病気や障害のある子どもたちと家族を応援するソーシャルプロジェクトを主宰している石嶋瑞穂です。自分軸を模索しながら母になっても自分らしく生きたいMolecule(マレキュール)のコンセプトに共感しライターとしてジョインさせていただきました。そのMolecule(マレキュール)でシリーズでお伝えしている「産後のわたし」、最終回は病気や障害のある子どもに可愛らしさとかっこよさを届けたい『チャーミングケア』という考え方を発信する仲間として一緒に走ってくれている岩倉絹枝さんにお話を伺いました。長期間かつ複数回の産後うつの経験を持つ岩倉さん。その経験をもとに障がい児・超未熟児用子供服の企画販売「コドモフクひよこ屋」・眠れないママのためのスリープケアセラピー「ヘルスデザインラボ」の運営をされています。自分を見失いそうになりながらも、岩倉さんがたどり着いた自分軸とは?『産後のわたし』の連載の締めくくりとして、岩倉さんの体験談をお届けします。産後うつを経験 自身の気づきから立ち上げた2つの事業岩倉絹枝さん |「コドモフクひよこ屋」という障害児や超未熟児用 子供服の企画販売は、第二子出産後、自身が産後うつの最中に子どもが入院したことがきっかけになり立ち上げた事業。たくさんの点滴につながれた我が子を着替えさせるのに困難を感じて、もっと簡単に着替えさせられて可愛い服ってないのかな?と思ったのがきっかけに。もう一つの事業として、産後うつの最中眠れなかった経験から、スリープケアセラピー「ヘルスデザインラボ」の運営をする。ー立ち上げた事業2つは、いずれも自身の産後うつがきっかけとのことですが、いつ頃から不調を感じだしたのですか?一人目の出産の時から異変を感じていましたね。産後うつって微妙な感じで、グレーゾーンの時期が割とあるんですね。だから医療的な線引きはわからない部分はあるんですが、おかしいなって異変を感じたのは出産した直後からですね。生まれてきた子供に対して、溢れるほどの感動があるって聞いてきたんだけど自分にはそれが感じられなくて。とにかくしんどい、こんなあっさりしたものなのかな?ってその時は感じていましたね。だけど、授乳もしんどいしオムツ換えもしんどい・・・少しでもいいからとにかく休みたかったというのが正直なところでした。ー産院ではそういったことに対してのケアはなかったんですか?私が生んだ産院が少し特殊なところで、母乳育児が絶対で哺乳瓶は1本も存在しませんみたいな赤ちゃんファーストな産院でね。もちろん布おむつで。だからか、あんまり母親側のケアみたいなのがなくって。 とにかく赤ちゃんのためにいいことをしましょうってスタンスだったんですよね。自分で望んでその産院を選んだんだけど、初産だし自分のイメージしていた出産と実際のギャップはすごく感じましたね。 退院して家に帰ってきても、そのふつふつとした想いは晴れることがなくて、今から思えばもう既に産後うつは始まっていたのかなと感じますね。ーその時の旦那さんの対応はどんな感じでしたか?夫は割合協力的な部類だと思うんですよね。ですが、手伝って欲しいことと、手伝ってくれることの内容があってないっていうのか?「ミスマッチング」的なことはよく起きてたかもしれないですね。特に完全母乳だったので、新生児時期っていうのはやれることがそもそも限られてるっていうのもありますよね。攻めるほどのことではないし、そのこと自体には納得している感じでしたね。ーいよいよしんどくなってきたのはどれくらいですか?(写真はイメージです。 http://o-dan.net/ja/)産後3ヶ月とか4ヶ月くらいは、しんどいなと思いつつも何とかかんとかやれてたんですよね。ただ、ふと目にしたニュースで産休中に母親が自殺をしたって話題があって、それが全然他人事だとは思えなくて、なんだったらむしろ羨ましくて。あ、ああやったら楽になれるんだって。その辺りで体調もついてこなくて、漢方薬を飲んだりマッサージに行ってみたりをしてみたんだけど、特に改善はなかったんです。働いてなかったので、それなのにそんなことにお金を使うっていうことにも罪悪感も感じてしまって。だからと言って、すぐに心療内科に行こう!っていう気にはなれなかった。で、なんとなく敷居も低い気がした産科がやっていたおっぱい相談に参加してみました。そこで初めて「共感」を得られたのが大きかったですかね。 ある意味、本当にしんどさ部分を確信したのはそこかもしれないですね。ー何かアドバイスをもらったりしたんですか?そのおっぱい相談で、睡眠の話を聞いて、今まで誰も共感してくれなかった思いに対しての提案だったので藁をも掴む思いでいただいたチラシをもとに睡眠セラピーを受けてみたんです。それがリフレクソロジーで正直半信半疑ではあったんですが、とにかく行ってみようと滋賀から名古屋まで足を運んでみたんです。そうしたら、そんな劇的に何か変わるわけではなかったのですが、施術中に10分程安心して眠れたんです。そして帰りの車の中で、感覚的に色々感じるものがあって、あれ?わたし良くなってる?と思えたんです。そこまでたどり着くまでに1年半くらいはかかりましたかね。ちょうど母乳育児が終わると同時くらいのタイミングでもあったかもしれないです。2人目の出産後に再び直面した、産後うつー二人お子さんがいらっしゃいますが、二人目の出産後はどうでしたか?やっぱりなりましたね。1人目の時に大変な思いをしているので、万全を期していたつもりなんですけど、でも不調になってしまって。 眠ればいいとことを知っているので、産院でお薬を処方してもらったんですが、ほとんど効かなくて。