妊娠7ヶ月で相手が失踪。前を向くまでの心境の変化「幸せはいつも自分の心が決める」。 今年1月に公開された私のインタビューを読んで、こんな言葉を添えて感想を送ってくださった方がいました。松村 佳依(まつむら・けい)さん。現在1才の息子さんを育てる、私と同じ未婚のシングルマザーです。彼女からの一通のメッセージがきっかけとなり、3月下旬の暖かい日、未婚シングルマザー同士でおしゃべりをしてきました。佳依さんは、神戸を拠点として「おくりもの写真展」と「おくりもの写真展」を扱うハモンの創業者でもあります。妊娠前から起業家としても様々なビジネスに向き合ってきた彼女。そのビジネスの一つが、結婚式のプロデュースだったそう。当時付き合っていた彼との間に命を授かったときも、当然何のためらいもなく、結婚に向けて動き出しました。 しかし、入籍直前、妊娠7ヶ月の頃に相手が消息を絶ったことで、彼女は「未婚シングルマザー」になることを余儀なくされてしまいました。私は、父親になることを望まなかった彼と妊娠初期のタイミングで別々の道に進みました。何度も繰り返した話し合いののちに、いわば「自分の意思」で未婚シングルマザーという人生を選んだようなもの。しかし、彼女の場合は状況が違います。結婚を決めた相手が、お腹の子と自分を残して突然いなくなってしまったら……。その心情は想像するに余りあります。しかし、そんな辛い過去を経て今、幸せそうに息子さんと微笑む彼女。 どのような心境の変化があったかを聞いてきました。「私の人生、終わったな」――こんな出来事があってすごくつらかったですよね。でも、今の佳依さん、すごく幸せそう。前を向けたのって、いつぐらいだったんですか。(佳依) 心から幸せを実感できたのは、息子が生まれて半年くらいの頃だったと思います。元気なふりはしていましたが、やっぱり心の中ではめちゃくちゃ落ち込んでいました。 言い方は悪いですが、「私の人生、もう終わったな」と思っていたんです。偶然ではありますが、妊娠する前から結婚式のプロデュースやご夫婦の記念日のおくりものの企画プロデュースなどの事業を手がけていて。パートナーシップって幸せを作る一つの大きな要素だと思うんです。 良いパートナーシップがあることで、人生はより豊かになるということは、仕事を通じてたくさんのご夫婦を見て確信したことです。だから自分もパートナーシップをめちゃくちゃ大切にしたいという想いを人一倍強く持っていました。結婚に対する憧れもすごくあったし、今もあります。だからこそ、当時はシングルマザーになるということで「パートナーを持てなくなるかもしれない」ということに対する大きな不安を感じました。ただ彼氏と別れただけならまたやり直せるけど、子供がいたら幸せな結婚への道のりは難しくなるのかな、と思ってしまってました。いまはそうは考えていないんですけどね。――その気持ちは、お子さんが生まれてから変わった?そうですね。子供は本当にかわいくて。生まれてきてくれてありがとうと心から感じ、周囲の協力もあって、子育てを楽しんでいました。でも、心のどこかで「もうパートナーを持てないだろう」という不安が残っていて。その不安が溶けていったのが、息子が生まれてから半年くらい経った頃だったと思います。この経験が私をもっと魅力的にしてくれた――不安が溶けていった。はい。子どもと過ごす時間を通して、自分の価値観がどんどん変わり、人間としての魅力が深くなっていっていると感じるようになったんです。以前は「子供がいるからもう結婚できない」という思いがどこかにあったんですが、この頃から「そうじゃない。子どもがいるからこそ、こんな経験をしたからこそ私自身の魅力が増してる。この先きっと、誰か素敵な人と巡り会える!」と思えたんです。――すごく前向きな変化ですね……! 私自身も同じ不安はすごくあるし、今でも、未婚男性とパートナーになることにはなんとなく引け目を感じてしまう部分もある。そう思えたきっかけは何かあったんですか。講演会でのちょっとしたことがきっかけです。あるイベントで登壇させてもらったのですが、講演後に質問タイムがありました。 質問内容は「結婚や子育てについて迷っています、松村さんはどういう価値観を持っていますか。私にアドバイスをください」というもの。別に隠すつもりはなかったんですけど、講演の中では特に言っていなかったので「私、シングルマザーなんです」と会場100人の前で話したんですよ。 そしたら「触れてはいけないこと」に触れたような感じで、会場の空気が変わってしーんとなって。おそらく私のことをかわいそうだと感じたのだと思います。そのとき、自分の中にすごく違和感が生まれて。「いや、私めっちゃ幸せやで」って(笑)。 その瞬間、「形じゃなくて、本人の心が幸せや豊かさを決めるんだな」って腹落ちしました。そこから、全ては私がどう感じるか次第なんだと考えるようになりました。仕事でも子育てでも、プライベートでも友達や趣味の時間でも同じ。――あー……それは、めちゃくちゃよくわかります(笑)。そんな風に思えるようになって、自分が本当に求めていることを選べるようになった気がします。 それまでは結構優等生的な感じで生きてきて、常に他人の評価を気にしていたたんですよね。そういう考え方の枠がどんどん外れていくと、毎日が楽しくなって。自分でもイキイキしてるなと実感できるし、そういう選択をできている自分も嬉しいし。