写真提供:Paranavi(パラナビ )大手広告代理店でクリエイティブディレクターを務めながら、料理を通して子どもの自信力を育むサービス「エスキッチン」でPRやブランディングも手がける田中美奈子さん。30代、キャリアのポジションが変わったタイミングに時間の余裕ができたことでパラレルキャリアをスタートしたそう。育休中に体験した新しい発見が、それまで社会に対して感じていた“違和感”を具体的なアクションにつなげるきっかけになりました。(記事提供元:Paranavi(パラナビ ))“社会に向けてのアクション”がパラレルキャリアに――パラレルキャリアを始めたきっかけを教えてください。32〜33歳のときに、クリエイティブディレクターという立場になったことがターニングポイントでした。それまでは、誰かの下について企画を出して、現場を回していくというプレイヤーの立場だったんです。仕事も楽しかったし、とにかく一生懸命でした。それがポジションが変わったことで、現場を回してくれるチームができ、仕事を任せることができるようになったんです。そのおかげで、案件量は変わらずに自分の時間に少し余裕がうまれたのがきっかけです。――そこからパラレルキャリアを始められたんでしょうか?もともとは、「パラレルキャリアとして始めよう」と思っていたわけではなく、いまでもそんな実感はありません(笑)。仕事に余裕が出てきたタイミングで、会社のためだけに働くのではなく、「社会に向けて、アクション・活動を起こしていきたい」と思ったんです。自分の24時間・365日をトータルで見たときに、会社貢献価値よりも社会貢献価値を意識した方がいいと思ったんです。 具体的には週に1日分くらい余裕ができたので、NPOの活動を始めました。内容は、地方の中小企業の方と一緒に、街を元気にする企画を考えるといったもので、当時は金土日の3日間を使って地方に行き、地元の企業や学生さんとワークショップやイベントを行ったりしていました。写真提供:Paranavi(パラナビ )「エスキッチン」がキャリアを外から見直すきっかけに――NPO活動もされていたんですね。現在活動されている「エスキッチン」との出会いを教えてください。育休中のお母さんとスタートアップやNPOの方をマッチングしてくれるサービスがあって、私自身も育休中にそのサービスを通じて「エスキッチン」と出会いました。自分も含め、育休中に不安や疑問を抱えている方ってたくさんいらっしゃるんですよね。そんなお母さんたちが持っているスキルを活かしながら、会社のお手伝いをするというマッチングサービスなんですけど、普段とは違う環境で仕事をするので、自分のスキルやキャリアを外から見直すきっかけになると思います。 私もそこで育休中の2カ月間、「エスキッチン」のPRやサービスのブランディング・Web改修のお手伝いなどをやっていました。復帰後も、エスキッチンに加え、「両立チーム育児ラボ」というコミュニティのサポートメンバーとしても活動しています。月に1〜2回打ち合わせを行い、リリースを出したり、イベントやコンテンツ制作のお手伝いをするといった形で、お手伝いしている感じです。――意識的にパラレルキャリアを始めたわけではないというお話でしたが、どのように今の業種に絞っていったのでしょうか。子どもの教育や食に関わる仕事をしたいと思っていました。育休中にこの先の仕事を考えた時期があって、その際に、食育アドバイザーの資格を取得したんですよね。そこから、「教育」や「食」といった分野で働いている方々と、つながりたいと強く思うようになりました。でも、会社に復帰するだけでは得られない、もっと自分の興味領域でできるフィールドを作りたいなという想いでキャリアを探していた時に、マッチングできたのが「エスキッチン」でした。エスキッチンは「お手伝い教育」を主軸にしていて、教育と食が合わさった事業内容なので、私にはぴったりでしたね。“自分で把握できるサイズ感”だからこそ得られる新たな発見写真提供:Paranavi(パラナビ )――仕事に復帰されるタイミングで何か気持ちの変化などはあったのでしょうか。広告は、企業の悩みを解決しつづける仕事なので、やりがいや楽しさはもちろんありました。ですが、それが誰を幸せにしているのか、確信が持てなくなってしまったんですよね。会社って社会のためにあるものだから、会社で働いている時点である程度社会貢献にはなっていると思います。顔の見えない人にたくさん売って、たくさん稼ぐ、今のシステムももちろん必要です。ただ、自分が育休中にマイノリティーになった実感も含めて、もっとコンパクトに、小さいものを積み上げていきたいという気持ちが強くなったことで、結果的にパラレルキャリアになっていったという感じです。――「エスキッチン」の活動を始めてよかったところはなんですか?自分が起こしたアクションに対して、結果が見えやすいというのが嬉しいです。それは小さな発見でもよくて、例えば、現在行っている「両立チーム育児ラボ」だと、1年間一緒に活動する仲間と、Facebookグループでやりとりしたりワークショップをする中で、自分だけかな?と思うような悩みから生まれる解決策が、他の同じような環境の人のためにもなるという実感があります。広告を打ち出すとなると、みんなでインタビューして、調査やデータでどれだけの人が動いたかみたいな数値はもちろん見ますけど、誰の悩みをどのように解決できて、その結果、その人はどう幸せになったのか……っていうところを具体的に手触りを持って実感できる機会は少ないんですよね。でもたった1人の人が感じることだって、間違ってはいません。そこに本気で挑み新たな発見があることは、とても面白いです。その発見を拡張していくと、結果、世の中のためになるんじゃないかなと思うんです。小さな発見を積み上げていくことで「1万人は無理だけど、300人は自分が幸せにできている」という実感が得られる。300人じゃなくて100人でもいいんです。自分で把握できるサイズ感、規模感が見えてくることで行動しやすくなると思うんですよね。田中 美奈子(たなか みなこ)●2004年広告代理店に入社。コピーライター/CMプランナーを経て、現在の広告代理店に転職。メディアとコンテンツの特性を生かしたターゲットに刺さるクリエイティブを生みだす企画チームへ。2017年クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト受賞。2017年子供を出産。産休・育休を経て復帰、現在に至る。パラレルでは、2014年にNPOの活動/運営サポートをスタート。その後、育休中の2019年5月から現在まで、エスキッチン/両立チーム育児ラボのPR/プロモーション/ブランディングのサポートを務める。 (ライター/杉森 有規)