いま、スナックコミュニティが熱い。一昔前までは、スナックといえばサラリーマンがお酒を飲みながら中年ママとの会話を楽しむ印象が強かったが、最近は、明らかにそれとは違うスナックがあるのをご存知だろうか。本業がスナックママではない子育て中の女性が、「1日スナックママ」を志願して、日替わりでカウンターに立つスナックがちょっとした話題になっている。今回は、普段はキャリアカウンセラーとして働く恵さんが毎週金曜日に「1日スナックママ」として活躍していると聞き、その理由や魅力について取材した。スナックオーナーに志願して始まった「昼スナック ママ」上林恵(Megumi Kambayashi)さん(写真左)。京都大学教育学部卒。リクルート、キッズラインを経て2018年に独立。キャリアコンサルタント。プライベートでは、2歳の息子を持つ。出産後も子連れ留学、育休インターン、転職、独立など様々なキャリアチェンジを経験しており「ママである自分も、一人の女性としての自分も、全力で楽しむ」ことがモットー/ 写真右は、毎週金曜の昼スナックを一緒に切り盛りする星野由紀子さん(Yukiko Hoshino)。学生時代は心理カウンセラーになりたいと思い勉強していましたが、日本ではまだまだカウンセリングに対する敷居が高いのが現状です。もっと日常的に通うことができ、行けばみんなが元気になれる場をつくりたい。自分にとってそれは飲み屋ではないかと考えたのが原点です。社会人になってからも、会社員の仕事を終えた後に、仲良しのママさんのお店でコッソリお手伝いをさせてもらって経験を積みました。「店」ではなく「人」に集まってくる、そして「ママ」を介してヨコのつながりが広がっていく。そんな、スナックの場のあり方に魅力を感じるようになりました。とはいえ、「自分でゼロから場所を借りて、毎晩毎晩一人でお店を切り盛りするのは、幼い子供がいる私にとってはハードルがすごく高いのも現実で。子供が独立したあとの、老後の夢かな」程度に考えていました(笑)。そんな中、自分でお店を持たなくても、1日ママという選択肢もあるということを知り、これなら会社員しながらリスクなくチャレンジできる!と思いました。 また、この時期にちょうど独立を考え始めていたため、業界や職種を超えて様々な方と交流できる場を作りたい、という想いもありました。そこで勇気を出して仲の良いお店のオーナーに、「私に1日ママを務めさせてもらえないか」とお願いしたことがきっかけです。―友達同士の飲み会と昼スナックのママとして立つことの違いって何だと思いますか。ただ参加するだけの飲み会であれば、消費する側として、自己満足で終わってしまうことも多いと思うんです。一方、私にとってスナックのママは、「場をプロデュースする=創造活動」という感覚です。誰かに発信、提供して、その対価としてお金を受け取った時点で、そこに価値が生まれていると私は思います。 たとえ飲み会であっても、自分が幹事として場をコーディネートする立場なら、スナックのママに近い感覚かもしれないですね。創る立場になると、企画や準備のプロセスも含めて全てが楽しく感じられます。それがスナックママの魅力です。そして一人でやるのももちろん楽しいのですが、同じ想いを持った仲間と一緒に創造する方が、100倍楽しいとも思います。たった2時間で人脈が爆発的に広がる昼スナックの醍醐味取材で訪れた日も午後2時の開店直後から入れ替わり立ち替わり、上林さんの知人・友人が仲間を連れて訪れていた。 写真奥に座っているのがスナックオーナーの岡田真幸さん飲めなくても全然大丈夫です!飲み会は、ハメを外して記憶をなくすこともある私ですが(笑)、スナックママでハメを外したことはないですね。スイッチの切り替えができているせいかもしれません。例えば社会人になってクライアントとの飲み会はそんなに飲まないし酔わないのと同じ。自分が最大限おもてなしをしたいという気持ちと、たとえ相手が旧くからの友人であったとしても、お金をいただいているお客様という意識もあります。それに、カウンターの中に立っていると、自分が飲むタイミングも難しいんです。意外とスナックママは、全然飲めなくても出来ますよ。特に私が毎週開催している昼スナックの場合は、お昼時の開催ということもあって、ソフトドリンクを注文されるお客様も多いです。この日も、上林さんが初対面のお客様同士を紹介することから始まり、横のつながりが広がっている場面を何度も目撃した。やっぱり場所があるということが、良いですね。1日スナックママをやっていなかったら、もしかしたらもう二度と会わなかったかもしれないという方と、再開できた、という嬉しい出来事が何度もありました!毎週金曜日の午後に「スナックママ」として、必ずここにいることで、相手にとっても、都合の良いタイミングでフラッと私に会いに来てもらえる場になっています。もともとはフットワーク軽く飲み歩きで人脈を作ってきた私ですが、子供が産まれてからは、以前ほど気軽に夜に出歩けなくなり、付き合いの幅が狭まってしまう不安がありました。限りある自由な時間を有効活用したいと思う中、「スナックママ」として、自分の都合の良い時間に、様々な友人を一つの場に集められるということは、大きなメリットです。また、ここに来てくださる方々は、大学時代の友人や前職の同僚、飲み友達など、全く違うコミュニティに属しています。彼らが同じ空間で集まるなんてことは、普通の飲み会だとないですよね。1日スナックママをすることで、交流の幅は減るどころか、むしろ産前よりも増えています。私だけでなく、ここに来てくれた人たち同士で横のつながりもでき、そこから新しい人脈や仕事までも生まれている。たったの2時間で交流関係が飛躍的に広がることが、最大の醍醐味ではないでしょうか。全国の色々な地域で「日替わりママ」を開催したいスナックで人事担当者の交流会を企画し、Facebook上で告知したところ、かつてない勢いでシェアされ、たくさんの人たちが集まったという。―「日替わりスナックママ」として、これからやってみたいことはありますか。自分1人だとお目にかかることができない著名人にゲストとしてお越しいただき、その方の話を皆で聞くスタイルをスナックでやってみたいです。 また、SNSで私が「1日スナックママ」を実施していることを発信したところ、地元大阪だけでなく地方の友人からも「うちの近くでもやって欲しい」という声が届きました。東京に留まらず、全国の色々な地域で「1日ママ」を開催してみたいです。ビーチが好きなので海の家もやってみたいし、子供と一緒に楽しめる空間も作ってみたい。これまでの「スナック」の固定概念に囚われず、ネットワーキングとして様々な場を創っていきたいですね。私にとっては、新しい出会い、新しいものを創り出すワクワク感、そして楽しくお酒を飲むこと(笑)この3つが揃えば、最高にご機嫌な自分でいられるんです。だから、「スナックママ」は、仕事ではなくライフワーク。私がご機嫌でいるための要素が全て凝縮された、私自身の人生を豊かにするための場なんです。 ▼上林恵さんが毎週金曜日に開催している「スナック恵(現在はデルソーレ)」の詳細はこちら▼