「母親を、もっとおもしろく。」を掲げ、多様な母親・社会のあり方を模索する『母親アップデートコミュニティ(HUC)』。母親が個の人生を追求していく姿勢に共感が集まり、コミュニティメンバーは180名を超え、2020年8月には一般社団法人として法人化しました。代表の鈴木奈津美(以下、なつみっくす)さんは、新卒入社した大手外資系企業に勤める会社員でもあります。パラレルキャリアとして大きなコミュニティを立ち上げたきっかけは、育休復帰後に感じた“閉塞感”と、現状を打破するために始めた“ブログでの発信”でした。外の世界への継続的なアウトプットが、たくさんの人との出会いや、新たなチャレンジの場を生んでいったそう。 一生懸命に育児と向き合うゆえ、孤独感を抱えてしまうMolecule(マレキュール)読者も多いのではないでしょうか。今回はなつみっくすさんに、人生をもっと楽しめる「つながり」の広げ方について伺いました。産前産後で変化した仕事への向き合い方なつみっくすさん|外資系大手IT企業に勤めながら、新たな挑戦として始めたブログ・SNSをきっかけに『母親アップデートコミュニティ』を立ち上げ、代表に。ニックネームの由来は、“多様な人や価値観をミックスする”“色んな学びをミックスする”という意味が込められている。ー現在のお仕事についてと、これまでの働き方について教えてください。外資系企業のエンジニア職として新卒入社しました。現在は異動して、マーケティング部門で働いています。働くことは私の中で自然なことで、とにかく目の前の仕事に対して精一杯やってきました。「キャリアアップしたい!」というよりは、楽しみながら、ただお金を稼ぐためだけではなく人生をより豊かにしていくための手段として仕事と向き合っています。2014年の9月に子どもを出産して、翌年の4月に育休復帰しました。復帰直後は、時間の制約なくやりたいだけやるような今までの働き方とどうしても比較してしまい、足りない時間を埋めようと必死でした。17時に退社して子どもを迎えに行き、帰宅後に仕事を再開する毎日。最初の3ヶ月間はなんとかそれで仕事を回していたものの、深夜まで準備したイベント当日には熱を出しながら向かったことも。それで、さすがに「これでは続かないな……」と思ったんですよね。“やり過ぎている”感覚に疲労してしまって、仕事のやり方を変えようと決意しました。ー仕事を精一杯やってきたなかに育児も入ってきて、限界を迎えてしまったんですね……。どんなふうに働き方を変えたんでしょうか?2つのマインドセットを、大きく変えました。1つ目は、「時間に対する感覚」です。 今までは、「この時間までにこの仕事をやり終えよう」という意識が正直薄くて。家に仕事を極力持ち帰らないように、「時間内で必要な成果を出すにはどうしたらいいか」と考えるようなりました。2つ目は、「完璧を目指すのをやめる」ことです。 手を抜く、というと言葉が悪いんですが、まずは70‐80点を目指してアウトプットするようになりました。80点以上を目指してさらに質を高めようとすると、かけた工数のわりにいまいちクオリティが上がらない場合も多いです。なので、その先は必要に応じてブラッシュアップをしていくほうがいいなと思ったんです。この2点を意識して仕事するようになったら、だいぶ楽になりましたね。育児と仕事を“淡々とこなす”毎日に閉塞感を覚えるー育児をするなかでの働き方の工夫、とても勉強になります。復帰してからしばらくは仕事と育児の両立にもがいていましたが、子どもが4歳くらいになると生活のリズムがやっとできてきましたね。 でも同時に、なんとなくモヤモヤというか、閉塞感を覚えてしまって。タスクやルーティンをうまく回して、淡々とこなす毎日が「当たり前」になっていました。それももちろん大切なことなんですけど、新しいことに挑戦する機会がすっかりなくなってしまっていたことに気づいたんです。ーそうだったんですね。生活に少し余白が出てきたことで、次の課題というか、物足りなさみたいなものが生まれてきたのでしょうか。