芸術教育士、ケーキデザイナーの太田さちかさん。「子どもとママンと地球の未来のために」をテーマに、子ども向けワークショップ教室、大人向けケーキ教室を展開。ケーキデザイナーとしても、企業・個人を問わずフルオーダーのケーキを多数、手掛けています。そんな太田さんの活動の中心であった「体験を大切にするワークショップ」のリアルな場は、コロナにより一変しました。オンライン教室での挑戦、新刊の出版、自分自身の変化とどう向き合い、どう乗り越えたかをお聞きします。教室が突然のオンライン化、気づいたメリット&デメリット―1年前、緊急事態宣言下で、それまで当たり前だったリアルの教室をオンラインに切り替えるしかない状況だったと思います。具体的にどう乗り越えたのでしょうか?今までやってきたワークショップ・教室は対面が基本だったので、オンライン開催は一つの挑戦でもありました。最初はテスト期間を作って、全て無料でやってみました。初回はzoomに自分もゲスト参加するところからでしたね(笑)配送業だけは緊急事態宣言中でも動いていたので、参加申込みのあった方にキットを届けることにしました。初めは要領もわからず、デザインやラッピングを思うようにできたのは後々のことで、本当にできる範囲でのスタートでした。でも、楽しみ・喜びをプレゼントしたい、体験を届けたかったんです。実際のキット。一つ一つ思いを込めて。初回のイースターには、40人程の参加がありました。ミュートにできず子どもたちの元気のいい声が行き交い「先生の声が聞こえません!」と大騒ぎになったり、中には画面越しにどう反応して良いのかわからず戸惑う子どももいたり、試行錯誤でした。でも子どもたちの順応力って本当にすごいんですよね、比較的すぐ克服できたと思います。特に4月~5月は学校も休校でかなり厳しい時期で、参加したみんなが「つながりたい」、「普段と違う体験を求めている」のを強く感じました。せめてオンライン教室ではその気持ちをほぐしてあげたいと、ストレスを受け止めたり、放ったりできる場所を目指していきました。実際やってみて、オンライン越しでもつながる、目に見えない空気感や体験を生み出せた実感はありました。東京の教室に来なくてもいいことが一番の発見だったかもしれません。ロンドン、ドイツなど親の海外赴任についていった子や、離島に住んでいる子でも参加出来ました。オンラインでのワークショップの様子。日本、世界の各地から参加が。一方で、オンラインのハードルもありました。例えば、子どもの手元が見えなかったり、子どもたちの感じていること、温度感や感覚が見えなかったり———自分で言葉を発しないと伝わらない環境で、子どもたちの方が苦労したと思います。オンラインは便利だけれども、一辺倒になってしまったらダメなんだろうな、とうっすらとした感覚はありました。キットを送ったことも、実際の素材を触ったり・嗅いだりを体験してもらうため。例えオンライン越しでも自分で言葉にしたり、絵に描いたり、表現してみる。やっている端々に、そうしたプロセスを入れたい思いからでした。オンラインでも、体験を届け、感じられることを自分の中では大切にしていました。 最初は、「外出自粛という期間限定」だと思っていたのですが、1年以上経ってこの先も波が続くと考えた時、リアルとオンライン、どちらも使って選択しながらできるようになろうと思っています。奇しくも本の出版とコロナ第1波が重なって―そんな最中2020年4月に新刊を出版されていますが、どんな影響や反響がありましたか?そうですね、コロナ第一波と『不思議なお菓子レシピ サイエンススイーツ』(マイルスタッフ)の本の出版がちょうど重なってしまいました。出版イベントは中止になってしまったものの、「本を通じて新しい試みができないか?」改めて考えました。無料のオンラインのワークショップに参加して、作品を提出してくれたら、本を送るようにしました。実際50名くらいから作品が寄せられ、一部は手元に残したり、以前からのつながりのあった子供地球基金に寄贈したりしました。こうして単にイベントをするのではなく、双方にコミュニケーションが生まれるように本を使っていきました。参加した子どもたちから届いた作品ありがたいことに、サイエンススイーツが「お家でできるもの」として、受け入れられた感触がありました。予想以上に買っていただいて、出版して半年で8刷までいきました。まるで本が一人歩きしてくれた感覚でしたね。 サイエンス要素が入ることで、お菓子作りがあまり好きではない子どもでも作れたり、パパも参加できたり、お家にいながら親子で楽しめるものとして広まりを感じました。今年3月には、『魔法のおやつをめしあがれ太田さちかのサイエンススイーツ』(文化出版局)を続けて出版することもできました。以前の取材でも触れされていただいたのですが、芸術と科学は、学問としては分岐していますが、根っこは同じなんです。自然のことを観察する、例えばアジサイは何で色が違うの?