だけど2人目ということは、面倒を見なきゃいけない対象が前回の倍になっているわけじゃないですか。そこがもうしんどくて。そうしているうちに、2人目の子が生後1ヶ月で感染症にかかって、呼吸がない状態になってしまって入院してしまったんです。病院に搬送されて、緊急入院になったんですけど、集中治療室だから付き添いはない状況で・・・本来ならすごく心配で、辛いはずなんだけど、なんだか安心してしまって。今日はわたしは解放されるんだと。今考えると恐ろしい発想ですよね。だけど、わたし自身もそこまで追い詰められている状況でしたね。結局3週間入院になったんですが、泊り込みの入院付き添いでないにしても、精神状態はやっぱり不安定でしたかね。 泊まれないのを理解しているはずなのに、病院の周りを車でウロウロしてしまったりとか、急に泣いてしまったりとか。その時の不安を今思うと、見通しが立たないことへの不安だったかもしれないですね。 生きて帰れるのか?障害が残ってしまうんじゃないか?とか。ー退院後も産後うつが続きましたか??いつ抜け出したと感じたのでしょうか?しばらくかかりましたかね。正直どの瞬間に抜け出したのかもわからなくて。出産後から子供を「かわいい」と思う瞬間が、1秒もなかったんですよね。2年くらい経ってからですかね。なんだかふっと「あ、かわいいなぁ」って思えるようになってきたんですよね。今振り返ると、きっと体が出産前の状況に戻ってきたタイミングなのかなと感じますね。やっぱり女性の体のメカニズム的なことにも関連してるのかなぁと今になってから感じます。ーその間、旦那さんとはどんな感じでしたか?夫のせいで、しんどいという感覚ではなかったんですが、やっぱり辛さの共感みたいなものは得たいっていうのはありましたかね。 いわゆる産後クライシスという感じではあったのかなと今になったら思ったりもしますが、当時は自分が必死すぎてはっきりと覚えていないですね。だけどそれってきっと、性別的なもので難しいのかなとどこかでわかっていたりもして。子供を授かる前は、パートナーに100%向いていた気持ちが、子供を産むと50%くらいになるもんなのかなと思っていたけれど、実際は90%くらいの意識は子供に行って、残りの10%は本当に必死ですよね。 正直、パートナーに向いている余裕がない。わたしが実際に経験してみて思うのは、自分自身が女性の体のしくみであったり、出産後のメンタルの変化であったりへの予備知識がほとんどないってところが問題なんじゃないかなって思いましたね。女性である自分自身もわからないようなことを、男性であるパートナーがわかるはずない話ですものね。2人目産後うつの体験があったからこそ立ち上げた「睡眠」サポートーそこでどんな気づきがありましたか?そうですね。産後クライシスって<VS 夫> みたいな構図になっていると思うんですけど、私の場合は敵は夫じゃないなって思ったんですよね。 私は、わたしのことがよくわからなかった。わたし自身がわからないことを夫がわかるはずがない。だけど・・・この感覚はわかってほしい。そんな時、どこに相談したらいいのか?っていうのがわからないなっていうのがある意味気づきだったかもしれないですね。行政上のサポートって4ヶ月検診くらいまでなんですけど、わたしもそうだったみたいに心身ともに「あ、大丈夫そうだぞ」って自覚が出てくるまでに長期間必要だったりするんですよね。なので長期間のサポートが必要だなと感じていましたね。そして、こと産後うつに関しては、「感染症」みたいなものなのかなって感じていて、誰でも起こりうるものであって、予備知識を持つことで予防にもなるんですよね。 だから、自分が体験したからこそわかる、そこにフューチャーしたサービスを展開できないかなって思ったんです。子供が生まれると、子供に目がいって幼児教育とか子供にどうしても目線が行きがちなんだけど、お母さん自身のことをもっと大切にしてほしいなと。そこにお金をかけることは決してわがままなことではないし、きっとニーズもあるんじゃないかなと感じたのが、今のサービスにつながっていますね。ーどんなサービスなんでしょうか?わたしが展開しているのは、「睡眠」という切り口で、産後うつなど、辛い思いをしているママををフォローしていけたらというサービスなんです。まずは予防という観点から、誰もが気軽に寄れる居場所を作りたいなと毎月一回「おねむりカフェ」というのを開催しています。「お母さん眠れていますか?」という問いかけから、ママ達が自分の身体と心の状態に気づき、不安や悩みを相談できる場作りをしています。 それは、産後のお母さんへのサポートという観点から評価をいただき、先日、程ケ谷基金平成30年度男女共同参画・少子化関連研究活動の支援に関する顕彰事業 活動賞をいただきました。ー最後にMolecule(マレキュール)読者に伝えたいメッセージはありますか?わたしは産前オーストラリアに留学していた経験があるのですが、そこで強く感じたのは、「日本人って自分が幸せになることへの貪欲さが足りないな」ということでした。今より幸せになりたいっていう意識が薄いなと。私は色々経験したけれど、振り返ると自分のために、ちょっとでも幸せになりたかった過程だったのだと思っています。きっとその部分が私の自分軸になったんじゃないかなと感じています。ほんのちょっとしたきっかけで、考え方が180度変わることってあるので、産後苦しんでいるママたちが、私の経験を知っていただくことで、少しでも自分なりの軸を探し当てられるきっかけになったらいいなぁと思います。▽岩倉絹枝さんの眠れないママのためのスリープケアセラピー「ヘルスデザインラボ」詳細はこちら▽