産前には行かなかったところに息子の存在をきっかけに行くようになって、これまでとは違う世界から、いっぱいヒントやフィードバックがもらえる。これは、仕事にもすごくプラスになっていると思います。ドイツと東京の二拠点生活中の池原さん。―2018年の秋に日本から旦那さんのいるドイツに拠点を移されましたが、日本から離れての生活は、いかがですか?ドイツに行く前の2018年前半はプライベートが全くなくて、仕事に追われているような状況でした。自分のことは後回しで、家に帰っても息子と2人きり。土日も子供のケア。それが辛いというか、自分の中で肉体的にも精神的にも余裕がなかった時期でしたね。その中で、ドイツへの引っ越しの選択は、間違いなく人生にとっても転換点になりました。―具体的には、どのような意味で転換点になったのでしょうか?臨月で夫の海外転勤が決まってから、日本ではずっとワンオペ育児だったので、ドイツで初めて家族3人が一緒に暮らすことになったんです。そこで、家族で暮らす楽しさとラクさを今まさに実感しています。今までは、息子の可愛さを日々夫にデジタル共有していたんですが、リアルタイムでその可愛さを分かち合えることが、こんなに楽しいんだ、嬉しいんだ、と知りました。あとは、体力的にも夫が息子の抱っこをしてくれたりとか、絶対に怪我をしないように目を配るとかも、責任が分担されたことで精神的にラクになりました。それと、もう一つ良かったことが、息子のドイツの保育園での経験ですね。保育園の理念がダイバーシティで、1歳、2歳の段階でも同調圧力がなく、「個」を大切にしてくれているのは、日本とは全く違う環境でした。例えば、子どもたち1人1人が鏡を持って自分の顔を見ながら、「みんな顔が違うよね、一人一人違うよね」と理解するようなプロジェクトも子供達は行なっています。いっぽう私自身は、日本との時差があるので、朝起きると日本時間の夕方で仕事のメールがいっぱい溜まっているので、起きた途端に返信したり(笑)、クライアントの日本時間に合わせて打ち合わせをするので、稼働時間は増えているかもしれないですが、それ以上に行って良かったと今は思っています。いま焦らなくても「わたし」と向き合うタイミングは必ず訪れる―最後に【Molecule(マレキュール)】の読者に向けて、池原さんが考える「わたし」と向き合うポイントは何でしょうか?今まで、私が何をしたいのか分からない、と悩む働く女性たちに多く向き合ってきました。私の出た結論は、「やりたいことが今分からないと感じている人は、そこでわざわざ考える時間を作って向き合っても答えは出ない」ということです。だから自分がどんなアクションをしたら良いかも分からないと思うんです。わからないものはわからない。動けない時は動けない。でも、それは、その人が悪い訳では全くなくて。 それよりも、「そんなに焦らなくても良いんじゃないか」っていうことです。人には、出るべきタイミングというものがあって、80歳になって天命に目覚める人もきっといると思うんですよね。 いま焦らなくても、きっとこの先そのタイミングが来るし、今は「わたし」が出てこない事情があるはずなので、そこを丁寧に日々向き合っていくことなんじゃないかと。例えば育児に日々忙しくしている人は、今のプライオリティが育児に来ているのだから、そことまずは丁寧に向き合っていく。育児は、いずれ手から離れるのだから、その時に「わたし」を考えるタイミングも、きっと来るはずです。逆に「育児で気持ちがいっぱい」っていう時に無理に「わたしと向き合いましょう」って言っても、おそらくに出てこないし、余計に辛くなる。―今はわたしと向き合うタイミングじゃないんだ、って思えるとラクになる気がします。人生ってやりたいこと、挑戦したいことに真っ直ぐ突き進む時と、しなければならないことに向き合う時と色んなフェーズがあるような気がしていて、やりたいことを追求していくフェーズだけじゃないと思うんです。それも含め、自分が精一杯主体的に向き合えたかということが大切なのではないでしょうか。 「育キャリカレッジ」の詳細はこちら(2019年7月28日に「Mentor For」に生まれ変わりました。) https://mentorfor.jp/