と思う、そこに科学の原理原則があったりします。色鮮やかなサイエンススイーツはテレビ、ラジオなど複数のメディアから取材が自分でも作品を作っていて「どうしてこうなる?」とわからない変化でも、東京理科大学の先生から「こういう原理が働いているからなんですよ」と教えていただいたり。同じ対象でも、見方を変えると変化する、そしてどうしてそうなるのか?観察するプロセスを、ワークショップでは入れるようにしています。内に向く意識ともたらされた変化―お家時間が増えたことで予想以上の反響があったということですが、太田さんご自身にも何か変化があったのでしょうか?コロナになってから、より内側に意識が向くようになりましたね。前は、もっと外から刺激を受けて、吸収して、また表現するのを繰り返していました。以前から家で仕事することが多かったこともあり、自分のいる世界を外から見ているような感覚になりました。 例えば、庭の草むしりが面倒くさかったのが、「ここにこんな花が咲いていたんだ」、「この葉っぱの形はおもしろいなぁ」という気づきが、ケーキなどの作品に表れるようになりましたね。家で使う重曹も、洗剤にもなるし、一方でお菓子作りにも使って食べられる。「不思議だなぁ~」と身近なものを、改めて感じ考えることもありました。庭の草花からインスピレーションを受けた作品そして、自分自身に目が向くようになって、以前にも増して「健康」を意識するようになりました。体って本当に基礎なので大事だなって。最近では、ジムに通い初めました。一番上の子の中学受験でお金がかかることも実感しましたし、10年先を考えた時に体が資本であることが自分の中でも見えてきて。「今日取材させてください」と、急なテレビ取材が入るハードな局面が続いて、無意識のうちに体重が減っていたり———コロナの生活も続くこと、子育てもあと10年は続くこと、そしてその後に体力がないと「本当に自分のやりたいことができない!」と思いました。ジムでは食事の計画と筋力量を細かくチェック。太田さん曰く、「お菓子だけは勘弁してください!とトレーナーにお願いしています(笑)」。子どもたちが独立した後の10年が楽しみなんです。今40代で、50代になるまではほぼ変わらないライフスタイルを維持しつつ、体力をつけたいと思っています。トレンドではなく本質的なものを見失わないように―この1年いろんな変化を経験されて、これからやってみたいこと、大切にしたいことはありますか?そうですね、海外で活躍しているアーティストさんたちとのコラボレーションは、これからも続けたいです。以前フランス在住のアビーと、オンライン中継でワークショップを開催しました。「フランスはどう?」と、片言のフランス語を使いながら会話したり、フランスの街並みを紹介してもらったり。子どもたちは、初めは恥ずかしさもあるのですが、何かしゃべりたいと思っているんですね。そうした気持ちを引き出しつつ、コンテンツとしてグローバルであること、体験の大きさは、オンラインの力を駆使して、可能性を広げられたらと思っています。今年の夏は、カナダのアーティストさんと折り紙を使ったワークショップを計画中です。そして、これからも大事にしたことを思い返すと、トレンドではなく本質的なものを大事に見失わないようにしたいです。ブームだからとサイエンススイーツにのっかるのではなく、本来の不思議さ・面白さを知ったり、見つけてみたりという、大きなバックグラウンドから始るものであってほしいです。単に色が変わっただけではなく、毎日の物事の見方が変わることを届けられたらなと思っています。サイエンススイーツのレシピで色が変わる様子最新刊『絵本のお菓子』(マイルスタッフ)で登場する絵本の名場面のうち、100年以上語り継がれているものもあります。作家の出身地に根付いたものもあって、例えば、北欧のスプーンおばさんにカルダモンというスパイスが出てきます。日本では馴染みのないカルダモンの香りを知ることで、「スプーンおばさんってこんなもの食べてたのか!」とまた未知な味との出会いになったり、想像上で旅ができたり、新しい発見があるはずです。フードはファッションに似て流行り廃れが速い側面があります。だからこそ、暮らしの中の一場面に普遍的なものを自分自身、探しているんでしょうね。自然からのエネルギーだったり、想像力だったり、人間の本能を大事にすることを、子どもたちに向き合ってこれからも伝えられればと思っています。2020年以前に開催したイベントの様子。 リアルとオンラインを掛け合わせながら太田さんの挑戦は続く。編集後記突然リアルの場が無くなってしまった・・・という話は、コロナ後よく見聞きするようになりました。太田さんも全て対面だった子ども向けワークショップを、オンラインでどう実現するか、本当に悩み、そしてものすごいスピードと試行錯誤で乗り切ってきたことが取材を通して伝わってきました。太田さんの「やってみよう!」というポジティブな意気込みが、みなさんにも伝播することを願っています。