環境やできごとに振り回されず、ありのままで楽しくいられる。その中で自分の感性も研ぎ澄まされていっていると思います。そういった意味でも、私の魅力は前よりも増しているなと思えるようになりました。だからこの先結婚もあるかもと思うようになったし、もし結婚しなかったとしても幸せ、どっちも素敵やん!と。形に捉われないようになりました。つらい経験を経て、再発見した想い――仕事を今、神戸でしてるんですよね。はい。以前経営していた会社を他の人に引き継いで、自分は社長を退任して一旦全てリセットしました。出産するまでは心身ともにボロボロで仕事もできない状態だったから、リセットせざるを得なかった、ともいえるかもしれません。でも、出産後、以前と変わらず「誰かが愛をおくったり伝えたりするお手伝いをしたい」という想いが自分の中にあることに気づきました。 そしてハモンという団体を立ち上げ、2018年の11月に『おくりもの写真展』をリリース。おくりもの写真展は「これまでの想い出の写真で、写真展をつくり、そこへお相手を招待する」という空間自体がギフトになった、全く新しい形のサービスです。 親へ、妻へ、友人へなど、さまざまな形で使われています。サプライズが多いですね。食事と呼び出されてきたら、写真展だった、みたいな。みなさん涙を流して喜ばれます。最近は、『おくりもの写真展』という本の制作サービスもはじめました。写真展の本バージョンです。――ハードな経験を経て、それでも自分の人生のテーマがブレないってすごいなぁ。出産して子育てをする中で、幸せには人とのつながりが大きく影響している、と改めて気づかされたんですよね。 人とのつながりって、パートナーシップだけじゃない。家族でも友人でも。見知らぬ人に電車で席を譲ってもらったとか、おばあちゃんにみかんをもらったとか、そういうことでもすごくハッピーになれる。だから、誰かが誰かに愛をおくる場面をもっと増やしたいなと思ったんです。その一つのかたちが、今やっている写真展とブックの事業だと思っています。今は、親御さんか妻におくるというパターンのお問い合わせが多いんですが、もっとカジュアルに、今日会った人とかすれ違った人とかに何か小さな愛を手渡せるような仕組みもできたらいいなと思っていて。 おくる相手、シーン、深さ……いろんなパターンに挑戦したいなと思っています。インタビューを通じて、想いを伝えるコピーも制作。「おくりものブック」にも彼女の愛があふれている。 「全面降伏」したら見えてきた目の前の幸せ――最後に、過去の自分に声をかけてあげるとしたら、どんな言葉をかけてあげたい?「よかったね」と言うかもしれません、変な話なんですけど(笑)。今は「悲しい、つらい、しんどい」という気持ちしか持てないかもしれない。だけど、そういう出来事がなかったら考えないようなことや、出会わなかった自分自身の価値観が、あとから自分を幸せにしてくれる。豊かにしてくれる。私自身、すごく落ち込んで全面降伏って感じでした。家族や友人への報告・むこうの親御さんとの話し合い・彼の捜索・養育費問題・将来子どもになんて説明しよう・経営してた会社は誰に引き継ぐか・・いろんな問題がもうこれ以上ないくらいどさっと降ってきて、しばらく放心状態で「生き辛い」という感覚でした。半年くらい経って問題が少しずつ解決してきて、何もない平凡な一日が訪れたときに「何も起こらないことって、こんなに幸せなんだ!」って心から思って。そのとき、「平凡な毎日こそ幸せ。生きてるだけでめっちゃハッピーだな」って、感じるようになりました。すごくつらかったんですけど、「全面降伏」の出来事があったからこそ、目の前の幸せに気づくことができて、すっきりして未来も明るく感じるようになったと思います。もしかしたらこの記事を読んでいる方の中に同じような状況にある方、渦中にいる方もいるかもしれませんね。苦しんでいる人に対して「よかったね」とは言いづらいけど、もしそういうものを抱えているとしたら、あなたがまた新しいフェーズに行くときなんだね、って心の中で声をかけると思います。編集後記:傷ついた自分だからこそ見える世界もある「シングルマザーです」「未婚で産みました」。そんなことをオープンに、にっこり笑って話せるようになるまで、私はたくさんの葛藤がありました。佳依さんも、きっと同じだったのではないでしょうか。 でも、たくさんの辛いことで頭をいっぱいにするのではなく、目の前にある幸せをしっかりと見つめ、大切にすることを彼女は選んだのだな、と思います。彼女と私には「未婚シングルマザー」という共通点がありましたが、実際に会ってみたらそれ以上に「自分の人生を前向きに楽しむ同志」という不思議な連帯感を感じました。私も、彼女も、この記事を読んでくださっているあなたも、今日という日にたどり着くまでにたくさん見えない傷を負ってきたことでしょう。その傷自体を正当化する必要はないけれど、傷があるからこそ見えた世界を大切に生きていきたいなと思った、昼下がりのインタビューでした。※未婚で出産し、人生を前向きに生きている方へのインタビューは、これからも続ける予定です。私自身が「未婚出産」を目前にしたとき、不安で押しつぶされそうになったからです。「私の経験も伝えたい」という方、いらっしゃいましたらぜひ【Molecule(マレキュール)】までご連絡ください。