そうですね。目の前の仕事に対して誠実に向き合うことが自分のモットーでしたから、以前の自分ならそんな毎日に疑問を覚えなかったかもしれません。ちょうどそのころに上司として異動してきた外国人マネージャーとの出会いも、閉塞感に気づくきっかけになりました。今まで私は、仕事を通していかに他者に貢献して、自らも楽しめるかを重視してきました。でも、会社に自分の成果をアピールして昇進したいとか、自分の望むキャリアにステップアップしていこう、みたいな考えがなかったんですよね。ところが、私と同じく子どもを持つ彼女から、「あなたはキャリアをどのように切り拓いていきたいの?」といつも聞かれて。それで、「私は今後どうしていきたいんだろう?」と考えるようになりました。毎日仕事行って帰って子供が寝て……の繰り返しのなかで、そもそも自分のことについて考える時間なんてありませんでした。出産後、初めて自分を振り返るきっかけとなったんです。新たなチャレンジで始めたブログが転機に―ブログを始められたのはそんなタイミングだったと伺いました。ブログを選んだのはどんな理由からだったんでしょうか?なにか新しいことを始めたいとリサーチしていたら、『黄金のアウトプット術』という本で「ブログがいい」と書いてあったんですね。ブログって、アフィリエイトで稼ぐ副業みたいなイメージあって敬遠していたんですが、学びをアウトプットすることで自分に蓄積されていく効果があると知って。もともと学ぶことは好きだったので、やってみようと思ったんです。▶︎ なつみっくすさんのブログ『のこぎりブログ』ーそれから毎日更新されていらっしゃって、すごいです。続けることで効果を実感されたのでしょうか。継続して発信するためにきちんとインプットしなければ、と本を読んだり、イベントに行ったり、オンラインサロンにも参加してみたりとか、新しいことにどんどんチャレンジするようになりました。ブログがよい意味で「アウトプット強制装置」になったんです。1ヶ月もすると、学びを自分の中で蓄積できている感覚が芽生えましたね。「誰にも読まれなくても、自分のためにやろう」と始めたブログでしたが、せっかくなら、とSNSでも発信するようになりました。そうすると、さらに人との輪が広がっていって。イベントで出会った人とSNSでも繋がって引き続き交流できますし、自分の関心があることをアウトプットしていると、同じ想いを持つ人と知り合うこともできるんです。それがすごくうれしかったですね。一つひとつの学びや出会いを通して、点と点が線になっていくというか。ーブログがきっかけで、学びのインプットだけでなく出会いも得られたのですね。今までの出会いで特に印象に残っているのは?2018年12月に参加した「Yahoo!アカデミア合宿」です。私の人生を変えるきっかけとなったイベントでしたね。東日本大震災の被災地である石巻で、復興に携わる方々のお話を聞きながら「日本の未来を創る“チェンジメーカー”になる」というテーマでワークショップが行われました。友人でもない、同僚でもない、様々な価値観を持つ人とディスカッションする3日間。たくさんの気づきを得るとともに、自分の人生や働く意義を見つめ直す機会になりました。実は、この合宿を知ったのは開催の1週間前だったんです。「申し込むなら今しかない!」と、すぐに参加を決められた自分がいました。ブログを始める前だったら、「もう仕事が入ってるし……」とか、「子どもを夫に3日間も任せるのは申し訳ないな」とか、“行けない理由”をいろいろ見つけて、諦めていたかもしれません。でも、出会いや学びを得ることで成功体験を積み重ねていたので、迷わずに行動に移せました。「行く」と決めてさえしまえば、絶対に実現できるとわかっていましたから。ホップ、ステップ、ジャンプで『母親アップデートコミュニティ』を立ち上げ合宿最終日に発表した、なつみっくすさんの「宣言」ー合宿を終えたあと、年明けに『母親アップデートコミュニティ』を立ち上げられました。