「保育園からの呼び出しで急にお迎えが必要になったが、夫婦どちらもお迎えが難しい」「夫は出張中。体調が悪くて寝ていたいけど、子どもが次々と要求を」…など子育てをしていると、夫婦だけでは解決できない問題にぶつかることが多い。共働きで核家族、ワンオペ育児など、子育ての壁はなかなかに高いのが現状。【Molecule(マレキュール)】ライターの私・柳澤も少なからず閉塞感を感じたことがある一人だ。そんな中で、夫婦でシェアハウスに住み、子育てまでもしてしまう茂原さんたちの暮らしは、これからの家族のあり方のヒントをくれるような気がした。茂原さんは一体どんな風に暮らし、何を感じているのか。茂原 奈央美(もはら・なおみ)さん 大学生向けキャリア支援・就職活動支援会社に勤務。社会人になってから続けるシェアハウス生活は今年で約8年にわたる。現在は1歳7か月になるお子さんを育てるワーキングマザー。著書に「シェアハウ スわたしたちが他人と住む理由」辰巳出版 「結婚してもシェアハウス!~普通の婚活はもうやめた~」幻冬舎plus+などがある。「東京フルハウス」はその名の通り、東京の新宿区にある一軒家だ。小窓がたくさんあるデザイン性の高いその建物に、茂原さん夫婦と1歳7か月の息子さんを含む計11名が暮らしている。お話を伺う共有リビングに足を踏み入れると、住人の一人が部屋の片隅で布団にくるまって寝ていた。ドキドキする私・柳澤を横目に、茂原さんは全く気にせずインタビューに応じてくれた。「きっかけは職場の先輩ワーキングマザーたちの奮闘ぶり。シェアハウスで子育てすれば助け合えるんじゃないかと。」ーーシェアハウスで子育てするきっかけは?まだ独身だったころ、妹と会社の同期の阿部と3人でシェアハウスをしていました。当時は家事を3人で分担していて。私は洗濯係。阿部は共有スペースの掃除という風にやったところ非常に生活が楽だなと感じていました。私たちの職場にはワーキングマザー(以下ワーママ)が多くいて。皆、17時にはさっと仕事を片付けて帰っていく。子供が熱を出して呼び出しというようなこともよくありました。そんな中、颯爽と仕事をこなす先輩ワーママを見るにつけ、将来子供をもった時、私はあんな風に働けるのだろうか?と不安になっていました。というのも、わたしも阿部も地方出身ですぐに頼れる場所に両親がいるわけではない。お互いに子どものお迎えや家事も分担できたらすごく楽だよねという話を当時はしていました。でも、実際、男性と話をしていて、そんな話をするとえー!と引かれることが殆どでしたね。唯一、いいね!って言ってくれたのが今の夫。夫も友人とシェアハウスをしていたし、この生活を独身で終わりにするのはつまらないと話もしていたので、それが結婚にもつながったんです。「夫とは実は一度も喧嘩したことがないのです。」――まさにシェアハウスがつないだご結婚だったんですね!ご夫婦すごく仲良さそうですよね。実は夫とは一度も喧嘩したことがないんです。シェアハウスって喧嘩しづらい環境だなと思っています。というのは、人がいるからできないというのではなく、何か家の中で問題があったときに、喧嘩ではなく話し合って決めていくのが当たり前なのです。例えば、ごみの捨て方とか。夫婦で結婚して二人暮らしをすると、気に食わないごみの捨て方があると、相手のせいだって思って、つい喧嘩になってしまう。でも、人が多くいると、誰がやったのかお互いわかりにくくなって指摘しにくくなる。だから仕組みで解決しよう!となるんです。それに、みんなそれぞれ得意な所、苦手な所があるよね?っていうのもよく分かるので、 何かあったときに、相手を責めることは起こりづらいかな。 私は2人暮らしもしたことがあるので、その感覚から2人で住むと揉めやすいけど、3人以上だと誰がやったかわからなくなり揉めることは少なくなって。人数が増えれば増えるほど、楽になるという感覚はありますね。 シェアハウス生活を通して色々な家庭があるし、価値観や常識って本当に多様なんだなぁって理解できるようになった気がします。東京フルハウスの住人の皆さん。1歳7か月の赤ちゃん、21歳から36歳まで、大学生、広告代理店勤務、編集者など様々な年齢・肩書きの住人が集まって生活している。一番右が茂原さんのパートナー、そして赤ちゃんを抱っこしているのが茂原さん。 「うれしいのは、子どものちょっとした成長を一緒に喜んでくれる人がいること」――実際に子育てをしてみてどうですか?シェアハウスで子育てといっても、基本は夫婦で責任をもって子育てしています。なので、住人にマストでこれを手伝って!とお願いしていることはないです。でも、やっぱり家に大人が沢山いるというのは、それだけですごくありがたいですね。 週末に共有リビングに子どもをつれていくと、自然に相手をしてくれたりする。そのちょっとした大人の手がすごく助かるなぁと思います。それに住人が子どものちょっとした成長にきづいてくれて「まつ毛伸びましたね!」とか「腕の筋肉つきましたね!」とか言ってくれるんです。初めは抱っこもおぼつかない感じだった住人が、すごい上手になっていたりしてうれしいですね。実は、子どもを保育園に入園させる前日に、私が倒れてしまい突然入院するということがあって。その時は、夫がワンオペで家事と育児を担ってくれました。その際にも住人に随分と助けてもらいました。いざという時、助け合える関係性はありがたいですね。茂原さんの息子さんと遊ぶ住人のお一人。 「シェアハウスは自分たちで選んでつくっていける家族。」――もし子育てに行きづまっている家族があったら伝えたいことはありますか?わたしがシェアハウス子育てをしていていいなと思うのは家族のように心を許せる人がたくさんいる。ということです。正確にいうと従妹みたいな関係の人たち。そういう人たちと暮らせることは幸せだし「安心」して暮らすことができていますね。今は核家族が多いし、地域コミュニティーも希薄化していますよね。 私が独身の時思ってたのは、実家が近い人ってその時点でプラスがあるというか、実家が田舎か都会かで、もうそれって格差だよね。と感じていました。でもシェアハウスでする子育ては自分たちで選んで作っていける家族なので、自分たちで生きやすくすることができるんじゃないかなと思っています。 わたしも、今後ずっとシェアハウスをするかどうかは分からないなと思っています。今の住人と近所に住んで助け合えるだけでもいいよね。と話をしています。ちょっとお醤油借りに行けるっていう濃い関係性の人が近所に住んでいるだけで暮らしの安心感は全然ちがいますよね。そんな関係性の人が沢山住んでいるコミュニティを作れたら、どんな人も子育てしやすい環境になるんじゃないか。とも思っています。編集後記今後について、まずは仕事と育児の両立が挑戦です!と茂原さん。家族での挑戦は、東京フルハウスと三崎(神奈川県三浦市)での二拠点生活とのこと。「シェアハウスで子育て」という常識に捉われない茂原さんのお話を聴き、あらためて家族の定義は人それぞれ。幸せで安心な暮らしをもとめて、家族は自ら作り上げていけるものなのだと勇気がわいた気がした。そして色々な価値観や常識を受け入れる力もまた、茂原さんのように培っていけるものなのだ。日々多くの住人達と過ごす息子さんは、全く人見知りがないそうだ。多様な価値観の中で多くの愛情に恵まれたお子さんの成長が楽しみでもある。