台風のように訪れた自己啓発ブーム | 夜明けの未婚シングルマザー vol.3

2019年1月に公開し、大きな反響があった記事「子有りをコンテンツ化 ハッピー未婚シングルマザー見つけました!」でインタビューさせていただいた青柳真紗美さんの連載です。青柳さんの「わたし」を軸にした生き方、考え方は、シングルマザーだけでなく働く子育て女性の【Molecule(マレキュール)】読者にも通ずるものがたくさんあるはずです。

元気をくれる「ことば」をいつも探していた

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「ことば」を探すようになったのは、いつだったかな。

経験で補えないことや、自分自身ではどうしようもないことに出会った時、気づけば私はいつもことばを探してきました。自分を納得させ、鼓舞し、前を向かせてくれることばを。

前回、出産当時のことについて書きました。産後しばらくは、授乳・オムツ替え・睡眠・食事・入浴の繰り返し。動物的な「育児」の日々に浸っていました。1ヶ月を過ぎた頃、私は生家を出て、息子と二人、都心のマンションに引っ越しました。

妊娠中に選んだ小さな6畳二間の部屋。何もかもが新しい日々のように感じられて私は興奮していました。

引っ越しと言っても新生児と二人、荷物はベッドと最低限の家電と洋服だけ。搬入日に近所に住む友人が手伝いにきてくれて、部屋はあっという間に片付きました。それからはベビーシッター探しと託児所探しに奔走し、ほどなくして仕事にも復帰。そして突然始まったのが「自己啓発書ブーム」でした。

衝動的に買った3万円分の自己啓発書

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ある日、息子をベビーカーに乗せて書店を訪れたときにそれは始まりました。

今よりもっと露骨なノウハウ本やライフハック本が流行っていた頃。出版社はどこもこぞって「人生をもっとよくするための50のルール」みたいな本を刊行していた記憶があります。

何気なく見つめた棚にもそんな本が所狭しと並んでいて、その時はなぜか、どうしてもそのまま通り過ぎることができなかったんです。

10冊、20冊と手元に本を積み上げ、ベビーカーを片手で押しながらふらふらとレジに向かいます。細かい金額まで覚えていないけれど、確かお会計は全部で3万円くらい。家について、まず開いたのは王道の『道はひらける』(デール・カーネギー)でした。

新生児の息子との二人暮らし。家にいるときの会話は私からの一方通行です。だからこそ、「ことば」をより強く欲していたのかもしれません。


古典的なものから、心理カウンセラーの本、ビジネスマインドを整えるライフハック本、ブロガーさんの本、片付けの本など、色とりどりの書籍がベッドのカップボードに積み上げられました。

3万円分の自己啓発書を全て読み終えても私の「ことばを探す旅」は終わることなく、それからしばらくの間、同じような本を何冊も読む夜が続きました。迷子になったような気分で立ち尽くす日もありました。

「こうすれば変われる」「こうすれば願いは叶う」

多くの自己啓発書は、「変わりたい」「現状を打開したい」「今よりももっと良くなりたい」という読者の欲求に応える形で展開していきます。

まずは「ゴールを明確に描く」ことを数多くの著者が推奨しています。手帳に日付を入れて予定や計画に落とし込んだり、ゴールにたどり着くために「やることリスト」をつくったり、未来のイメージに近い写真やイラストをコラージュして自分の潜在意識に刷り込んでみたり。

ゴールを設定したら、そこにたどり着くための「努力」が始まります。

でも、決めたことを淡々と続けるのは難しいもの。周囲からの雑音も気になります。だからこそ「今に集中する」「疲労を感じている自分を労い、無理をさせない」「ご褒美を設定することでモチベーションをあげる」「環境を整える」など、多岐に渡る「がんばるためのテクニック」がいくつも紹介されます。

それらの情報は、読んでいるだけで自分が成長したような気分にしてくれました。そうした本からの学びを自分なりに体系化し、時間管理や目標達成のことを考えながら、3ヶ月ほどがんばり続けて、ふと湧いてきた一つの疑問。

「……私、変わりたかったんだっけ?」

思い返せばこの頃は「成長依存症」になっていたように思います。今までできなかったことを今日できるようになると、達成感を感じます。自己重要感も感じられます。当時の私はこの「自己重要感」に飢えていて、常に「昨日より良い自分」になることを望んでいました。

一見良いことのようですが、これはすごく自己矛盾を抱えていて「昨日より良い自分」を目指せば目指すほど、「昨日の自分」を否定することになり、辛さは増していく一方でした。