どのような経緯だったんでしょうか。合宿の最終日、「今までに得た気づきをもとに、これから何をするか?」を参加者全員が宣言しました。私の宣言は、「女性が活躍できる社会をつくりたい!」。1人の女性として、母親として、自分の人生を楽しめる社会になればいいな、という想いがずっとあって。今まで目立った活動はできていなかったのですが、合宿を通して、自分自身でその未来を切り拓いていきたいと改めて考えたんです。そこで目にしたのが『Weekly Ochiai』の観覧募集でした。ソーシャル経済メディア『NewsPicks』で放送されていた、メディアアーティスト・落合陽一さんの番組です。毎週さまざまなゲストを迎えて、「アップデート」をテーマにディスカッションが行われていました。そのときの放送テーマは「母親をアップデートせよ」。もともと好きで見ていた番組だったのもあり、「これだ!」と即応募しましたね。当日は、観覧者を巻き込んで大いにディスカッションが盛り上がったんです。収録を終えるころ、ここに集まった同じ志を持つ人たちと一緒に活動をしたいと思い、気づけば「コミュニティをつくりたい!」と手を挙げていました。ーまさに、合宿の宣言を実行できるチャンスがめぐってきたんですね!ちょうど前の月に合宿で宣言していたおかげで、ここでもやりたいことに迷わずに踏み出せました。当時を振り返ると、ブログを始めたときがホップで、合宿がステップ。コツコツと行動を積み重ねていたからこそ、思いっきりジャンプする準備ができていたタイミングだったんだと思います。「100人100通り」の個性を社会に向けて解放したいHUC企画・運営の『子連れ100人フェス』開催のために行ったクラウドファンディングでは、175人もの支援がありましたーワーキングマザー向けのコミュニティはいくつか存在しますが、『母親アップデートコミュニティ』で大切にされていること、目指す方向はどんなものでしょうか?「誰も否定しない」をモットーに、一人ひとりが主役になれる場を目指しています。「キラキラワ―ママ」とか、「バリキャリ」とか、一定の方向にカテゴライズせずに「100人100通り」の個性を解放していくイメージです。「育児も家事も完璧にこなさなきゃ」 「家事や子どもの送り迎えは母親がメインでやらなきゃ」母親って、「こうしなきゃ」の固定観念にいつの間にか縛られてしまいますよね。私も、かつては体調を崩すまで日々のタスクに追われていました。自己犠牲やキャリアの断念をせずとも、母親だってもっと、自分のやりたいように生きられるはず。『母親アップデートコミュニティ』は、そんな想いを持つメンバーが集まり、現在は180名を越えるコミュニティになりました。毎日、オンラインでディスカッションしたり、ゲストを呼んでイベントを企画したり。大切にしたいのは、外の世界とちゃんと接点を持って、自分だけでなく社会もアップデートしていくこと。自分の人生をもっともっとおもしろく生きる母親が1人増えれば、その人の半径5m以内にいる人たちにもよい影響があって、どんどんアップデートの輪が広がっていくと思うんです。活動のコアとなるコミュニティ内でつながりを強めていきつつ、外側に向けた発信や、企業とのコラボレーションなども積極的にやっていきたいですね。ーあえてロールモデルのような存在は置かず、それぞれが自分らしく活動することを目指されていて素敵です。鈴木さんの今までの行動の積み重ねが、大きなつながりを生み出してきたのですね。アウトプットを始めたことで、1人で閉塞感を抱えていたころには想像もできないくらいの出会いと学びが生まれました。以前の私なら「無理かも」と思ったであろうことも、誰かと一緒ならできるかも、と思えるように。「どうしたらできるか」というチャレンジ精神を大事にしながら、世の中にまだまだある「母親だからできない」をなくしていきたいですね。『母親アップデートコミュニティ』の活動はこちらからチェックできます!https://haha-update.com/