あなたは「働く」ことにどんなイメージを持っていますか?人生100年時代と呼ばれるいまこそ、働くことへの向き合い方が問われる時代はないかもしれません。どんな仕事にも楽しいことと苦しいことの両面がありますよね。いつもバリバリ、キラキラしているように見える方もいらっしゃいますが、それはほんの一面。誰にでもグズグズ、もんもんとしている時期はあるものです。今回お話をうかがったのは、新卒わずか3カ月で妊娠が発覚した渡辺由美子さん。彼女は「倒れても立ち上がる」キャリアを送ってきました。渡辺さんを何度も立ち上がらせてきたものは何だったのでしょうか。キャリアなしからはじまった「成長」への思い「命をあきらめる、という選択肢はありませんでした」新卒時の渡辺さんの仕事は営業でした。入社したのは上昇志向が強く、新人を叩き上げて経営者にするベンチャー企業。いつかはその一員に、と思っていた渡辺さんでしたが入社3カ月の頃、営業先で昏倒します。「仕事をやめるか、うむのをやめるか。ドクターストップをかけられました。でも、自分の中で新しい命が育っているのを見て、退職以外の選択肢はなかったですね。その頃の女性上司には、なんでそこで食らいつかなかったの、と言われましたが。」当時、授かり婚にはネガティブなイメージがありました。地元の大阪に戻ることもできなかった渡辺さんが頼れたのは、出会って数ヶ月の夫だけ。周りには渡辺さんのように20代前半で母になった、気軽に話せる友人もいません。地域のコミュニティからも会社からも離れた渡辺さんは、不安な妊娠期を過ごしました。チャレンジできる環境を探し続けた職歴がなかったため、パート・アルバイトの募集から仕事探しをしていた渡辺さん。出産後にはじめたのはイベントライターの仕事です。その頃は紙媒体からwebへと移行しつつあるメディアの過渡期で、フリーライターをしていたママ友が誘ってくれたのでした。ところが事業はうまく行かず、半年で終了することに。次に就いたのは、アパレルの店舗スタッフです。少しずつ仕事にも慣れてきてやりがいや楽しさを感じはじめていた矢先、2人目を妊娠しました。「私は働かない方がいいのかな」そう思ったこともありましたが、仕事が好きだったせいもあり、すぐ精力的に就職活動をはじめます。IPO直前の企業のバックオフィス業務を中心にさまざまな経験をしてきましたが、共通していたのはベンチャーだったこと。仕事の範囲が決まっていない創業期の企業には、チャレンジできる環境があります。「その方が楽しいし、何よりも自分自身が成長できると思っていました。」新卒カードの強さと社会人採用の難しさしかし社会人採用ならでは難しさもあります。新卒であることの価値が高い社会では、社会人は「職歴の一貫性」や「定量的な実績」が問われるからです。仕事に就くことができても、非正規の就業形態では「あなたはここまで」と言われているように感じていたといいます。「どうしてもう少しやらせてくれないんだろう。というフラストレーションを常に抱えていました。会社からすれば当たり前なんですけど。マネジメント経験もなく、大きな規模の仕事もしたことがない私に、何ができるの?いくら稼げるの?と聞かれても答えられませんから。」どこに行っても、気を抜いてはいけないと思っていた渡辺さん。しかし、そんなことを繰り返すうち「案外、大丈夫だな。わたし」と、少しずつ前向きにとらえられるようになっていったといいます。キャリアなしの焦燥感から一変「認めてもらえた」いま渡辺さんはオフィス業務代行サービスのワカルクで、正社員として新規事業の担当をしています。「代表の石川は、得意なことはなんでもやりなよ。と言ってくれました。これまで周りの期待に応えることばかりやってきた私にとって、正直、そのスタンスは苦しかったです。でも、あなたはこういうところがいいよ。と言葉にして伝えてくれる人と出会って、救われました。」新規事業へのアサインを機に大学院の短期講座で学ぶなど、渡辺さんの人間関係も仕事観も大きく変わっているようです。「働くことに夢中になれる環境をつくる。」という同社のミッションは、社内に流れる空気としても体現されています。世界の見え方が変わったら縁ができた新卒3カ月で妊娠が発覚した渡辺さんは、キャリアなしの状態から一歩ずつ進んできました。ワカルクとの出会いは予想外だったわけですが、何が彼女と同社をつないでくれたのでしょうか。そこには「他を見る行動をし続けたこと」がありました。「これまで経験したことのない仕事も見てみたい」そう考えた渡辺さんは、異業種交流できる機会を得ました。「これまで非正規で働いてきた私は、正社員と非正規の間には大きな溝があると思っていました。育児休暇を取得できるのは、キャリアを積んできた正社員だからだと思っていましたし。でも、私より10歳以上若い女性と話したことで見方が変わりました。彼女は幹部候補組のいわゆるバリキャリだったのですが、その方は私がすでに経験したライフイベントにまつわる悩みを抱えていました。キャリア女性が困ることなんてないだろう。そう思っていたのに、同じ人間だったことに気づいたんです。これまでの私には、全然見えていなかったのだな、と感じました。」女性が経験する悩みは共通していると認識できたことが、ワカルクにつながる縁になったといいます。「キャリアなしだから、社会とつながりを」と夫ネガティブを力に変えてきた渡辺さん。ただ、それができたのは渡辺さん一人の意思だけではありません。新卒3ヶ月で妊娠し退職した彼女に、夫はこう言いました。「今は苦しいかもしれないけど、社会とつながっていた方がいいよ」信じられないと当時は思っていましたが、いまにして思えばそのとおりにしてよかった、と渡辺さんは話します。”一緒にいられる”は作っていくもの実は結婚当初、1年持たないのではと周囲に言われていた渡辺さん夫婦。何度か離婚話もありましたが、最近になって「二人でよかったよね。これからも一緒にいよう。」と言えるようになってきたそうです。それは渡辺さん夫婦が、時間をかけて関係を作ってきたからのことでしょう。最後に渡辺さんのメンタリティを象徴していると思った言葉を紹介します。何度も立ち上がってこれた理由をうかがい知ることができるはずです。「今の若い世代はAIを搭載したアプリで出会うそうです。先に就活マッチングサービスは登場していましたが、ついに出会いもそんな時代になったかと思いました。私のキャリアには一貫性がありません。ですから、AIで診断されるようになったら、何のバリューも見出してもらえないと思うんですよ。それは人との出会いも同じだと思います。マッチ率が高い人と出会うのは確かに効率がいいですよね。でも、人との関係は予想できないからおもしろいと思いませんか。居心地のいいところにいるだけでは、成長できない。一緒にいられる状態を作ることも、人生の楽しみだと思います。」「私を個人として認めてくれる希少な会社、そして代表に出会えた」と渡辺さんはいまの働き方に満足しています。しかし、彼女にとってそれはゴールではなく、スタートラインなのかもしれません。渡辺さんが働く、株式会社ワカルク編集後記本文では書ききれなかった、渡辺さんのエピソードがあります。「私は自分に自信がないんです。そんなに賢くないから、必死になるしかないと思っていて。手足を動かしていないと落ち着きません。高校のときはバスケットをやっていたのですが、ベンチに選ばれたのは背が高いせいだと思っていました。だから人一倍頑張りました。いつになったら自分を認めてあげられるのかはわかりません。わがままになりたいというわけではないですが、これからは”私”という主語を持ちたいですね。」渡辺さんの当たり前の水準は、とても高いのだろうと感じました。私も自分を認めるのが苦手なタイプ。ですから、渡辺さんが自分を認められる日が来ることを心から願っています。