理想と現実のギャップに落ち込み、周囲にはうまくいっているように見せることばかりを考える日々。いつも何かに追いかけられているようでした。

「自分を変えること」を追いかけても幸せにはなれない

「自分を変えること」を追いかけても、そこに幸せを見いだすことは(少なくとも私は)できませんでした。

自己啓発書も自己啓発セミナーも否定はしません。ただ、私にとって本当に必要だったのは、変わることや成長することではなかったように思います。私が必要としていたのは「自分の苦しみと向き合って、しっかり癒す時間」でした。

それまでの私は、強がっていたけどすごく傷ついていました。

彼との別れ。一人で子供を産むという決断。仕事で発生した人間関係のトラブルにも悩まされていて、それらのストレスを全て抱え込もうとしていたように思います。

いつも張り詰めた想いを抱えていたのに、「大丈夫」と自分に言い聞かせていました。臭いものにフタをするように、それらの傷に向き合うことをしてきませんでした。本当は安静が必要なのに、小さな絆創膏を貼っただけ。だから、少しでも刺激されると痛くて痛くて。

自己啓発書を巡る旅では、たくさんの「新しい自分になれそうなことば」や「今を打開できそうなことば」と出会いました。それらのことばたちのうちいくつかは、地面にすわりこんだ私の手を取り、立ち上がらせ、足を一歩前に踏み出す手助けとなってくれました。

実際に仕事が効率よく進むようになったり、人間関係の整理をしてスッキリした気分になったりもしました。でも、本質的には何も解決していませんでした。なぜなら、私自身が癒されていなかったからです。

自分を受け入れるために、批判から距離をおく

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私たちに必要なことは、「変化する勇気」ではなく「受け入れる勇気」ではないでしょうか。

受け入れるというのは、過去や現在において、自分が感じてきた痛みをなかったことにすることではありません。出来事を正当化することでも、言い訳をすることでもありません。「辛かったな」「苦しかったな」という感情をただまっすぐに見つめることだと、私は思います。

辛い時や苦しい時、大抵私たちは心の中で誰かを責めます。でも誰かを責めている間は苦しみから逃れることはできません。自分や他人への批判を抜きにして、純粋に自分の感情に向き合うということは、簡単なようですごく難しいことです。

「生きづらさ」を抱える人たちに向けた情報がいたるところに溢れています。認知療法などを用いたワークブック的な本も、たくさん出版されています。幼少期のトラウマや愛着障害と、今のうまくいかない状態を関連付けて語る本も。

私もそうした書籍に幾度となく出会いました。でも、それらを読みながら思ったことは、「こころ」って素人が扱うにはすごく複雑で、時として危険なものだということ。だから、もし過去の自分にアドバイスをするとしたら、無理をせずに専門家の助けを借りてみたら?と言うと思います。

無責任な言い方かもしれませんが、時間が解決してくれることも多いでしょう。振り返って「あの時は辛かったな」と客観的にみることができるエピソードって、みんな一つや二つは持っているんじゃないでしょうか。そうなるまで、傷の原因やそれにまつわる批判から徹底的に距離をおくことも、立派な「治療」だと思います。

もしあなたが今「変わりたい」と思っているのであれば、それはなぜなのか、一度立ち止まって考えた方がいいかもしれません。

なんとなく不安だから? 安心できる保証がほしいから? 愛されていることを実感しないと怖いから?

今の自分が嫌いでも、無理して好きになる必要はないと思います。私の場合はまず「自分を好きになれない自分」を受け止めるところからはじめました。自分を好きになれないことは悪いことだと思っていましたが、それ自体に良いも悪いもないんだな、と、途中で気づきました。ただ「ああ、私は自分を好きになれないんだな」と見つめ続けました。そんな自分は、今まで苦しかったんだな、と。

その上で「こうなりたい」というイメージをもう一度振り返りました。なぜそうなりたいのかを考えてみることで、結果的に今の自分自身を見つめ直すことができたように思います。

今でもたまに「ことばを探す旅」に出たくなる時があります。でも、もう迷子になることはないでしょう。なぜなら、自分のこころや感情と向き合う時間を必要としている時なのだと、今はわかるようになったから。

これからの人生の中でまた迷うこともあるかもしれませんが、そうなったらまた「私、変わりたいんだっけ?」と問いかけてみたいと思います。

次回は、今回あまり触れなかった、自分の癒し方について。「ボロボロになったメンタルをどう休ませるか」というテーマで、書いてみる予定です。

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